ブラジル発 広がるクラフトビール 後編

アメリカ、中国に次ぐビール消費大国のブラジルでは、近年クラフトビールが高い人気を見せている。後編では、サンパウロ市内で小規模経営ながらこだわりのクラフトビールを提供する店を紹介。

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Vol.120

中国、アメリカに次ぐビール消費大国のブラジル。国内市場は長年、大手数社がシェアのほとんどを占めていたが、近年では大都市を中心にクラフトビールの人気が高まっている。ブラジルでも特にトレンドに敏感な街・サンパウロでは、クラフトビール専門のビアバーが増えており、量より質を重視する客たちで賑わっている。

後編では、小規模経営でこだわりのクラフトビールを提供している店を紹介する。

ワゴン車で営業するクラフトビールのフードトラック。タップを車体に取りつけるなど、1万2000レアル(約37万2000円)の費用をかけて改造したという
持ち帰り用ビールを販売しているビアバー内の棚。ブラジル全土から集められた国産クラフトビール約130種がそろう。従来の高級感を感じさせるラベルではなく、ポップでカラフルなデザインで差別化を図ったものが多い
毎日、提供するクラフトビールの銘柄を変えている店もあり、サーバー付き冷蔵庫には、その日入っている銘柄を水性ペンで記入している

クラフトビールが楽しめるフードトラック

サンパウロの街には、ハンバーガーやチュロスのほか、寿司や焼きそばなど様々なフードトラックがあり、市民に親しまれている。そして近年のブームを受けて、2015年11月には本格的なクラフトビールを提供するフードトラック「アマリージョ・フォルクスビア(Amarillo Volksbeer)」が登場した。トラックの車種は「コンビ」の名で親しまれているフォルクスワーゲン・トランスポーターで、レトロで愛らしいデザインが特徴。その側面に特別に備え付けられたタップ(ビールサーバーの注ぎ口)から生ビールを注ぐスタイルだ。

手前は苦味の奥にコーヒーの味わいがある自家製の「スタウト」で、右奥はサンパウロの近郊都市ソロカバで2010年に創業したブルグマン社の「レッド・エール」(ともに12レアル=約372円)。左奥はオーク・ビア社の「ラガー・ピルスナー」

提供するクラフトビールは、人気の「ピルスナー」「ヴァイツェン」「IPA」を常備するほか、「レッド・エール」「ダンケル」「スタウト」「アンバーエール」「白ビール」など、週替りの銘柄も合わせて計6種類を用意している。もっともポピュラーな「ラガー・ピルスナー」(8レアル=約248円)は、サンパウロ市内で4年前に創業したオーク・ビア社から仕入れている。ブラジル人好みの、のどごしが軽くて、苦味の少ないビールだ。

「既成の銘柄だけではなく、自分たちでもビールを作って販売しています」と胸を張るのは、経営者の一人、レオナルド・ソアレス氏。フードトラックを始めてからビール工房を構え、現在、「スタウト」「レッドIPA」「IPA」の3種類を作っている。濃い風味と色合いが特徴の「スタウト」(12レアル=約651円)には、製造過程でコーヒーの名産地ミナス・ジェライス州のコーヒー豆を使っている。

店はオフィスビルに囲まれたヴィラ・ブタンタン広場で木~日曜日の週4日間営業しており、平日は若いビジネスマンの利用がほとんど。この広場には、ほかにも様々な料理を提供しているフードトラックが集うため、あえて食事は用意していない。

「大手のビールを販売するフードトラックはサンパウロにもありましたが、クラフトビールを扱う業者がいなかったので、そこに目をつけました」とソアレス氏。「フードトラックならバーで大手のビールを飲むのと同じくらいの価格でクラフトビールを楽しめる。そのお得感も人気の理由だと思います」という。

