豊富な鉄板焼料理が上海でヒット

中国・上海の複合施設にある「鉄板居酒屋いっちゃん」では、豚平焼きや肉や魚介などの串焼きなどの鉄板焼を手頃な価格で提供。店内イベントも実施して、人気店に成長している。

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近年、和食への注目度が世界的に高まるなか、海外に進出する日本の外食企業も増加傾向にある。アジア各国で、“日本の食”を売りにしている繁盛店を取材し、そこから、海外出店を成功させるためのヒントを探る。

バリエーション豊富な鉄板焼料理が上海でヒット!

【上海・長寧区】鉄板居酒屋いっちゃん
上海市長寧区仙霞路158号B1楼
(仙地下食堂街地下1階)
http://www.gudumami.cn/jp/sn/cs12322/
日本の創作鉄板焼を売りにした鉄板居酒屋。古いポスターなどが貼られた、ノスタルジックな雰囲気。男女比は7:3で、男性は日本人が中心だが、女性は中国人の割合が多い。

日本の居酒屋ならではの料理&サービスが好評!

中国・上海市の中心から西に約10キロのオフィス街にある複合商業施設。その地下に「鉄板居酒屋いっちゃん」は店を構えている。周辺は、日系企業のオフィスが多数集まり、昼夜問わず、ビジネスパーソンが行き交うエリア。カウンターや個室、テーブル席を備え、個室には日本や中国の映画などの古いポスターを貼り、懐かしさを感じるような空間を演出する。2017年4月のオープン時から、活気ある雰囲気のなかで味わう鉄板料理が受け、近隣で働く日本人を中心に集客。地元のテレビでも取り上げられたことで、中国人の来店も増えている。

店主の一瀬展之氏は、学生時代の中国への留学経験を活かし、上海にある日系企業に就職。その後、もともと飲食店の経営に興味があったことと、「国際的な大都市である上海で成功をつかみたい」(一瀬氏)という思いから、上海での出店を決意。2011年から知人が経営する飲食店で働きながらノウハウを学び、開業の準備を進めた。そして、知人の紹介で知り合った上海人の共同経営者とともに約1年かけて物件を探し、同じ商業施設に「いっちゃん」を含む4店舗を同時にオープンした。

“鉄板居酒屋”という業態に決めたのは、他店との差別化のため。「上海で『鉄板焼』というと、お好み焼き店か高級鉄板焼店がほとんど。様々な鉄板焼メニューを手頃な“居酒屋価格”で提供すれば、売りになると考えました」と、一瀬氏は狙いを語る。

看板の鉄板焼は、お好み焼きの生地にチーズやポテトなどを包んで焼いた「いっちゃん焼き」(35元=約588円)や、大阪名物「豚平焼き」(35元=588円)など55 種類。特に中国人から人気なのが、様々な具材を串に刺して鉄板で焼く「鉄板串」。上海の若い層の間で串料理が流行していることにヒントを得たもので、バラ肉で春菊などを巻いてから、すき焼き風に味付けして焼いた「牛すき焼き串」(16元=約270円)が好評だ。また、オープン時からランチにも力を入れており、「鉄板さば蒲焼き定食」など30種類のランチセット(38元~=約638円~)が好評。近隣に勤める中国人のビジネス層などで連日満席になるという。

人気の理由は、料理以外にもある。サイコロを振り、出た目に応じて指定のハイボールが無料や半額、メガサイズ(40元=約808円)になる「チンチロリン」が話題で、来店客の8割が利用。「上海では珍しいサービスということもあり、口コミで評判が広がりました。スタッフとお客様の接点が増えることで、サービス向上にもつながっています」と一瀬氏は笑顔を見せる。

また、「現在、中国に出店するうえで欠かせない」(一瀬氏)、スマホ決済への対応も万全だ。「上海では現金を持ち歩かない人が多く、当店では、日本人も含めて8割以上のお客様がスマホ決済。アリペイ(中国の大手モバイル決済サービス)を使って支払うと5%オフになる取り組みを行っていますが、これも特別なことではなく、スマホ決済の割引がない店は集客力が落ちると言われています」(一瀬氏)。

料理やサービスで他店と差別化をしつつ、現地の事情にも的確に対応して集客に成功。現在、来店客の割合は日本人と中国人が6対4。今後は中国人の割合を増やしたいと考えている。さらに、「現地で採用した中国人スタッフが着実に成長しているので、上海の中心部にある繁華街などにも出店して、彼らを店長などに登用していきたい」(一瀬氏)と、現地での人材育成を進めながら店舗を展開する成長戦略を描いている。

