米国・LA発 SNSに載せたいアイス 前編

アメリカに限らず、SNSをとおして「自分の撮った写真を見てほしい」という熱は上昇する一方。そんな欲求に応える、フォトジェニックなアイスクリームを提供するロサンゼルスの店を紹介する

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Vol.125

Facebook、Twitterなどのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)が世に現れてから早10年。誰でもスマートフォンなどで簡単に写真が撮影でき、それをその場でSNSに投稿できるようになったことで、アメリカ人たちの「自分の撮影した写真を見てほしい」という熱は上昇する一方だ。そのため、飲食業界では彼らの欲求に応えるべく、味だけでなく、写真を撮りたくなる「見栄え」にこだわるメニューが流行。特にロサンゼルスでは、フォトジェニックなアイスクリームを提供する店が次々とオープンしている。

前編では今、アイスクリーム業界で特にトレンドの「花形アイスクリーム」を紹介する。

花びら1枚1枚を、異なる種類のジェラートで表現。選ぶジェラートの種類によって、仕上がりがカラフルにもシックにもなる
店内では、来店客が購入したフラワージェラートを撮影。撮った写真をその場でSNSに載せる人が多い
1個だけでなく2、3個を一緒に持つと花束のように見えることから、仲間同士で様々な種類を購入し、花束にして撮影する人も

パリジェンヌを魅了したセンスが光る。コーンの上に咲くジェラートの花

ロサンゼルスの高級住宅街であるビバリーヒルズは、トレンド発信地として世界的にも有名。そこに、世界のファッションの中心であるフランス・パリで女性の人気を獲得したジェラート専門店「アモリノジェラート(Amorino Gelato)」が、2014年2月にロサンゼルス1号店をオープン。現在、女性を中心に絶大な支持を獲得している。

レモンとマンゴーとラズベリーの組み合わせ。同じ種類を選んでも、どのアイスをどの部分に使うかはスタッフによって異なる

ここでは、客が選んだ色付きの数種類のアイスクリームを、スタッフが重ねる順番を考えながら専用のへらを使って1枚1枚花びらの形にして、美しい花のように仕上げる。同じ種類を選んでも、担当するスタッフによって色の重ね合わせ方などが異なり、まさにアート! 選んだジェラートが同系色の場合はグラデーションになるように花びらを重ねていき、逆に様々な色を選んだ場合はカラフルに見えるように色を配置することが多い。

選べるアイスの種類も豊富だ。バニラだけでもマダガスカル産のバニラビーンズを使用したものとタヒチ産の2種類があり、ほかにもチョコレート、キャラメル、チェリー、ピスタチオ、ココナッツ、コーヒー、ビスコッティ(イタリアのビスケット)など13種類のジェラートにイチゴ、マンゴー、バナナなどフルーツをふんだんに使った7種類のソルべ(シャーベット)の計20種類。

客は最初にサイズと、食べたい味をオーダー。何種類でも選べるが、種類が多い場合はそれぞれの分量を減らして、調節する。サイズも豊富で、コーンも紙製カップもピッコロ(Piccolo/スモール)が5ドル50セント(約550円)、クラシコ(Classico/ミディアム)が6ドル75セント(約675円)、グランデ(Grande/ラージ)が8ドル50セント(約850円)。カップにはさらに大きなギガンテ(Gigante/エキストララージ)があり、9ドル75セント(約975円)。それより大きなグランデシマ(Grandessima/エキストラエキストララージ)は14ドル(約1,400円)だ。

客層は土地柄もあり富裕層が多く、子供連れのファミリーやカップルなど年齢層は幅広い。店では綺麗な花に仕上がったジェラートを手に取ると、多くの人が写真を撮り、SNSなどに投稿している様子を見かけることも多い。

