映画『火花』 - エンタメレストラン -

2017/11/02

エンタメレストラン

Vol.148
火花
2017年11月23日、全国東宝系にてロードショー
http://hibana-movie.com/
© 2017「火花」製作委員会
【イントロ&ストーリー】
第153回芥川賞を受賞した又吉直樹のベストセラー小説「火花」を、先輩芸人でもある板尾創路監督が映画化。漫才の世界に身を投じるも、結果を出せず底辺でくすぶっている青年・徳永と、強い信念を持った先輩芸人・神谷が出会い、様々な壁に阻まれ葛藤しながら歩み続ける青春物語。徳永を菅田将暉、神谷を桐谷健太が演じる。
★若手コンビとしてデビューするも、まるで芽が出ないお笑い芸人の徳永(菅田将暉)。彼は、営業先の熱海の花火大会で先輩芸人・神谷(桐谷健太)と出会う。神谷は常識の枠からはみ出た漫才を披露。魅了され「弟子にしてください」と申し出た徳永に対し、神谷は「俺の伝記を書いてほしい」と頼む。その日から徳永は、神谷との日々をノートに書き綴ることに…。
【キャスト&スタッフ】
キャスト:菅田将暉、桐谷健太、木村文乃、川谷修士、三浦誠己、加藤 諒、高橋 努、日野陽仁、山崎樹範
原作:又吉直樹著「火花」(文藝春秋 刊)
監督:板尾創路
脚本:板尾創路、豊田利晃
配給:東宝

飲んで笑って、泣いて罵倒して。そして、ボケ倒した10年間
最高のパートナーを得た2人の喜びが伝わる居酒屋シーン

 又吉直樹の芥川賞受賞作が、板尾創路の手によって映画『火花』となった。原作はベストセラーとなり、すでにNetflixで連続ドラマ化され、その後、NHKでも放映されたので、 物語自体はすでに広く知られているだろう。

 中学の同級生・山下と漫才コンビ「スパークス」を組みながら、世間的に“売れた”と認識されるにはほど遠い場所にいる主人公・徳永は、ある夏、熱海の花火大会で先輩芸人・神谷と出会う。彼は「あほんだら」のボケ担当。徳永もボケ担当。即座に意気投合した2人はこの後、10年にわたる交際を重ねるが、どちらのコンビも“売れる”という流れにうまく乗ることができない。いや、むしろ神谷の場合、あえて乗ろうとしていないのではないだろうか。

 監督の板尾創路は、言うまでもなく誰もが知る芸人で、映画監督としても『板尾創路の脱獄王』(2010)、『月光ノ仮面』(2012)で壮大な一発ギャグを作品でかますなど、シュールな作風で知られている。その板尾と共同脚本を書いた豊田利晃も、アグレッシブな人間ドラマで知られる映画監督。この2人がタッグを組んだ『火花』だからどれだけ過激になるのだろうと予測していたら、観ている間、2人の名前も存在もすっかり忘れてしまうほどスタンダードに、原作に忠実に撮られている。ドラマの方に強く漂っていた“暴走する天才”神谷(浪岡一喜)と、その背中を追いかけようとする後輩・徳永(林遣都)のヒリヒリとした関係性は、映画版ではむしろ希薄だ。しかし、だからこそ、徳永を菅田将暉が演じ、桐谷健太が神谷に扮した映画『火花』は奥深い。

 映画版の神谷は、ドラマのようにカリスマ感あふれる、ナイフの刃のような人として造形されていない。桐谷が演じる神谷はむしろどっしりしていて、何事にも動じない人としてスクリーンに現れる。だが彼は、阿吽の呼吸で言葉を交わせる相手を求めてもいる。そんな時に出会った徳永は、神谷の何気ない質問に対してボケまくるのだ。

「お父さんになんて呼ばれてたん?」「オール・ユー・ニード・イズ・ラブです」 「お前は親父さんをなんて呼んでんの?」「限界集落」 「お母さん、お前のことなんて呼ぶねん?」「誰に似たんや?」 「お前はお母さんを、なんて呼ぶねん?」「誰に似たんやろな」

 原作でも出会いの場面は鮮やかだけれど、柔らかい大阪弁で菅田演じる徳永と桐谷演じる神谷がポンポンポンと間髪入れず言葉を交わしていく、そのリズム。大阪の笑いは攻撃的とよく言われるけれど、むしろ自分の身を削って客を笑わせる自虐的笑いに神髄があり、しかもその痛さを感じさせないのが粋でもある。

 なぜ痛さを感じないかというと、そこには関西の男同志の文化ともいえる「イジリ倒す」文化も関係しているだろう。お互い相手の才覚を認め合うからこそ、イジメ一歩手前にさえ思えるイジリの言葉を遠慮なく吐き出せて、畳みかけられる。つまりは「し倒す」。相手を身内と認めるからこそ、そのツッコミは他者へのイジメではなく、自虐的な笑いへと転じ、痛さを吹き飛ばす。初期のダウンタウンの笑いもそうだった。例えば関西出身のバンドマンたち──「夜の本気ダンス」や「フレデリック」「空きっ腹に酒」たちの間で交わされるラジオ、ツイッターでのやり取りにも通じる。映画『火花』では、徹底的にイジリ倒す相手を得た喜びが前面に描かれ、このやり取りが10年にも及ぶのである!

 実は、このイジリ倒しあう関係性が、芸人とお客との間に共有されるまで広がった状態を“売れる”というのだが、神谷と徳永は、この楽しみを多くの人へと広げることができない。だが、その悲しみよりも、お互いに思いきりイジリ倒せる相手と出会えたうれしさが強調されるのは、エンタメの世界で生き抜いてきた板尾創路と豊田利晃の実感なのかもしれない。

 さて、映画の中では、実にたくさん酒の場面が出てくる。徳永が神谷を自分が間借りする女性の家に無理やり連れて行って、鍋を食べさせる場面は二度出てくるが、一度目は単純に楽しかった場が、二度目はいろんなものをなぞるようになった神谷の人生の苦渋が、滲み出るものとして繰り返される。

 そして原作でも印象的に出てくる吉祥寺、ハーモニカ横丁にある居酒屋「美舟」に通って神谷と徳永が注文するのは「肉芽」。一瞬、ぎょっとするネーミングだが、豚肉とニンニクの芽を炒めたものだという。万年的に金欠な彼らは、この一皿を肴に延々と酔い倒す。神谷と連絡が取れなくなってからも徳永はここに通い、1人で肉芽を注文するのだ。

 それにしても10年間。嬉々として会って、飲んで笑って、泣いて、罵倒して。そしてボケ倒す。これ以上、幸せな関係性があるだろうか。

Text by 金原由佳(映画ジャーナリスト)
「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」「朝日新聞」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。取材・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』『鈴木亮平 FIRST PHOTO BOOK 鼓動』(すべてキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)が発売中。
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