「鉄板居酒屋いっちゃん」の成功のポイント

1. パートナー

飲食店を経営する上海の知人と会社を設立。物件探しや飲食店の運営に関することなど様々な面でサポートを受けている

2. メニュー

食材は、基本的に現地調達し、リーズナブルな価格を実現。「豚平焼き」など日本の鉄板焼料理が好評を得ている

リーズナブルで種類豊富な鉄板焼メニューがビジネス層に好評!
上海で若い層に串料理が流行していることから開発した「鉄板串お任せ10本セット」(98元=約1,645円)。「サーロインステーキの串焼き」が必ず入り、ほかに「帆立のバター焼き」「豚バラとトマトの串焼き」など

豚バラ肉を、とろろ入りの生地とともに焼く「豚平焼き」は、ふわふわの食感が好評
甘エビを紹興酒などに漬けた「甘エビ紹興酒漬け」(68元=約1,142円)。中国人に人気の一品

3. 人材

中国で採用した12名のスタッフを育成。挨拶など日本の居酒屋では基本的なことも、できるまで徹底して指導している。

人材採用では向上心を重視し、挨拶などの基本を根気よく指導
スタッフは全員中国人で計12名。採用で重要視しているのはホスピタリティと向上心。「未経験者には、挨拶や返事の大切さを、できるようになるまで根気よく伝え続けるようにしています」(一瀬氏)

調理の様子を見られるカウンター。上部にあるメニューの短冊には日本語と中国語を併記
ランチのメニュー表。すべての定食に、サラダ、小鉢2品、味噌汁、デザートなどが付く

4. 販促・演出

来店客が参加できて、お得感があるサービスが好評。スタッフと来店客の接点が増えることで、サービス力も向上

来店客とスタッフが楽しく交流できる仕掛け
3つのサイコロを振り、出た目によって指定のハイボールが「無料」、「半額」、「メガサイズ」(48元=約808円)になるサービスが好評。来店客の8割がチャレンジし、売上アップに貢献している

「鉄板居酒屋いっちゃん」の主なメニュー、コース

●アラカルト(ディナー)

  • いっちゃん焼き(35元=約588円)
  • 特製豚平焼き(35元=約588円)
  • 鉄板ナポリタン(38元=約640円)
  • 鉄板牛! 豚! 鳥のメガ肉盛り(98元~=約1,649円~)
  • いっちゃん特製ポテサラ(28元=約471円)
  • とりあえず一杯目のおつまみ盛り(38元=約640円)
  • キャベ肉味噌(18元=約303円)
  • 鉄板とろ玉豚焼き(20元=約337円)
  • 鉄板オムソバ(48元=約808円)
  • 鉄板熟成ハラミステーキ(98元=約1,649円)
  • ロシアンたこ焼き(25元=約421円)
  • 鉄板チーズダッカルビ(38元=約640円)
  • 鉄板10種の野菜炒め(28元=約471円)
  • 鉄板カリカリ鳥皮(8元=約135円)

●ランチ

  • 「鉄板さば蒲焼定食」(38 元=約638円)
  • 「オムライス」(38元=約638円)
個室には、日本や中国の映画の古いポスターがびっしりと貼られ、ノスタルジックな雰囲気を演出している

店舗データ

業態   居酒屋
オープン 2017年4月
席    55席
客単価  昼/40元(約671円)夜/180元(約3,022円)
客層   近隣の日系企業に勤めるビジネス層が中心で、日本人が7割。年齢層は20~50代と幅広い。

※1人民元(文中では「元」で表記)=約16.7円(2018年7月)

店主 一瀬 展之(のぶゆき) 氏
大学在学中に中国・西安へ留学。大学を卒業後、中国や日本で飲食店を経営する上海の知人から店舗経営のノウハウを学び、2017年に上海で開業し、現在4店舗を展開。

上海の基本情報

面積     6,340.5km2
人口     約2,415万人
言語     普通語(北京語)、上海語
通貨     人民元
飲食店数   約18万店舗(日本料理店/約3,600店)(2016年)
個人の年間平均所得 59,000元(約95万円)(2017年)

「鉄板居酒屋いっちゃん」の周辺エリアの特徴

店舗にほど近い場所に日本領事館があり、周辺には日系企業が数多く入るオフィスビルやコンベンションセンター、ホテルなどが集まる。上海市の中心地や地元の人が足を運ぶ繁華街からはやや離れている。

出典:上海統計年鑑、上海市統計局、中国統計局