映画『彼女の人生は間違いじゃない』 - エンタメレストラン -

2017/07/07

エンタメレストラン

Vol.140
彼女の人生は間違いじゃない
7月15日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
http://gaga.ne.jp/kanojo/
© 2017『彼女の人生は間違いじゃない』製作委員会
【イントロ&ストーリー】
『ヴァイブレータ』(2003年)、『さよなら歌舞伎町』(2014年)などの廣木隆一監督が、自身の処女小説を映画化。震災から5年後の福島(監督自身の出身地でもある)を舞台に、市役所勤務を続けながら週末は高速バスで渋谷へゆき、デリヘルのアルバイトを続ける主人公をはじめ、進む未来も見えず、もがきぶつかり合いながらも光を探し続ける若者たちの姿を描く。
★福島県内の市役所に勤める金沢みゆき(瀧内公美)は、週末がくると東京行きの高速バスに乗り込み、渋谷のデリヘルでアルバイトをしている。三浦という店の男(高良健吾)にラブホテルまで送り届けられ、月曜日になると市役所勤めに戻る日々。仮設住宅でともに暮らす父親の修(光石研)には、東京の英会話教室に通っていると嘘をついていた。母は震災で亡くなり、農業ができなくなった父は生きる目的を見失い、震災の補償金をパチンコにつぎ込んでいる。昔付き合っていた山本(篠原篤)から復縁を持ちかけられるが、みゆきは心を決めきれない。そんなある日、三浦が突然、店を辞めた。みゆきは三浦がいると聞いた、ある意外な場所を訪ねるのだが…。
【キャスト&スタッフ】
監督・原作:廣木隆一
出演:瀧内公美、光石研、高良健吾、柄本時生、篠原篤、蓮佛美沙子ほか
主題歌:meg「時の雨」(Gambit Records)
配給:ギャガ
※R-15指定

悲しみは癒えない、消えない。でも人は、生きている限り腹が減る
福島と東京を行き来しつつ、“喪の作業”に身をゆだねる主人公の姿

 小説やコミックの映画化、というのはよくあるケースだが、こういう展開はなかなか珍しいのではないか。売れっ子のディレクター……もうキャリアの長いヒットメーカーが初めて小説を執筆し(2015年 河出書房新社刊)、それを自らの手で映画に! 廣木隆一監督の『彼女の人生は間違いじゃない』のことである。

 本の帯には簡潔に、基本設定が書いてある。「震災後、恋人とうまく付き合えなくなったみゆき。仮設住宅で父と二人で暮らす彼女は、役所勤めのかたわら、東京でデリヘルを始める」。廣木監督といえば近年では『ストロボ・エッジ』(2015年)、『オオカミ少女と黒王子』(2016年)、『PとJK』(2017年)など、若手人気俳優のヒット作で知られるが、どうやらそれらとは完全に趣(おもむき)の違う内容。まず、ハッキリさせておこう。廣木監督は福島県郡山の出身で、震災後、郷里を舞台にしたこの小説を書かなければ“気持ち”が収まらなかったのだ。

 さて映画の、ヒロインの登場シーンである。みゆきは朝、目覚めると、炊飯器のフタを開け、炊きあがっている白米にシャモジを入れる。湯気が一段とふわっと上がる。が、みゆきの表情には生気がない。やがて小皿に少量を乗せ、お供えをすると、両手を合わせる。母親へ、だ。震災で亡くしたのだろう。そう、あの東日本大震災から5年。だが悲しみは癒えない。消えやしない。それでも人は、腹が減る。生きている限り。まだ布団の中の父親に向かって、「ご飯、できてるから」と言い残すと、彼女は仕事に出かけていく。

 週末、彼女は“もうひとりの自分”になる。高速バスで東京に向かい、電車を乗り継いで渋谷で、YUKIという名でデリヘル嬢のバイトをしているのだ。父親には「東京の英会話教室に通っている」と嘘をついて。その父親は土壌汚染で農業の仕事ができなくなっており、支給された補償金でパチンコ屋に入り浸る日々。不条理な現実である。どうしようもできない。あの日から止まってしまった時間を、否応なく受け入れ、だがもがき、苦しみ、気がつけば、無為に1日が終わっていて、また新たな朝がやってくる。

 廣木監督の代表作のひとつに、『ヴァイブレータ』(2003年)があるが、その原作者・赤坂真理が次のような文章を小説の帯に寄せている。「大きすぎる衝撃や喪失があったとき、人には“喪の作業”が必要だ。それがパチンコやデリヘルでも。行きつ戻りつ少しずつ癒える、“時間そのもの”が、ここには描かれている」と。それは、この映画にも当てはまることだ。オーディションで“みゆき役”に選ばれたのは瀧内公美。昨年は『日本で一番悪い奴ら』(2016年)の女性警官役で強烈な印象を残したが、現在放送中の蚊取り線香のCMで藤原竜也に背後から近づき、「だーれだ?」と目隠しをする女性、と記せばわかるだろうか。全編、彼女の物憂げな表情と、やるせない、寄る辺のない存在のありようが素晴らしい! “喪の作業”に身をゆだね、自分自身と対話していくさまが静かな感動を呼ぶ。

 思えば、登場シーンの炊飯器の前でひとり佇む彼女もまた、自分自身を見つめていたのであった。白いお米はさながら、「みゆきとYUKI」のあいだの、その心を映し出す鏡のようなもの、だったのかも。映画を最後まで見届けていただければ、これが言い過ぎではないと、きっとわかってもらえることだろう。

Text by 轟夕起夫(映画評論家)
「キネマ旬報」「映画秘宝」「ケトル」などで執筆中。近年の編著に「好き勝手夏木陽介スタアの時代」(講談社)など。雑誌「DVD&ブルーレイでーた」で連載した名物コラム『三つ数えろ!映画監督が選ぶ名画3本立てプログラム』も単行本化。取材・構成を担当した『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』がスペースシャワーブックスより発売中。
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