米国発 カリフォルニアで白熱するフードトラック 後編

アメリカ西海岸でブームとなっているトラックにキッチンを搭載して料理を販売する「フードトラック」。後編ではエコに配慮するフードトラックと、SNSを活用して集客するフードトラックを紹介。

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Vol.74

トラックにキッチンを搭載して料理を販売する「フードトラック」は、低予算で飲食業を始められると、アメリカ西海岸でブームとなっている。高級食材を使ったメニューを手軽に、リーズナブルな価格で販売できるというメリットがある反面、「使い捨て食器でゴミを増やす」「トラックから出る排気ガスが大気汚染の原因になる」というデメリットも挙げられる。また、固定の店舗がないため、どうやって集客し、常連客を獲得するかという課題もある。後編では、“エコ”にも配慮して注目を集めるフードトラックと、SNSを活用した移動式店舗ならではの常連客とのコミュニケーションについて紹介する。

太陽光発電パネルを設置し、冷蔵庫や電灯の電力に使用するフードトラック。エコに配慮した営業が支持されている
フードトラックの車体にフェイスブックやツイッターなどのロゴを描いて、SNSの活用を積極的にアピール
フードトラックの営業で課題である食器などのゴミの問題は、原料が片栗粉などでできているリサイクル可能な食器を使用することで解消している

車の燃料や電力、食器、食材、すべてにエコを意識し、支持を獲得

エコなフードトラックとして注目を集めているのが、ロサンゼルスの「グリーントラック・オン・ザ・ゴー」(Green Truck On the Go)だ。「ウォール・ストリート・ジャーナル」や「USAトゥデイ」といった有力メディアの「フードトラックトップ10」に選出されたり、アメリカの4大ネットワークの1つ、CBSのトーク番組「ザ・ドクターズ(THE DOCTORS)」で紹介されるなど、数々のメディアに取り上げられて話題になっている。

人気No.1のメニュー「マザートラッカー・ビーガンバーガー」。パティには甘みのあるビーツと高たんぱく質のケールを使い、十分な満腹感が得られる

同店は持続可能な社会「サスティナブル」を担うことをモットーに、エコに配慮し、オーガニック食材を使ったハンバーガーやサラダを提供する店として、2006年、共同経営者のミッチェル・コリア氏とカム・ミセリ氏がスタートさせた。例えば、フードトラックの燃料にはバイオディーゼル燃料(石油ではなく、植物や生物から作られる、環境に配慮したディーゼルエンジン用燃料)を採用。調理で実際に使用した植物油を燃料として再利用するという徹底ぶりだ。「植物油を精製するための施設をケータリング部門やフードトラックを管理するオフィスの横に設置しています」とコリア氏。

また車の天井には、3フィート×4フィート(約91cm×122cm)の太陽光発電パネルを4枚取り付け、トラック内の冷蔵庫や照明の電力をまかなう。さらにプレートやスプーン、フォークなど食器は、片栗粉などを固めて作られたものを使い、「使用後のプレートやスプーンなどはお客様に協力してもらって回収し、コンポスト施設に持参します。そこで堆肥にして、農家に使用してもらい、ゆくゆくはその堆肥を使った土から私たちが食べる農作物が生まれる。こうして資源を循環していくわけです」とコリア氏。

提供する主なメニューは4種類。野菜は、農薬を使用しない地元農家の有機農作物を中心に、乳製品や卵も安全性の高いものにこだわる。生産者から直接仕入れることで、安全かつ新鮮でありながら、リーズナブルな価格で提供できるようになった。

一番人気は、野菜でできたビーガン(純粋菜食主義)バーガーの「マザートラッカー・ビーガンバーガー」だ。これは、バンズに地元農家で採れたオーガニックのひまわり菜、トマト、ピクルス、手作りのパティを挟み、ピンクトラッカーソース(ビーガン用のマヨネーズとオーガニックビーツ、アガベで作ったソース。ビーツは甘みの強い根菜で、アガベは砂漠地帯に育つ植物で甘味料が抽出できる)をかけたもの。パティは甘みたっぷりのビーツと高たんぱく質のケールで作っているため、十分な満腹感が得られる。これにスイートポテトのチップスが付いて、10ドル(約1,060円)だ。

