上海発 中国人の心をつかむテーマ型レストラン 後編

上海では少しでも消費者の目を引こうと、テーマ型レストランが流行。前編ではレトロな空間と料理が売りの店を紹介したが、後編ではトレンドの先端を行くエンターテインメント型の店を紹介。

URLコピー

Vol.86

中国国内はもとより、世界中から新規事業者が集まってくる上海では、日々厳しい競争が繰り広げられている。それは飲食業界も例外ではなく、生き残っていくことは容易ではない。消費者の舌は肥え、ちょっとおいしいくらいでは埋もれてしまう。そこで少しでも消費者の目を引こうと、近年、テーマ型レストランが流行。前編では、レトロな空間と料理にこだわる店を紹介したが、後編ではトレンドの先端を行く、エンターテインメント型の話題の店をリポートする。

海賊をテーマにした店が登場。テーマパークのように、店全体を演出している
子豚のキャラクターを据えた焼肉店には、店内に大きな豚が飾られる(写真右)。口コミで認知が広がり、人気店の1つに
テーマ型レストランでも料理にもこだわりがなければ繁盛できないのが、今の上海の市場だ

エンターテインメントを演出する海賊レストラン

2008年の北京五輪でサッカー競技の会場となった上海体育場。そのすぐそば、地下鉄の駅の近くにある商業施設に2014年8月、大規模なテーマ型レストランがオープンし、話題となっている。「海盗楽園主題餐庁(ハイダオラーユエン・ジューティーツァンティン)」という、海賊をテーマとしたレストランだ。周辺にカフェなどが建ち並ぶなかで、重々しい扉が異彩を放つ。

洞窟をイメージした店内は吹き抜けになっており、中央には巨大な海賊船が宙づりにされている。その迫力は圧巻だ

同店を運営する「奇創国際股份有限公司」は台湾の企業で、トイレをテーマにしたレストランを2004年に台湾で開業。これがヒットし、2008年には中国・広東省深圳(しんせん)市に進出。現在では上海も含め、全国で約30のトイレをテーマにした店舗を展開する。順調に拡大を続ける同社だが、新しい業態を立ち上げることになり、今度は「悪役」をテーマにすることに。社内では様々な案が出たそうだが、世界的にヒットした映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』からヒントを得て、「海賊」をテーマにすることが決まったという。

場所として選ればれたのは上海。「上海は、国際的な大都市で比較的開放的。消費者もある程度成熟しており、保守的ではないことが決め手でした」と、ブランドディレクターの黄志偉(ホアン・ジーウェイ)氏は語る。案の定、若者を中心に支持を得て、あっという間に人気店となった。

同店は食事の場であるが、娯楽の場でもある。吹き抜けになっている店内には、巨大な海賊船が宙づりにされて飾られ、映画のセットのように世界観を表現している。その近くにはステージが設置され、毎週金・土曜日の夜には生バンドによるライブが行われ、中国の新旧様々な歌が聞ける。21時半以降はステージを一般客にも開放し、カラオケを楽しむこともでき、さらには子どものために、プレゼントがもらえるゲームも実施している。

テーマパーク型の店だからといって、決して料理をおろそかにしているわけではない。同店のメニューは、タイ料理やベトナム料理をベースにしており、タイ人のシェフを2名招聘。海賊がテーマだけに、海鮮系のメニューを豊富にそろえ、「海鮮の盛り合わせ」は、ボイルした海鮮をタイ風ソースとともに提供し、人気の1品となっている。

同社では、今年「海盗楽園主題餐庁」をさらに2店舗、上海市内にオープンし、来年は新しいテーマのレストランを立ち上げる予定だという。エンターテインメント性と食の楽しさをかけ合せることで、ユニークな業態を生み出している。

店内にはキャンドルが灯され、雰囲気は抜群。スタッフは海賊の格好に扮し、食器やカップなども演出の1つとして考え、特注で制作した
各種海鮮の盛り合わせが人気。ロブスターに毛蟹、アワビも入った「至尊海盗宝蔵」(1,388元=約26,370円)はとにかく豪華
SHOP DATA
海盗楽園主題餐庁
上海市徐匯区斜土路2620号星遊城1階

子豚のキャラクターでブランディングする“萌え系”焼肉店

一方、より身近なテーマで趣向を凝らすことでヒットしている店がある。2014年にオープンした「小猪猪(シャオジュージュー=PIGGY)」だ。「猪」は、中国では豚の意で、店名は「子豚ちゃん」といったところ。同店は、かわいらしい子豚のキャラクターを前面に出した焼肉店だ。店の外観も内装もとにかくカラフル。いたるところに子豚のフィギュアが置かれている。

店内もスタッフもカラフルなのが印象的。客の目の前で焼く「五花排骨肉」(78元=約1,480円)が人気

「小猪猪」は2014年10月に浙江省杭州市に1号店をオープンすると、翌月には上海市北東部の大学が集中するエリア、五角場に2号店をオープンした。運営するのは、鉄板焼チェーン「57℃湘(ウーシーチードゥ・シャン)」などを全国で展開する湖南省の企業「長沙五十七度湘餐飲管理有限公司」だ。

同店はオープンしたばかりにもかかわらず、SNSを中心に口コミで広がり、連日、長時間並ばなければ入れないほど繁盛している。この成功の立役者は、子豚のキャラクター。店の外には等身大フィギュアが立っており、女性を中心に順番待ちの若者が入れ替わり記念撮影をし、SNSに投稿している。それが口コミ効果をもたらしているのだ。同店が「萌系主题餐庁(萌え系テーマレストラン)」と称しているのもうなずける。

キャラクターだけではなく、もちろんメニューの焼肉にも強いこだわりを持っている。名物の1つである「五花排骨肉」は、豚の骨付きバラ肉を低温で下処理し、骨の近くの肉のみを使用。各テーブルに石焼プレートが設置され、スタッフが目の前で絶妙な焼き加減で焼いて提供する。そして、コチュジャンを付け、サンチュで巻くという、韓国風の食べ方だ。そのほか焼肉だけでなく、火を通すものは基本的に客の目の前で調理。チャーハンを炒める音とその香りが、食欲をかきたてる。

同店は今年2月にも、日本人などの外国人が多く暮らす中山公園エリアに3号店をオープンし、こちらも行列ができるほどの人気となっている。同社では今後、中国全土に展開していく予定だ。

大規模化、エンターテインメント性、キャラクター性を打ち出すなど、ますます多様化する上海のテーマ型レストラン。しかし、ただ奇をてらうだけでは長く生き残れない段階にすでに入ってきている。コンセプトがしっかりブランディングされ、メニューに工夫を凝らした店だけが生き残り、全国へと展開されていくのだろう。

店の外には子豚キャラクターの等身大フィギュアが並び、話題づくりに一役買っている。順番待ちの若者がスマートホンで撮影する姿が目立つ
焼肉だけでなく、チャーハンも客の目の前で調理。「猪猪炒飯」(チーズチャーハン、38元=約720円)」は、とろっとしたチーズが絶妙だ
SHOP DATA
小猪猪 五角場店
上海市楊浦区政通路189号特力時尚匯4階
http://www.njdapaidang.com

取材・文/大橋史彦

※通貨レート 1元=約19円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。