スペイン発 和食ブームがバレンシアまで到来! 後編

スペイン・バレンシアではカジュアルな日本食レストランが人気。後編では新鮮な魚介をガラスケースに並べて話題の生ガキ&寿司バーと、日本の食料品を販売し料理教室も開催する店を紹介する。

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Vol.76

前編では、和食になじみがなかったスペイン・バレンシアの人々に日本の味・スタイルを浸透させた居酒屋と、カジュアルな日本食レストランを紹介した。後半では、新鮮な魚介をカウンターのガラスケースに並べてオーダーを取るスタイルで話題となっている"生ガキ&寿司バー"の店をピックアップ。地元のシェフだからこそ実現できた店のスタイルや、寿司職人出張サービスなどの新たな取り組みもリポートする。さらに、「家庭で日本食を作りたい」という声に応えて日本の食料品を販売する店をオープンするとともに、和食の料理教室を開催して人気を集めるケースなど、ますます過熱するバレンシアの和食ブームの最前線をお届けする。

和食料理店が行う料理教室が人気。女性だけではく、男性やカップルの参加者も急増しており、和食ブームの浸透がうかがえる
日本の食料品販売店が主催する料理教室では、誰でも家庭で作れる和食メニューを教え、参加者には実際に調理もしてもらう
和食の調理法をスペイン語で解説する動画サイトも人気。写真はそこで紹介された「豆腐ステーキ」

スペインで珍しい魚介を仕入れて、ガラスケースに並べて鮮度をアピール

ブティックや高級家具店が建ち並ぶエンサンチェ地区にある飲食・レジャーモールの「メルカド・コロン」内に2012年より店を構えるのが、"生ガキ&寿司バー"の店としてファンの多い「Momiji cocina japonesa」(モミジ コシナ ハポネサ= cocinaとは料理の意味)。オーナー兼シェフは、日本の料理店で修行をしたことがあるスペイン人のディエゴ・ラソ氏とオスカー・アルカンニス氏だ。

モール内に店を構える「Momiji」。店の向かいには、新鮮な魚を卸してくれる老舗の魚屋「Martin & Mary」がある。両者の信頼関係があるからこそ、現在の人気が獲得できている

この店が画期的だったのは、店の向かいにある老舗魚屋「Martin& Mary」で仕入れたばかりの魚介をさばき、寿司種としてカウンターのガラスケースに並べたことだ。日本の寿司屋では一般的なことだが、スペインではあまり例がなかったため、「鮮度がわかって安心」と評判だ。

人気の「おまかせコース」は旬の寿司や魚料理6品に、2人で1本のボトルワイン込みで1人25ユーロ(約3,430円、偶数人のみで注文可)。イシモチやスズキ、ウナギの握りなど、スペイン人があまり口にしたことがない魚介を盛り込むことで、新鮮で新しい食材を試すことができると話題になった。「鰻のかば焼き」もその1つで、最初は常連客に「おいしくなかったら代金はいらない」とすすめたことがきっかけ。「スペイン人は脂肪と甘みを組み合わせた味付けが大好きなので、うけると確信していた」とディエゴ氏。今では人気料理の1つとなり、各地からファンが訪れるほどだ。

また、食材や調理法について、ていねいに説明することにも気を配る。「食への好奇心が旺盛なスペイン人は、それらの情報があると一層おいしく感じるんですよ」とディエゴ氏。そういった情報聞いた客から新しいメニューをリクエストされることもあるそうだ。

「Momiji」は店での営業だけでなく、イベントやパーティへの寿司職人出張サービスやケータリングも行う。さらに、和食の料理教室も開催。店では、魚料理のほかにも茶わん蒸し、唐揚げ、漬物など日本の家庭料理なども提供しているため、その作り方を教わりたいという人が参加し、男女問わず幅広い年齢層に人気だ。

メニューだけでなく、素材の見せ方や料理教室、ケータリングなど、様々な角度から和食の魅力を伝える「Momiji」の挑戦は、まだまだ終わらない。

人気メニューの1つ「牡蠣のみぞれポン酢」。開店当初は、「生ガキ」にレモンを絞って食べる人がほとんどだったが、最近ではこちらのほうが人気
最近人気なのが、結婚式前に行われる立食パーティへの寿司職人の出張サービス。職人自ら1皿ずつ目の前で寿司を握るため、招待客にも好評
SHOP DATA
Momiji cocina japonesa(モミジ コシナ ハポネサ)
Calle Jorge Juan, 19, 46004, Valencia.
Mercado de Colon 46004 Valencia
http://momijicocina.es/

