ペルー発 個性が光るクラフトビール 後編

ペルーでは食への関心が集まり、クラフトビールの人気も高まっている。後編では、グルメ記事に常に名前が挙がる、ターゲットもアプローチも対照的な2軒のバーを紹介し、その成功の秘密を探る。

URLコピー

Vol.92

毎年、ペルーの首都リマで開催されるラテンアメリカ最大のグルメフェスティバル「ミストゥーラ」。2014年に登場したテーマ館「ビールの世界」では、クラフトビールの魅力や、素材の組み合わせ次第で様々な風味を作り出せることが紹介され、新たなビールファンを生み出した。そのほかにも、新聞のグルメ欄やネットでは「ペルーでクラフトビールを味わうならここ!」といったタイトルの記事が目立つなど、人々のビールへの関心はますます高まるばかりだ。後編では、そうしたグルメ記事に常に名前が挙がる、ターゲットもアプローチも対照的な2軒のバーを紹介し、その成功の秘密を探る。

グルメフェスティバル「ミストゥーラ」のテーマ館「ビールの世界」は、様々な製法のビールがそろうだけでなく、その味や香りをどう楽しむかといったレクチャーが好評を博した
ペルー産のヤギのチーズとピンクソルトを使った手打ちパスタなど、厳選した食材を使った料理と様々なフレーバーのクラフトビールでマリアージュを提案する店が人気
Photo by Las Vecinas Eco-Bar
料理は数を絞ってシンプルなものを提供し、世界各国のクラフトビールを豊富にそろえることで、他店との差別化に成功した店も
Photo by Bar Cañas

クラフトビールとオーガニックメニューを豊富にそろえて、新しい味を提案

キヌア(アンデス原産の雑穀。栄養価が高く、カロリーが低いことから「スーパーフード」と評される)やピンクソルト、オーガニックコーヒー、カカオといったペルー産の食材や、オーガニックの野菜、フレッシュな乳製品などを使った料理と、ペルー産クラフトビールのマリアージュを提案しているのが、アートの街として多くの欧米人観光客が訪れるリマ市バランコ区に2012年12月にオープンした「ラス・ベシーナス・エコ・バー」(Las Vecinas Eco-Bar)だ。

「ラス・ベシーナス・エコ・バー」では、ペルー産のクラフトビールを豊富にそろえる。左からクンブレスの「カフェ」と「キヌア」、ホップの苦みが効いたシエラ・アンディーナの「ワラシーナ・ペール・エール」(各14ソレス=約550円)

同店で扱うクラフトビールは、リマのクラフトビールメーカー「ヌエボ・ムンド」や、アンデスの街であるワラスの「シエラ・アンディーナ」など、国内メーカー6社の22種類。いずれも小瓶(330ml)で、価格は14~18ソレス(約550~700円)だ。「ビールは酔うためのものではなく、心地よさを与えてくれるもの」と考えるオーナーのソニア・セナ氏にとって、地元の素材を活かして作られたペルー産クラフトビールは、「オーガニック」と「ペルー産」という同店のコンセプトにもマッチした“ベストな飲み物”とのこと。

セナ氏のおすすめの組み合わせは、3色のキヌアを使ったサラダ「タブレット」(22ソレス=約860円)と、リマのクラフトビールメーカー「クンブレス」のビール「キヌア」(14ソレス=約550円)だ。水と麦芽、ホップ、酵母という4つの基礎原料にキヌアを加えることで独特の風味を醸し出し、穀類ならではのほのかな甘みと、強めの炭酸が特徴。サラダと同じ素材を使っているため、これ以上のベストマッチはなく、サラダのドレッシングの酸味に負けない、すっきりとした喉越しが楽しめる。またチョコレートブラウニー「スーペル・チョコ」(10ソレス=約390円)と、「クンブレス」のクラフトビール「カフェ」(16ソレス=約620円)との組み合わせも提案。「まるでコーヒー豆入りのチョコレートを味わっているみたい」と、ビールを飲みなれない女性だけでなく、甘いものを敬遠しがちな人にも好評だ。

