アメリカ発 進化するアレンジドーナツ 後編

“庶民的なおやつ”ドーナツが、近年アメリカで新たな進化を遂げている。後編では、甘くない「食事系ドーナツ」。「おやつや軽い朝食用」という常識を覆した新メニューを中心に紹介する。

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Vol.150

昔から世界中で誰にでも好まれる“庶民的なおやつ”ドーナツが、ここ数年、アメリカで新たな進化を遂げている。今までのクリームやチョコレート以外に、生のフルーツなど従来は用いなかった素材が使われるように。前編では見た目もまるでケーキのように鮮やかなこともあって人気を呼び、4ドル(約440円)以上で売られるものも出てきたことを紹介した。

後編に登場するのは、甘くない「食事系ドーナツ」。「ドーナツは甘いもの」「おやつや軽い朝食用」という今までの常識を覆した新メニューを中心に紹介する。

フライドチキンや野菜を挟んだチキンバーガー風ドーナツ。ハンバーガーのバンズやサンドイッチのパンとは違うイーストドーナツ独特のモチモチ感が新感覚
通常、イングリッシュマフィンにポーチドエッグやハムなどの具材をのせるエッグベネディクトを、ドーナツ生地で具材を挟んで仕上げた一品。ドーナツをバンズのようにとらえることで、様々なメニューが生まれそうだ
食事系だけでなくスイーツ系のドーナツもそろえることで、モーニングからランチ、カフェタイム、そしてアレンジ次第ではディナーでも集客が可能になるかもしれない

おやつだけじゃない! ランチで好評のドーナツサンドイッチ

ロサンゼルス、ダウンタウンのオフィス街に2017年4月オープンしたばかりの「アストロドーナツ&フライドチキン(Astro Doughnuts & Fried Chicken)」。その名のとおり、ドーナツとフライドチキンを看板メニューに掲げる店だ。

オールドベイドーナツ(四角いドーナツ)でトマトとレタス、揚げたてのフライドチキンを挟んだ「フライドチキンサンドイッチ」。「ドーナツを使ってサンドイッチを作ったら…」という発想から誕生

今までドーナツといえば、おやつかせいぜい朝食用。だが、この店は甘くないドーナツで自家製のフライドチキンとレタス、トマトを挟み込み、チキンバーガー風ともいえる「フライドチキンサンドイッチ」(8ドル50セント=約935円)を生み出した。ソースはブルーチーズ、ハニーマスタード、バーベキューなど7種類から選択。さらに、焼きベーコン(1ドル=約110円)やスライスチーズ(50セント=約55円)、キムチ味のコールスロー(2ドル=約220円)、ハラペーニョのピクルス(50セント=約55円)など、トッピングも8種類から選べる。ハンバーガーのバンズやサンドイッチのコッペパンとはひと味違うモチモチのイーストドーナツと、外はカリッ、中はジュワッとしたフライドキチンとの相性もよく、ソースやトッピングによって味のバリエーションも楽しめる。

ちなみにバンズは普通の丸いドーナツとオールドベイドーナツ(甘くない四角いドーナツ)のほか、ポテトロール(ジャガイモの粉で作られたパン)、チェダーチーズビスケットも選べる。

もちろん、おやつやデザート向けの甘いドーナツも多種そろえており、なかでも人気なのがオシャレなアレンジを加えたドーナツだ。ベストセラーは「クレームブリュレ」(3ドル50セント=約385円)。シンプルなイーストドーナツの中に卵たっぷりのカスタードクリームを忍ばせ、上からグレーズを塗ってグラニュー糖をまぶし、表面をバーナーで焦がして仕上げる。まさに、クレームブリュレ風のドーナツで、表面のカラメルの苦味と、パリパリとした食感がアクセントになっている。

ダウンタウンのオフィス街だけあって、客層は近隣で働くビジネス層が中心。甘いドーナツとコーヒーでおやつを兼ねたミーティングをする人たちや、食事系ドーナツでランチを楽しむ人などで賑わい、客足が絶えない人気店になっている。