日本の食料品店が主催する料理教室で和食人気を浸透。店の知名度や、販売促進にも貢献

バレンシアでは和食人気に伴い、「店で食べた日本食を家でも作りたい」という声も高まってきた。そんななか、2013年11月、買物客で賑わう庶民的なルサファ地区の市場(メルカド)に、オーガニック系を含む食料品店「マス・ソハ」(Más Soja)がオープン。絹豆腐(350g/2.8ユーロ=約380円)、油揚げ(1枚/2.05ユーロ=約280円)などの豆腐製品や、味噌(1kg/5.6ユーロ=約770円)、オーガニック大豆(500g/2ユーロ=約270円)、醤油(1,000ml/約7ユーロ=960円)などの調味料類や乾物、うどん・そばの麺類など、日本食材を豊富に扱う。

「マス・ソハ」では、日本の食材から調味料まで豊富な商品を見やすく陳列。黒田氏(写真右)のていねいな接客が一番の魅力。健康面などの相談にものってくれるため心強い

近年では、市内のスーパーでも豆腐や味噌など日本食材を扱う店も増えたが、「マス・ソハ」の人気は、オーナー・黒田京子氏の接客にある。黒田氏は、スペイン在住8年の間に寿司レストランで働いたり、結婚式場で寿司作りの実演を行ったり、和食の料理教室を開いたりと、様々なかたちで日本料理をスペイン人に紹介してきた。そんな経験から、庶民の胃袋である市場に店を構えれば、客とのコミュニケーションを大事にしながら、和食を広く広められると考えて出店。来店する人は和食に興味があるとはいえ、日本の食材・調味料をどう使ってよいのかわからないという人が多いため、黒田氏は食材の使い方からレシピの提案などを積極的に行っている。例えば、「寿司パーティをしたいが、海苔が苦手な友人がいる」と聞けば、海苔の代りにライスペーパーをすすめたり、ヘルシー志向の人たち向けには、豆腐ステーキや燻製豆腐のサラダなど、カロリーの低い和食のレシピを紹介している。

また黒田氏は、和食の調理法をもっと学びたいという客からの声を受けて、同じルサファ地区にある、前編で紹介した居酒屋「TORA」を会場に、2014年から和食料理教室を開催。講師にはスペイン語圏で圧倒的な人気を誇る日本食紹介動画サイト「コシナ・ハポネサ」(Cocina Japonesa)を主宰する料理人・佐々木 孝(たか)氏を迎え、豆腐の和え物や照り焼き、海藻サラダ、鰯のかば焼きなど、スペインでも手に入りやすい食材を使い、家庭的な日本料理を教える。特に、味噌やゆず、ゴマ油などを使ったドレッシングなど、応用が利くレシピが喜ばれているという。シェフのデモンストレーションの後は、巻き寿司や茶巾寿司など生徒たちが実際に調理も行う。参加者は10~50代と幅広く、参加費は一人35ユーロ(約4,800円)だ。

この料理教室の様子も後日「コシナ・ハポネサ」で見ることができるため、地元の人たちの間で話題となっており、会場である「TORA」の知名度も上がり、来客数も以前より増えた。もちろん、主催者であり食材を提供している「マス・ソハ」の売上にも貢献。日本の食料品店、居酒屋、そして料理人がコラボレーションすることで相乗効果を生んでいる。

白味噌、赤味噌、麹味噌など多種類の味噌をそろえ、出汁の取り方もていねいに教える。「市場はお客さんとのコミュニケーションが大事」と黒田氏
「マス・ソハ」主催の料理教室ではデモンストレーションを行った後、参加者が調理を行う。この日のメニューは、生春巻き、豆腐ステーキ、茶巾寿司、きな粉のムースとバリエーション豊か
SHOP DATA
Mas Soja(マス ソハ)
Barón de Cortés, s/n, Mercado de Ruzafa,
puesto bajo 98-99-100, 46006 Valencia
https://www.facebook.com/massojavalencia
Website DATA
Cocina Japonesa(コシナ ハポネサ)
日本料理の調理法をスペイン語で説明する人気サイト。1カ月に1本くらいのペースで更新されている
http://www.cocinajaponesa.tv/

取材・文/ボッティング大田 朋子

※通貨レート 1ユーロ=約137円

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