メニューから食器、車の燃料まで徹底的にエコにこだわるフードトラックは、自然環境に関心の高いカリフォルニアの人たちから圧倒的な支持を得ている。

「私たちが食べる1回の食事が地球を癒やす」をモットーとする「グリーントラック・オン・ザ・ゴー」のオーナー、ミッチェル・コリア氏
ゴミ箱には「COMPOST(堆肥)」と記載して、使用した食器類はすべて堆肥化する施設に持参することをアピール
最小限の加工でナチュラルが売りの「ケトルブランド」のポテトチップスなど、スナックやドリンクもフードトラックで販売
SHOP DATA
グリーントラック・オン・ザ・ゴー(Green Truck On the Go)
営業範囲:ロサンゼルス、サンディエゴ、ニューヨーク
http://greentruckonthego.com

SNSを戦略的に活用し、集客に成功

人が集まりそうなところに出店するのもフードトラックの大切なポイントだが、やみくもに行けばいいわけではない。フェイスブックやツイッターなどSNSを戦略的に活用することが、成功へのカギとなる。

「ズゴー・リクイタリアン」は、出店先をSNSでアップして集客。来店客の約30%がSNSを見て来店するという

なかでも各種のSNSを様々なかたちで活用し、人気を得ているのが、オーガニック食材を使ったジュースバー専門店「ズゴー・リクイタリアン」(ZUGO LIQUITARIAN)だ。2012年に開業し、こちらも“サスティナブル”をテーマに、100%オーガニックで、地元農家が育てた新鮮な野菜や果物を中心に使用。フェアトレード(発展途上国で作られた製品などを適正な価格で継続的に取引することで、生産者の持続的な生活向上を支える仕組み)のコーヒーなどを含め、50種類以上のドリンクを提供する。

一番人気はスムージーの「ポパイ」。パイナップル、ココナッツミルク、ホウレンソウ、生のアーモンドを使い、ピニャコラーダを思わせる風味でビタミンが豊富。砂糖は不使用だが、パイナップルの甘みで満足感もある。また、氷を一切使用しないのも特徴。「パイナップルやホウレンソウを小さくカットしたものを凍らせて、氷の代用にしています。氷が解けて味がだんだん薄くなるということはありません」と、オーナーのジェームス・エプス氏。また、大半の出店先がアメリカ映画の中心地ハリウッドであるだけに、「ポパイ」というネーミングも受けている。

平日はハリウッド内のほぼ同じ場所で営業しており、来店客の約30%がSNSを見て来店しているという。土・日曜日はフリーマーケットやマラソン大会など、日ごとに開催されるイベントによって営業場所を変える。また、場所の告知だけでなく「完売しました」や「イベントが中止のため出店も取りやめます」などの最新情報も随時アップ。客に無駄足を踏ませないようにする気配りも、常連客を増やすためには大切なポイントだ。

また、インスタグラムやフェイスブックなどでは、新メニューの紹介や食材の栄養に関する情報を写真付きで掲載。ときにはスタッフの遊び心のセンスが光るユニークな写真もアップしたりと、誰かとシェアしたくなる情報を掲載して、宣伝効果を生んでいる。

アメリカでは現金より、クレジットカードでの支払いが主流。現金を持ち歩かない人も多いため、同店でもスマートフォンやタブレットを利用したカード払いを可能としている。「カード払いもOKとしたことで、売上が30~40%アップしました」とエプス氏。味と価格だけでなく、サービスや付加価値の面でも時代のニーズを読み取ることが成功の秘訣だ。

オーナーのジェームス・エプス氏。営業中も必要に応じてツイッターなどで最新情報をアップ
一番人気のスムージー「ポパイ」。サイズは2種類で、16オンス・7ドル(454ml・約740円)と、20オンス・8ドル(567ml・約850円)がある
タブレット端末を使って、クレジットカードの支払いを可能に。利便性を高めることで、売上も好調だ
SHOP DATA
ズゴー・リクイタリアン(ZUGO LIQUITARIAN)
平日:1600 Vine Ave. Los Angeles, CA
土・日曜日:営業範囲 ロサンゼルス
http://www.zugotruck.com/

取材・文/大山真理(海外書き人クラブ)

※通貨レート 1ドル=106.2円

※価格、営業範囲は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。