タイ発 注目を集める進化系タイスイーツ 後編

タイの伝統的なお菓子「パートンコー」がおしゃれなスイーツに進化して、バンコクで注目されている。今までにない食べ方を提案するカフェと、お酒とともに提供しているバーをリポート。

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Vol.102

タイの伝統的なお菓子がおしゃれなスイーツに進化して、今バンコクで注目されている。「パートンコー」もその1つ。タイ中央部発祥の長さ5センチ程度のタイ風揚げパンで、練乳などをつけて食べる昔ながらの屋台の味だ。1本5バーツ(約20円)程度で販売されており、早朝に立つ屋台の前には、会社や学校に向かう途中に朝食として買い求める人で行列になる。近年は、パートンコーをメニューに加えるカフェやバーも増え、朝食以外にもちょっとお腹を満たしたいときにピッタリな軽食メニューとして定着。後編では、今までにない食べ方を提案するカフェと、お酒とともに提供しているバーなど、新たなトレンドとなっているパートンコースイーツを紹介する。

練乳や緑色のカスタードクリームをつけるのが昔ながらの食べ方だが、最近ではチョコやストロベリージャムなど多彩なフレーバーで人気を呼んでいる
大量に揚げて作り置きするだけでなく、注文を受けてからグリルで炙って温め直すのが最近の流行。アツアツかつ、サクサクな食感が持ち味
有名インテリアデザイナーが設計した都会的なバーでも、スターシェフが考案したパートンコーのオリジナルスイーツが提供されている

タイの揚げパン「パートンコー」がおしゃれにアレンジされ、トレンドの1つに

「パートンコー」(アルファベット表記ではPatonggoやPha Tong Ko)は、こねた薄力粉を小さく切って揚げたタイ風の揚げパン。中華圏で食される揚げパン「油条(ヨウティヤオ)」をルーツとした、タイの典型的な朝食メニューだ。屋台で揚げたてを買い、練乳やパンダンという葉で緑に色付けされたココナッツミルクのカスタードクリームをつけて食べる。アツアツなパートンコーは外はカリッと、中はフワフワな食感で、温かい豆乳や甘いミルクコーヒーとともに味わえば、やみつきになるおいしさだ。

グリルで炙ったパートンコーの上に自家製アイスクリームを乗せた「アイスクリーム・パートンコー」。揚げパンを使っているため、パフェよりもお腹が満たされる

バンコクに無数にあるパートンコーを出す店のうち、もっとも成功している店の1つが、世界各国からバックパッカーが集まるカオサン通りに近い商店街の、1968年創業の老舗「パートンコー・カフェ」(Patonggo Cafe)。オーダーを受けてからグリルで炙って温め直して提供しており、「炙ることにより香ばしさが増し、無駄な油が落ちてヘルシー」と人気を博してきた。

そして近年さらに新しいアイデアを盛り込んで、庶民の味だったパートンコーをおしゃれなスイーツへと進化させた。その1つがトッピング。定番のパートンコー(3個で40バーツ=約140円)は、トッピングのソースを定番のココナッツカスタードのほか、オレンジ、ストロベリーなど5種類から選べる。

またライチ、バナナ&ストロベリーなどトロピカルな味わいの自家製アイスクリームをのせた「パートンコー・アイスクリーム」(1個40バーツ=約140円)は、グリルで温め直したアツアツのパートンコーとひんやりとしたアイスクリームが絶妙なハーモニーを奏でる。これらの新しいアイデアは今では多くの店が取り入れ、おしゃれ系パートンコーは一大トレンドとなっている。

さらに「パートンコーは甘いもの」という固定概念を覆したのが、おかず系のパートンコー(全3種。各60バーツ=約200円)。チャーシューなどの具が、パートンコーが見えなくなるほどにたっぷりとのる。最初はカリッと、時間が経つと汁を吸って、2つの異なる食感が味わえる。

「100バーツ(約340円)も払えば お腹いっぱいになる」と、タイの若者はもちろん、安く食事を済ませたい海外から訪れるバックパッカーに大人気。2015年4月からはスクンビット地区の最高級デパート、「エムクオーティエ」(EmQuartier)の食品売場にも出店し、富裕層のマダムたちにも好評だ。老舗として伝統を守りつつも、新しいレシピに果敢にチャレンジしたこととが、トレンドを生み出したといえよう。

