映画『万引き家族』 - エンタメレストラン -

2018/06/01

エンタメレストラン

Vol.162
万引き家族
6月8日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/
© 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
【イントロ&ストーリー】
第71回カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した、是枝裕和監督最新作。生計のために家族ぐるみで軽犯罪を重ねる一家を通し、人と人との関係が希薄な時代に、真の “つながり”を問う。様々な“家族のかたち”を描き続けてきた監督が、「この10年間考え続けてきたことを全部込めた」と語る問題作。
★東京の下町。工事現場の日雇いとして働く治(リリー・フランキー)は、妻の信代(安藤サクラ)、息子の祥太(城桧吏)、信代の妹・亜紀(松岡茉優)と4人で、年老いた母親・初枝(樹木希林)の家に転がり込んでいた。高層マンションの谷間に取り残された、質素な平屋。目当てはわずかばかりの年金で、それでも足りない生活費は万引きで稼いでいた。冬のある日、近所の団地の1階で震えていた幼い少女を、見かねた治が家に連れ帰る。身体中にやけどやアザがある彼女の境遇を思いやった信代は、“家族”の一員として育てることにするが…。
【キャスト&スタッフ】
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、高良健吾、池脇千鶴、樹木希林
監督・脚本:是枝裕和
配給:ギャガ

血縁だけではない、食卓を通じて作られる人と人の繋がり
この時代に是枝裕和監督があらためて問う“家族のかたち”

 足かけ8年担当した「エンタメレストラン」。筆者が担当する最後の作品を考えたとき、この人の作品が真っ先に思い浮かんだ。今年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した『万引き家族』。

 是枝裕和監督は「家族とは何か?」をずっと作品の中で問いかけている映画監督だ。例えば、血縁関係は家族に対してどこまで有効なのか。時間や記憶の積み重ねは家族の重心となりえるか。親と子を結び付け、分かち、絶つ愛憎関係とは何なのか──。そんな思考を、年齢を重ねるごとにアプローチを変えて描いてきた。

 と同時に、どの作品にも「これこそ家族だ」という、もはや監督の祈りにも似た宗教的な意味を持つ描写があって、それはやはり食の場面にほかならない。普段はどんなに不平不満を連ね、互いに満足していない家族でも、ともに食事をするときだけは無条件にほっとし、そこに平穏が訪れる。逆に言うと食を大切にしない家族は、彼の映画の中ではもはや家族とは言えない別のものに変容しているとも言える。

 『万引き家族』はタイトル通り、日々の暮らしに足りない食材や日用品を、万引きという犯罪行為で埋め合わせている家族の物語だ。舞台は東京のとある下町の、周囲をぐるりと高層マンションに囲まれた平屋の一軒家。冒頭から衝撃的で、工事現場で働く父の治(リリー・フランキー)と息子の祥太(城桧吏)がスーパーで、まるでスポーツをするように息の合ったコンビネーションで商品を盗むところから幕を開ける。その帰り、商店街で揚げたてのコロッケを買って帰る途中、2人はある集合住宅のベランダに放置され、寒さに凍える幼女を見つける。

 まるで捨て猫を見つけたかのように、治は食べかけのコロッケを「食べるか?」と差し出す。それを見て、かすかにつばを飲み込む幼女(佐々木みゆ)の表情が何とも言えず、ここからすでに、子どもの演出に類まれなアプローチをする是枝監督の狙いが光る。

 家に連れて帰ると、治の妻・信代(安藤サクラ)や信代の妹・亜紀(松岡茉優)は「これは誘拐だ」と抗議をするが、差し出されたうどんをおいしそうに食べる幼女を見ると何も言えない。一度は集合住宅に女の子を返しに行ったものの、部屋から漏れ伝わる「望んで生んだわけじゃない」の声で、再び連れ帰ってしまう治。そして決定的な出来事となるのが、その晩の一家の夕食──豚バラのすき焼きだ。煮えたぎる鍋に麩を見つけた幼女は目を光らせる。「お麩が欲しいの?」と優しく聞く亜紀に、「うん」と力強く頷く幼女。高級食材とは言えない食材をがっつく幼女に、これまでの彼女の食生活を想像し、一家はどうしてもその子を元の家に戻せなくなってしまう。

 是枝監督は、法を犯す家族の在り方を通して、何をもって家族とするのかを問いかける。

 ケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2017年)と同様に、行政によるセーフティネットから零れ落ちてしまっている一家の暮らしは貧しい。今回、スクリーンに出てくる料理は、これまで是枝監督が撮ってきた『歩いても 歩いても』(2008年)や『海街dairy』(2015年)での豊かな献立とは対照的に、ゆでたトウモロコシ、大鍋で作る野菜たっぷりのインスタントラーメン、夏の日の素のソーメンなど、簡単なものばかり。それでも、何があっても、家族そろって食卓に向かう一家の風景は、それが仮初めの姿であろうと、確かな家族の風景として力強く肯定されるのだ。

 
Text by 金原由佳(映画ジャーナリスト)
「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」「朝日新聞」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。取材・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』『鈴木亮平 FIRST PHOTO BOOK 鼓動』(すべてキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)が発売中。

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