スイーツ系ドーナツで一番人気の「クレームブリュレ」。見た目はシンプルだが、中にはカスタードクリームがたっぷり、表面はパリパリとして食感も楽しい
甘いドーナツも四角い形や鮮やかな色のものなど、昨今のキーワードである「SNS映え」を意識した商品をラインナップ
アストロドーナツ&フライドチキン(Astro Doughnuts & Fried Chicken)
516 West 6th Street, Los Angeles, CA 90014
http://astrodoughnuts.com/

イングリッシュマフィンをドーナツに。小さな工夫でヒット商品が誕生

ロサンゼルスで人気の高いビーチスポット・サンタモニカ。観光客も多く集まるビーチ沿いのショッピングモール近くに2015年1月オープンしたのが、「サイドカードーナツ&コーヒー(Sidecar Doughnuts & Coffee)」のサンタモニカ店だ。

ポーチドエッグ、ベーコン、バジル風味のオランデーズソースを、マラサダというイーストドーナツの一種で包んだ「バジルエッグズベネディクト」。中央にバジルの葉が刺してありフォトジェニックなビジュアル

この店でも食事系ドーナツを提供しており、特に人気を集めているのが「バジルエッグズベネディクト」(5ドル75セント=約633円)。そもそもエッグベネディクトとは、半分に割ったイングリッシュマフィンの上にポーチドエッグやベーコンをのせたものだが、「バジルエッグズベネディクト」は、イングリッシュマフィンの代わりにドーナツを用い、具材を挟んだもの。通常エッグベネディクトで使われるオランデーズソース(バターとレモン汁を、卵黄を使って乳化させたもの)をバジル風味に仕上げて加える。生地は、マラサダというイーストドーナツの一種。ふわふわとしたドーナツ生地、柔らかいポーチドエッグ、そしてたっぷりのソースが口の中で溶け合う。

また、甘いだけではないドーナツの先駆けで、今では多くのドーナツ店の定番となっている「メープルベーコン」(3ドル75セント=約412円)も人気。ドーナツの上にかけるグレーズにはメープルシロップを加え、カリカリに焼いたベーコンをトッピング。カリカリとふわふわの異なる食感とともに、甘みと塩気の絶妙なバランスが癖になる。

一方、スイーツ系ドーナツで一番人気なのは、鮮やかなピンク色が目を引く「ハックルベリー」(3ドル50セント=約385円)。オレゴン産のハックルベリーという果実を練り込んだ生地で作るドーナツに、同じくハックルベリーをたっぷり使ったグレーズをトッピング。ほんのりとした酸味が爽やかなドーナツだ。

レギュラーメニューのドーナツの種類は他店に比べて少ないが、毎月その時の旬の素材を使った新作を期間限定でメニューに加え、プレミアム感を出している。

来店客は富裕層が中心で、観光客も多い。安くておやつや朝食メニューだったドーナツが、トッピングを変えたり、肉や卵を挟んだりすることでオシャレなランチメニューとして人気を呼んでいる。工夫次第で、まだまだ進化の余地は残されていそうなだけに、これからどんなアレンジメニューが登場するか楽しみだ。

カリカリに焼いたベーコンとメープルシロップが絶妙なハーモニーを奏でる「メープルベーコン」。ベーコンをトッピングすることで食べ応えがあり、特に男性に人気が高い
左端がスイーツ系ドーナツで一番人気の「ハックルベリー」。隣の「チョコラロット」(3ドル25セント=約358円)は、ビターチョコレートを使ったカカオの風味豊かなドーナツで、「ハックルベリー」に次ぐ人気商品
サイドカードーナツ&コーヒー(Sidecar Doughnuts & Coffee)
631 Wilshire Boulevard, Santa Monica, CA 90401
http://www.sidecardoughnuts.com/

取材・文/押見由香(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約110円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。