映画『彼女がその名を知らない鳥たち』 - エンタメレストラン -

2017/10/20

エンタメレストラン

Vol.147
彼女がその名を知らない鳥たち
10月28日(土)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー
http://kanotori.com/
© 2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会
【イントロ&ストーリー】
20万部を超えるベストセラーとなった沼田まほかるの同名ミステリー小説を、『凶悪』(2013年)、『日本で一番悪い奴ら』(2016年)の白石和彌監督が映画化。地位も稼ぎもない15歳上の男に食わせてもらいながら、昔の男を忘れられない女。嫌がられながらも女に執着し、かいがいしく世話を焼く男。共感できない登場人物たちの愚かな行動を通して、人が抱えた闇と愛に迫る。
★8年前に別れた男・黒崎(竹野内豊)を忘れられない十和子(蒼井優)。今は15歳上の貧相な男、陣治(阿部サダヲ)と暮らす彼女は、その下品さを激しく嫌悪しつつ、陣治の稼ぎで働きもせず暮らしていた。ある日、十和子は黒崎と似た雰囲気を持つ水島(松坂桃李)と出会い、情事に溺れていく。それからしばらくして、十和子は訪ねてきた刑事から、黒崎が行方不明だと知らされる。どんなに嫌われても「十和子のためなら何でもできる」と言う陣治が、執拗に自分をつけ回していることに気付いた十和子は、黒崎の失踪に陣治が関わっているのではないかと疑い始める。
【キャスト&スタッフ】
出演:蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、竹野内豊、村川絵梨、赤堀雅秋、赤澤ムック、中嶋しゅう
監督:白石和彌
原作:沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」(幻冬舎文庫)
配給:クロックワークス

家事を一切しない女と、尽くし続ける年上のダメ男
人間の“負性”を描いてきた白石和彌監督の新境地

 ここに、「家事を一切しない女」がいる。名前は「北原十和子」。沼田まほかるのミステリー小説を映画化した、『彼女がその名を知らない鳥たち』のヒロインだ。十和子を演じたのは蒼井優で、映画が始まるや、いきなり観る者の心をざわつかせる。いちいち癇に障る行動、イライラとさせる一挙手一投足で!

 十和子は身勝手で尊大、悪質なクレーマーの顔を持ち、15歳年上の中年男・佐野陣治(阿部サダヲ)と同居している。が、「同居」といっても恋愛感情はゼロ。むしろ対する態度は嫌悪感に満ちており、時には足蹴にさえする始末。一方、陣治のほうは、どうかと思うほど十和子に惚れていて、無理をしてまで彼女のために今のマンション(の一室)を購入した。そればかりか、彼のなけなしの稼ぎは、毎日をのんべんだらりと過ごすこのパラサイト、ヒモ状態の十和子に無償で与えられる。ほとんど金ヅルみたいなものだ。

 ずいぶんと「無体な仕打ち」と言おうか。いや、原作をすでに読んでいる方々なら何も驚かないだろうが、十和子の本格的な“無体”はこれからである。腕時計の修理を出した高級店にクレームをつけたのがキッカケで、売り場主任の水島(松坂桃李)との不倫に走り、それでいて、もう8年も前にこっぴどく捨てられた昔の男・黒崎(竹野内豊)のことをいまだ深く引きずっている。つまりは、とても“厄介な女(ひと)”なのであった。

 しかし、陣治も陣治だ。工場勤めでいつも油まみれになってしまうのは仕方ない。が、根が下品で不潔で粗野。それは物の食べ方にも表れていて、「もう少しどうかしたら……」と、端から見ていても感じる。しかも十和子のことを愛し過ぎていて、異様なほどの執着を見せ、日に何度も電話をかけては、ストーカーまがいに尾行すらする。これまで実話ベースの『凶悪』(2013年)や『日本で一番悪い奴ら』(2016年)などで、振り切れた人間どもの負性をダイレクトに描いてきた白石和彌監督だが、今回はどうしようもない「男と女」の関係にグッっと踏み込んで、深掘りしてゆく。

 舞台となるのは大阪。で、どうしようもない「男と女」の関係といえば、映画や舞台、テレビドラマにもなった織田作之助の傑作小説『夫婦善哉』が即座に思い出される。『夫婦善哉』では「自由軒」のカレーや法善寺横丁のぜんざい屋が、物語を有機的に動かしていた。この『彼女がその名を知らない鳥たち』の場合は、十和子が家事を一切しないので、陣治が作る。とはいえ、粗忽者であるから、手の込んだ料理なんて到底できない。時間のないときは惣菜の天ぷらを買ってきてうどんを茹で、ちょっと凝ったとしても(十和子の好きな)シチューを。解凍したステーキ肉をささっと焼いて終わりということも。

 にしても、「十和子のためなら何でもできる」と言ってはばからぬ、陣治の献身ぶりには呆れるのを通り越して驚かされる。なぜにそこまで……本作のミステリーの“核心”はここにあるだろう。映画が進行してゆくにつれて、ミステリーの点と線が徐々に明らかになってくる。半ば人生を諦めてしまった女、十和子の悲惨な過去。昔の男・黒崎のヒドさと、5年前に失踪しているという事実。それと軌を一にして、黒崎の名前を口にしなくなった陣治の態度の変化。そして現在、十和子と不倫をしている水島のゲスさ。どうしようもない「男と女」の関係が織りなす“サスペンス”と“サプライズ”が相乗するクライマックス! その行き着くラストをどうか厳粛な気持ちで見届けてほしい。

Text by 轟夕起夫(映画評論家)
「キネマ旬報」「映画秘宝」「ケトル」などで執筆中。近年の編著に「好き勝手夏木陽介スタアの時代」(講談社)など。雑誌「DVD&ブルーレイでーた」で連載した名物コラム『三つ数えろ!映画監督が選ぶ名画3本立てプログラム』も単行本化。取材・構成を担当した『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』がスペースシャワーブックスより発売中。
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