イタリア発 人気を集めるデリバリー&ケータリング 前編

食に関してとても保守的で新しいものになかなか手を出さないイタリア人が、今夢中になっているのがデリバリーやケータリングだ。今回はイタリア全土で急成長する話題のデリバリーをリポート。

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Vol.49

食に関してとても保守的で、新しいものになかなか手を出さないといわれるイタリア人たちが、今夢中になっているのが、デリバリーやケータリングだ。2012年にはイタリアの外食産業におけるデリバリーサービスの売上・利用者数が、それぞれ前年比25%増を記録(ジャスト・イート調べ)。今年はさらなる増加が見込まれている。ブームになるのに時間がかかったからこそ、成熟し完成された事業形態のみが受け入れられ、生き残っている。前編では、イタリア全国で急成長中のサンドウィッチデリバリーショップ「トラメッズィーノ・プント・イット」、そしてオンラインデリバリーネットワークの最大手「ジャスト・イート」のサービスを紹介する。

「トラメッズィーノ・プント・イット」は、サンドウィッチをしゃれたパッケージで提供。従来のデリバリーやケータリングと差別化し、成功している好例だ
デリバリーブームをとりあげる新聞、雑誌も増えている。写真はイタリア3大紙のひとつ「ラ・レプブリカ」2013年7月8日の記事
photo by Cuochivolanti
「ジャスト・イート」は現在世界13カ国で約3万6,000軒が加盟し、年間5,000万件の受注、180万人のFacebookファンを持つ。イタリア国内では約1,000軒が加盟中

忙しく、オシャレにもうるさい“ミラネーゼ”の心をつかんだデリバリー

2002年イタリア北部のミラノで誕生した「トラメッズィーノ・プント・イット」(Tramezzini.it)は、約20種類に及ぶサンドウィッチ(トラメッズィーノ)と飲み物、サラダ類、デザート類をオンラインで販売し、デリバリーする。主なターゲットはビジネス層で、ビジネスミーティングやオフィスのランチタイムなどに狙いをつけている。小さくて食べやすく、ヘルシーなトラメッズィーノをオシャレなパッケージに包んでオフィスにデリバリーする。イタリアでは、デリバリーといえばピッツァもしくはパーティ料理のケータリングしかなかったため、このアイデアは画期的で、忙しく、かつオシャレへの関心も高い“ミラネーゼ”(ミラノっ子)たちに人気を博した。

「トラメッズィーノ・プント・イット」の商品はどれも3.2ユーロ(約420円)と一般的なバールで売られているものより若干高めだが、具は肉類、魚類、野菜、チーズ、プロシュートなどバラエティに富み、質も高い

2006年にはトリノ(ミラノから南西に約150km行ったイタリア第4の都市)のほか、イタリア4都市でサービスをスタート。ネットオーダーしたサンドウィッチを食べながらであれば、短い昼休みが有効に使えると、会社員たちがグループでオーダーすることも多い。配送料は1~12ユーロ(約130~1,570円)と距離によって変わるが、何人かで割れば割高にはならない。社員食堂を作るよりも経費削減になると、法人契約している企業もあるという。

今年、トリノにはテイクアウト用の路面店もオープンした。観光や公園を散歩する人のための「公園セット」は、サンドウィッチ2個と飲み物、デザートで7.9ユーロ(約1,030円)。いろんな種類を試したい人には、ミニサンドウィッチ8種類が入ったセット(7ユーロ=約920円)もある。また、パーティ用のセットボックスなどの新商品も用意。「イタリアでは子供の洗礼式や大学の卒業パーティなど、人をもてなす機会が本当に多いのです。人とはちょっと違うもてなしをしたいという人たちの間で、口コミで広まっています」と広報担当のヴァレリア・サングイネーティ氏。勢いに乗って2014年からはフランチャイズ化を開始し、1号店をイタリア中部のフィレンツェにオープンする予定だ。

トリノの店舗ではおいしさを保つため、サンドウィッチを個別包装し、冷蔵ケースに美しく陳列。肉系はオレンジ、ツナなど魚系はグレ-など、色分けされたステッカーもしゃれている
パーティセット用のボックス。トラメッズィーノ48個入りで70ユーロ(約9,160円)。箱を開くとそのままプレートに。カトラリーが必要なく、食べる側、提供する側ともに手軽だ
SHOP DATA
トラメッズィーノ・プント・イット トリノ(Tramezzini.it Torino)
Via Fratelli Calandra 18/20 10123 Torino
http://www.tramezzino.it/

世界最大のデリバリーネットワークがイタリアにも上陸

一方、「ジャスト・イート」(Just Eat)は、2001年にデンマークで誕生したオンラインデリバリーネットワークで、現在世界13カ国の様々なジャンルの飲食店が同サービスに加盟しており、業界最大手に成長している。客がWebページに住所を入力すると、ジャンルを問わずデリバリーが可能な店の一覧が表示され、店と料理を選んでオーダーするシステムで人気を集めている。そんな「ジャスト・イート」が、2011年にイタリアにも上陸した。加盟店は、ピッツェリアを中心に、チャイニーズ、寿司、日本料理、エスニック、そしてイタリア郷土料理からベジタリアン料理までジャンルは驚くほど幅広い。

「ジャスト・イート」のデリバリーバッグ。袋に書かれたコードを次回オーダー時に入力すると割引サービスがある

上陸から2年でイタリアでの加盟店が1,000軒まで膨れ上がった理由はいたってシンプル。初期投資は最小限にデリバリー事業が始められ、顧客を増やすことができるからだ。その仕組みは、売上のマージン約11%を支払うだけで、宣伝広告からオーダーの受注や顧客管理、そしてデリバリーのノウハウ教育まで「ジャスト・イート」がやってくれるというもの。また加盟店には、客からのオーダーがダイレクトに届きプリントアウトされる受信機が配布されている。この受信機のおかげでオーダーミスなどの問題も発生しない。特にエスニック系の料理店では言葉に問題がある場合が多く、電話受注の必要がないとなれば店側のストレスは激減する。

一方、客側にとっても、その日の気分で食事を選ぶ楽しみがあり、一度登録してしまえば購入方法がいつも同じというのはとても便利。しかもオーダー時に(つまりネット上で)カードで支払えば割引サービスもある。電話で自分の家が配達可能区域かどうかを確認したり、釣り銭に気を使ったりという煩わしさもない。この人気を受け、同様のシステムを持つオンラインサービスが今、イタリアで急増中だ。

ほかの先進諸国に比べ遅れてやってきたデリバリー文化が急速に発達するイタリアでは、次々と新しいスタイルのデリバリーが生まれている。後編では、若い料理人&アーティスト集団の「クオキヴォランティ」のケータリング、そして世界最速列車「イタロ」の車内デリバリーを紹介する。

専用の受注機からプリントアウトされる注文表には、オーダーはもちろん配達先、受注時間、住居の形態などが細かく記載されている
加盟店舗は店頭にステッカー(右)を貼ることができる。顧客調査の結果、高い評価を受けた店を表彰する制度もある
SHOP DATA
ジャスト・イート(Just Eat)
http://www.justeat.it/

取材・文・写真/宮本さやか

企画・編集/料理通信社

※通貨レート 1ユーロ=130.9円

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