味と価格の両方で客を満足させる。成功の秘訣は世界中どこでも変わりはない。

車内に置いたビア樽(容量は銘柄ごとに変えており、20~50リットル)から、氷水に漬けられたコイル状のステンレス管を通って、車体側面につけられたタップから注がれる
共同経営者のロドリゴ・カポッテ氏(左)とレオナルド・ソアレス氏(右)。2人はそもそもフリーのフォトグラファーだったが、フードトラックでクラフトビールを売るアイデアを思いつき、転身した
アマリージョ・フォルクスビア(Amarillo Volksbeer)
Rua Agostinho Cantu, 47 Butantã, São Paulo (ヴィラ・ブタンタン広場内)
https://www.facebook.com/amarillobeer

ブラジル産クラフトビールのみ130種を扱う通好みのバー

若者文化の発信地として、小規模で個性的な飲食店やブティックが点在するサンパウロのヴィラ・マダレーナ地区。ここで営業する「デ・ブルエール(De Bruer)」は、国産クラフトビールのみを提供している老舗だ。現在扱っているビールはなんと130種! ブラジルにそれほどクラフトビールの生産者がいたことに驚かされる。

酢漬けのヤシの新芽をカトゥピリチーズ(ブラジルでポピュラーなクリームチーズ)と生クリームで和えたやわらかな酸味がおいしい「パステル・デ・パルミット」(27レアル=約837円)は、店で一番人気のヴァイツェンビール「リンダーホフ」(25レアル=約775円)との相性がよい

「いま、ブラジル国内で質の高いクラフトビールは170種くらい。その中から特に自分好みのものを集めました」とは、オーナーのオリヴェル・ブッゾ氏。90年代にクラフトビールが当たり前のように飲まれていたロンドンで暮らし、その奥深い世界に魅了された。ブラジルに帰国後、この店をオープンした2002年11月は、まだクラフトブームが到来する前だったという。

「当時でも、すでにおいしいクラフトビールを作る小規模な生産者はブラジル各地にいました。店で提供するビールをブラジル国産のみに絞ってもやっていけるという自信があったのも、これらのクラフトビールの質が高いと感じていたからです」

店で一番人気なのは「リンダーホフ」(25レアル=約775円)。良質な水源で知られるサンパウロ州セーハ・ネグラ市のドルトムンド社のヴァイツェンビールだ。清涼感のあるフルーティなほろ苦さに魅了される人が多いそうだ。個性派としておすすめなのは、材料にカボチャを加えたサウベール社の「パンプキン・エール」(25レアル=約775円)。通常のエールにはない、まるでハーブが入っているかのような独特な風味で、発泡感が少ないのも特徴だ。このように好き嫌いが分かれそうなトガッた一品もそろえているのも、専門店ならでは。

店内は、穴倉風の暗い照明が印象的で、カップルのほか、一人で通う常連や、クラフトビールのうんちくを語り合うグループもいる。持ち帰り用ビールの販売もしており、仕事帰りに“自宅飲み”の一本を買って帰る人の姿も珍しくない。

こうして、専門店としての存在価値を徐々に高めているが、一方で「とりあえずビール!」と単にのどの渇きを癒やすのが目的の人がまだまだ多いのも事実。それでも「ビールを味わう」意識が高まっている今、クラフトビール専門店はさらに集客力を上げていきそうだ。

カボチャを使ったクラフトビール「パンプキン・エール」と「ガリシア風豚スペアリブ」(36レアル=約1116円)。4時間炭火焼にし、ウィスキー、ハチミツ、生姜などでつくった、こってりした甘辛ソースがビールに合う
オーナーのオリヴェル・ブッゾ氏(左)、マネージャー兼ホール係のジョゼイ・ゴンザーガ氏(右)とシェフの3人で、収容30人程度のビアバーを切り盛りしている
デ・ブルエール(De Bruer)
Rua Girassol, 825 Vila Madalena
http://www.debruer.com.br

取材・文/仁尾帯刀(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1レアル=約31円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。