花づくりは“職人芸”のように思われるが、店からの指導はいっさい無い。新しいスタッフも先輩が作るのを見よう見まねで覚え、作り方を習得するという
チョコレート、コーヒー、キャラメル、バニラ、マンゴーの5種類で作ったクラシコ(Classico/ミディアム)。サイズが大きくなると花びらの数も増えて、より花らしくなる
アモリノジェラート(Amorino Gelato)
9605 South Santa Monica Boulevard, Beverly Hills, CA 90210
http://www.amorino.com/us/index.html

切れ目を入れて開いていく“薔薇の花”風アイスクリーム

ロサンゼルスのダウンタウンから車で40分ほど南下したところに位置するオレンジ郡サンタアナ市。市内にある、若者に人気のショッピングモール内に「カウドロンアイスクリーム(Cauldron Ice Cream)」が、2015年7月オープン。来店客が、購入したアイスの写真をSNSに投稿したことで認知度が高まり、一気に人気店となった。

「H2Oローズ」(左)と「アールグレーラベンダー」(右)は、それぞれバラとラベンダーの香りを楽しめる。色も鮮やかでまさに花そのもの

なぜ、この店のアイスクリームがそれほどSNSに投稿されるかというと、アイスの形を“バラの花”の形にしてもらえるから(球形も選択可能)。作り方は、まず液体窒素を使った専用のミキサーで、やわらかいアイスクリームを、冷たくて硬い球形に。これにステンレス製のアイスクリームスプーンで切れ目を入れて広げながら花びらを作ることで、バラの花のような形に仕上げていくのだ。

アイスクリームの種類も、他店と比べてオリジナリティと高級感があるのが特長。ベルギーの「カレボーチョコレート」をふんだんに使った「ダブルショットチョコレート」。アールグレイとラベンダーの風味を効かせたアイスに、上からハチミツをかけた「アールグレイラベンダー」。キャラメルアイスに、砕いたプレッツェル(ドイツの焼き菓子)を混ぜて上から岩塩とキャラメルソースをかけた「シーソルトキャラメルクランチ」。ミルク風味のアイスに甘いシリアルを混ぜ込んだ「ミルク&シリアル」など、合計約13種類でラインナップは毎月変わるという。

また、アイスクリームを入れるコーンにもオリジナリティーがある。通常のコーン(山盛り1スクープ。4ドル50セント=約450円)のほかに、小さなたこ焼きがつながったような形状のエッグワッフル「パッフル(puffle)」(山盛り1スクープ。6ドル=約600円)も用意。もともとは香港のおやつで、かわいらしい形が女性から好評で、これも“撮影したくなる”ポイントの1つとなっている。

さらに、アイスクリームに乗せるトッピングも、チョコレートチップ、チョコレートソース、キャラメルソース、カラフルな塩パウダー、はちみつ、スプリンクル(カラフルな砂糖の粒)、プレッツェルの7種類を用意(1トッピング50セント=約50円)。トッピングに塩があるのは意外に思われるかもしれないが、「スイカにかけると甘く感じられる」のと同じで、味のアクセントとして人気となっている。

客層は圧倒的に学生が多く、子どものころからインターネットに慣れ親しんだ、いわゆる「デジタルネイティブ」の世代。仕上がった「バラのアイスクリーム」を、食べる前に撮影してSNSで公開するのは、前半で紹介した「アモリノジェラート」と同じ。両店とも宣伝費はあまりかけていないが、思わず写真を撮りたくなるメニューを中心に据えることで、見事に情報の拡散と認知の拡大に成功している。

「ミントチョコレートチップ」にプレッツェルをトッピング。アイスの形を花ではなく球形にしても、トッピング次第でかわいくデコレーションできる
ステンレス製のアイスクリームスプーンを器用に使って、球形のアイスクリームがみるみるうちにバラの花に変わっていく
カウドロンアイスクリーム(Cauldron Ice Cream)
1421 West MacArthur Boulevard Suite F Santa Ana, CA 92704
http://www.cauldronicecream.com/

取材・文/押見由香(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約100円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。