天然の木を多用した開放的な空間の中で、オーガニックメニューとペルーならではの個性的なクラフトビールが楽しめると、ナチュラル志向の欧米人旅行者や、穏やかなひとときを求める地元住民たちの憩いの場となっている。

ペルー産のキヌアを使ったサラダ「タブレット」。トマト、キュウリ、イタリアンパセリに合わせた3色のキヌアのプチプチ感がクセになるおいしさ
Photo by Las Vecinas Eco-Bar
ペルー産オーガニックカカオ製のチョコレートと、ヤギミルクのバターをたっぷり使った「スーペル・チョコ」。デザートにもビールとの組み合わせを提案する
Photo by Las Vecinas Eco-Bar
SHOP DATA
ラス・ベシーナス・エコ・バー(Las Vecinas Eco-Bar)
Jirón Domeyer 219 Barranco – Lima

ペルー随一の品ぞろえ! 世界のクラフトビール70種以上を飲みくらべ

「これまでペルーのビールは、『ラガー』ばかり。世界にはいろんなビールがあるのに、ずっと大手の独占だったから誰も知らなかったんだ。だからこの店を開いたんだよ」と語るのは、「バー・カニャス」(Bar Cañas)のオーナー、マルコ・エンリケ氏。2011年6月、リマ随一の繁華街・ミラフローレス区にオープンした同店では、国産を含む世界9カ国のクラフトビールをそろえている。定番メニューとして60種類、各国の新商品を常時10種類ほど取りそろえ、おすすめは店内のボードに掲示。そのため、来店したらまずこのボードをチェックするという常連客も多い。

きめ細やかな泡立ちが特徴のベルギービール「ラ・シュフ」(28ソレス=約1,090円)。コリアンダーのスパイシーな香りとしっかりとした苦み、最後にほのかな甘さが感じられる

一番人気はベルギー産の「シメイ・ブルー」(29ソレス=約1,130円)。同じくベルギーの「デリリウム・トレメンス」(28ソレス=約1,090円)や、「デュベル」(27ソレス=約1,050円)も売れ筋だ。そのほか、2014年チリで開催されたクラフトビールのコンクールで優勝した、リマのクラフトビールメーカー「バルバリアン」の「リマ・ペール・エール」(19ソレス=約740円)や、同じくリマのビールメーカー「マードック」のペルー産唐辛子「ロコト」のカプサイシンを加えた「カプシクム・イー・ピー・エー」(21ソレス=約820円)など、ペルーのクラフトビールも好評。ペルーの一般的なレストランでは、国産ビールの小瓶が1本7~10ソレス(約270~390円)で販売されているのに対し、同店のクラフトビールの価格は10~59ソレス(約390~2,300円)。それでも、ここでしか味わえないクラフトビールを飲みたいと通う客は多い。

ビールが主役の同店では、数人でシェアできるシンプルなメニューを提供。ジューシーな肉汁が滴るソーセージや、塩味の効いたフライドポテトは、アルコール度数が8.5~10%と高く、しっかりとした苦みとコクのあるビールによく合う。以前はパンにチーズやディップをのせた一口サイズのタパスなど、様々なメニューを用意していたが、「飲みたい客」と「食べたい客」両方への対応は、食材のロスなど無駄が多かったという。そこでメニューの数を思い切って絞り、その分、ビールの仕入れに注力。結果として他店との差別化につながった。

世界のビールの品ぞろえの中には、もちろん日本のブランドも含まれている。「日本のビールはどれも品質が高い」と絶賛のマルコ・エンリケ氏。将来、日本を訪れ様々なビールを飲み比べたいと語ってくれた。

料理のラインナップは実にシンプル。ドイツの白いソーセージ「ヴァイスヴルス」やソーセージにケチャップとカレー粉をかけた「クリーヴルスト」(写真/22ソレス=約860円)などをそろえる
Photo by Bar Cañas
店内の照明には、世界のビールの空き瓶を使用。「次はあのビールにしてみよう」などと、客同士の会話にも一役買っているそうだ
SHOP DATA
バー・カニャス(Bar Cañas)
Av. Miguel Grau 308 Barranco – Lima,
https://www.facebook.com/BarrancoBeerCompany

取材・文/原田慶子

※通貨レート 1ソル=約39円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。