米国発 プラントベースのレストラン 後編

近年、ロサンゼルスでトレンドになっている「プラントベース」(動物性食品を一切摂らない菜食主義)のレストラン。後編は、プラントベースのファストフード店の取り組みをリポートする。

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Vol.130

近年、ロサンゼルスでトレンドになっている「プラントベース」(動物性食品を一切摂らない菜食主義)のレストラン。「菜食は素食」というこれまでのイメージを覆し、おいしくて食べ応えのある料理を提供することで、菜食主義の人だけでなく、健康やダイエットのため、日々の食生活に菜食を取り入れたいという人からも高い人気を得ている。

後編は、プラントベースのファストフード店に注目。健康とはかけ離れたイメージのあるファストフードに、プラントベースがどう取り入れられたのかをリポートする。

豆乳のチーズを使ったマカロニチーズや大豆で作ったパテを具材にしたハンバーガーなどを販売。動物性の食材を使っていないとは思えないビジュアルだ
フライドポテト用のソースももちろん植物性食品のみを使用。燻製した唐辛子から作る香辛料・チポトレとにんにくを混ぜたピリ辛の「チポトレアイオリ」(右)と、ビート(てん菜)を使ったケチャップ(左)
ピーチとレモンのレモネード(左)とケールとりんご、パイナップルのスムージー(右)。ほか、ミルクシェイクではミルクの代わりに豆乳を用いる

「本物」に負けないハンバーガーやマカロニチーズ

ロサンゼルスの中心部ハリウッドの東側。ハリウッドの映画産業黎明期からフィルム・スタジオの中心地として栄えた街・シルバーレイク市に、プラントベースのファストフード店「バイクロエ( by CHLOE.)」が2016年の5月末オープンした。

あっさりとしたグルテンミートを濃厚な味わいのバーベキューソースで仕上げた「ウィスキーバーベキュー」(左)と、大豆とレンズ豆、くるみなどの旨味が凝縮されたパテが絶品の「ザ・クラシックバーガー」(右)

定番は、「ザ・クラシックバーガー」(8ドル95セント=約1,011円)。パテで肉の代わりに使っているのが、大豆とレンズ豆、くるみをすりつぶし、栄養価の高いスーパーフード、チアシードと混ぜてこねたものだ。大豆やレンズ豆の旨味、くるみのコク、チアシードの香ばしさなどが絶妙に合わさり、ひき肉に引けをとらないリッチな味わいに仕上がっている。また、バンズは、小麦粉よりもビタミンが豊富なジャガイモを粉状にしたものから製作。そこにビート(てん菜)を煮込んで作ったケチャップと秘伝のソースを塗り、トマト、オニオン、レタスをはさんでいる。

ほかに、アメリカの定番、バーベキューソースを使った「ウィスキーバーベキュー」(10ドル95セント=約1,237円)も人気メニューの1つ。小麦粉と塩から作った代用肉・グルテンミートと、燻製したポートベローマッシュルームをパテに見立て、オニオンで作ったジャム、炒めたケール、焼いたパイナップルをジャガイモで作ったバンズで挟み、バーボンウィスキーを使った濃厚バーベキューソースをかけて仕上げた。バーベキューソースと燻したマッシュルームの香りが漂い、オニオンジャムの甘みとパイナップルの酸味が加わり、ややこってりした深い味わいが特徴。淡白なグルテンミートに、まるでスペアリブのような濃厚さを与えている。

インテリアも女性オーナーらしいかわいらしさと繊細さにあふれている。ファストフード店には欠かせないテイクアウト用の紙袋、プラスチックバッグ、カップケーキの箱もオシャレで、まるでアパレルショップの包装のようだ。

客層は幅広く、老若男女に愛されている。店のロゴ入りグッズも販売するなど、カジュアルさを大切にしながら、一味違ったプラントベースのメニューを売りに、高い収益を実現している。