チャーシューの千切りをのせた「パートンコー・ナームーデーン」。おかず系のパートンコーとしてはそのほかにシーフードソムタム、鶏の煮込みがある
高級デパートの食品売場でも実演販売されており、次々に買物客が買い求めていく。1箱3個入り、お好みのソース付きで59バーツ(約200円)
SHOP DATA
パートンコー・カフェ(Patonggo Cafe)
Sipsamhang Road, Talat Yot, Phra Nakhon, Bangkok

お酒とともにオリジナルの「パートンコー」を楽しめるスタイリッシュバー

デザートメニューに「パートンコー」をそろえるカフェは多いが、最近は、バーなどの飲み屋でもパートンコーを見かけるようになってきた。深夜まで営業するカフェやナイトクラブが建ち並び、流行に敏感な若者が集う街として注目されるバンコク・エカマイに、2014年10月に登場した「ホット・ロッド」(Hot Rod)は、都会的な雰囲気のダイニングバー。

パートンコーの生地をバナナに巻いて揚げた「パートンコー・ヤッサイ・クルアイ」は長さ約15センチ。1口サイズに切り分けられたものをフォークで刺して食べる

伝統と斬新さの融合が売りのこの店では、バンコクで大人気の創作系ダイニング「スミス」(Smith)のメインシェフ、ピーター・ピータックウォン氏にメニュー開発を依頼。「タイの郷土料理をスペインのタパス(小皿料理)風に味わってほしい」と、タイ人でも「これは珍しい!」と驚く地方の食材や調理法で作ったタイ料理を、一口サイズで洗練された盛り付けで提供する。

また、タイのローカル菓子をハイレベルに昇華させたスイーツも自慢だ。特に好評なのが「パートンコー・ヤッサイ・クルアイ」(120バーツ=約410円)。通常のパートンコーのように上にソースをかけるのではなく、米粉を混ぜた生地をバナナに巻いて揚げた、オリジナルのパートンコーだ。濃厚そうだが意外とあっさりとした口当たりで、バナナの甘酸っぱさと上にかけた自家製練乳のミルキーな味わいがよく合い、締めのデザートとしてだけでなく、若い女性がカクテルと一緒にもよく注文するそうだ。盛り付けにもこだわっており、皿として使われているのは、使い込まれた木片にタイの伝統柄を彫ったもの。その上に、店名の焼印が押されたバナナの葉を敷き、エスニックなムードを盛り上げる。

ちなみにバーの集客を大きく左右する店内デザインには、バンコクで数々の飲食店の内装を手がけ、流行の最先端を担い、ヒットに導く有名インテリアデザイナーを起用。メタルとガラスを多用した近未来的なつくりに、タイの伝統的な刺青とヤモリをモチーフにした奇抜なデザインは、エッジの効いた同店の料理を楽しむのに相応しい空間だ。

料理も店内の雰囲気も最先端を行くバーのパートンコーは、そのほかの独創的な料理とともに、流行に敏感なタイ人や世界の食通な人たちにも注目されている。屋台の味から都会的なバーのメニューにも加わったパートンコー。世界中の旅行者が集まる街バンコクの新たなトレンドが世界に拡散するのは、もうすぐかもしれない。

モチモチな食感のタイ北部のドーナツ「カノムウォン」(右/120バーツ=約410円)、ラープ(豚挽肉のスパイシーサラダ)のタパス(左/170バーツ=約580円)など、珍しい料理がそろう
前編で紹介したタイティーをベースにしたカクテル(220バーツ=約750円)。タイティーとラムの甘い香りがマッチ。伝統柄のタイシルクがグラスに巻かれている
SHOP DATA
ホット・ロッド (Hot Rod)
Ground Floor, Park Lane, Sukhumvit Soi 63, Klongton
http://www.hotrodtapas.com

取材・文/さとう葉

通貨レート 1タイバーツ=約3.4円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。