サイドメニューのマカロニチーズ。豆乳チーズに、ココナッツミルクを用いることでさわやかな味に仕上げた。ベーコン代わりにトッピングされたシイタケが絶妙な風味を加える
ファストフード店には欠かせないテイクアウト用の紙袋など。 ポップでかわいいデザインにしている
バイクロエ(by CHLOE.)
2520 Glendale Boulevard Los Angeles, CA 90039
http://eatbychloe.com/

中東風コロッケのハンバーガーが新風を巻き起こす

アーティストや若者が多く住むロサンゼルス西部のベニスビーチ。ここに2015年11月オープンした「ファラバー(fala bar)」は、ヒヨコ豆で作った中東風コロッケ「ファラフェル」のハンバーガー専門店だ。

ファラフェル(中東風コロッケ)を、ピタパンにはさんだ「ファラサンドイッチ」。産地直送のみずみずしい野菜と揚げたてアツアツのファラフェルが絶妙

定番メニューは、「ファラサンドイッチ」(8ドル=約904円)。具材はファラフェルのほか、トマト、きゅうりとオニオンとパセリを細かく切ってオリーブオイルを混ぜたイスラエルサラダ、千切りキャベツ、白ごまのペーストにレモン汁とにんにくなどで作ったタヒニソースとペースト状にしたヒヨコ豆を混ぜた「フムス」などが入っている。衣はカリカリで中はホクホクの揚げたてファラフェルと、新鮮野菜のシャキシャキ感が絶妙にマッチ。ヒヨコ豆だけの「オリジナル」以外に、「スイートポテト」「ケール」、チリやハラペーニョを加えた「スパイシー」、粗挽きヒヨコ豆を使った「クランチー」の5種類がある。ピタパンではなく生のキャベツで巻く「キャベツラップ」に変えることも可能だ。

5種類のなかでもっとも人気が高いのが、「ケールバーガー」(8ドル=約904円)。ケールを混ぜ込んで作ったファラフェルのほか、乳製品を使っていない自家製サウザンアイランドドレッシング、レモン風味のケールサラダ、紫オニオンのピクルス、アボカドをバンズではさんだものだ。ドレッシングのクリーミーさやピクルスの酸味、アボカドのコクがうまく調和。肉厚でやわらかいファラフェルとアボカドのねっとり感、バンズのふわふわ感が重なり、絶妙な一体感が生まれている。

ほか、同じバンズを使ったアボカドのクリーミーさとレモンの酸味が特徴の「アボカドバーガー」(8ドル=約904円)や、牛ひき肉の代わりに細かく砕いたファラフェルを使った「メキシカンボウル」(8ドル=約904円)なども好評だ。

店のイートインスペースは、2人がやっと座れるカウンターと、店外のテーブル、ハイチェア3つだけ。中東の出身者はもちろん、アメリカ人にも人気が高い。

昔から「コロッケパン」に親しんできた日本人からすると、パンとファラフェルの組み合わせは、何の変哲もないように見えるかもれしない。だが、「ハンバーガーには肉」というイメージを強く持つアメリカ人には、植物性食材しか使っていないにもかかわらず食べごたえのあるコロッケをはさむという発想は、目からうろこ。プラントベースが流行する今、もしかすると、日本のコロッケパンにも海外でブレークするチャンスがあるのかもしれない。

一番人気は、ケール入りファラフェルと紫オニオンのピクルス、アボカドなどをバンズではさんだ「ケールバーガー」。 乳製品を使っていない自家製ドレッシングがアクセントに
プラントベースであることだけでなく、その内容や調理法にもこだわる。添加物や着色料、遺伝子組換え食材は一切使用していない。必ずオーダーが入ってから揚げて、できたてを提供
ファラバー(fala bar)ベニスビーチ店
1146 Abbot Kinney Boulevard, Venice, CA 90291
http://www.falabar.com/

取材・文/押見由香(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約113円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。