世界各国発 寿司のニュースタイル 前編

日本で生まれた寿司は、「カリフォルニアロール」を筆頭に、世界で進化を遂げている。SNS全盛のこの時代に、さらなるアレンジが加わった“スシ”を、アメリカのラスベガスとシアトルから紹介

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Vol.157

日本生まれでありながら、今や世界各国で独自の進化を遂げている「寿司」。日本でもおなじみとなった「カリフォルニアロール」も、そのなかのひとつ。アメリカ人が、「生魚が苦手」「“黒い紙”に見える海苔に抵抗がある」といった理由で、生魚の代わりにアボカドなどを使い、外側から、酢飯、海苔、具材の順になる「裏巻き」で作られたメニューだ。このように、現地の食文化や嗜好に合わせて、様々なアレンジが加えられ、寿司は世界中で愛される料理となっている。

そんな寿司が、SNS全盛のこの時代に、世界各国で新たなアレンジを加えられて、見た目にも鮮やかなメニューとして人気となっている。

前編では、アメリカのシアトルとラスベガスから、ガラッと形を変えた寿司を紹介する。

包み紙を開いて食べるスタイルの「スシブリトー」。「ランチはデスクで仕事をしながら食べたり、移動の合間に歩きながら食べる」というビジネスマンも多いため、巻き寿司よりもさらに手軽でニーズは高い
見た目もカラフルな「スシカップケーキ」は手のひらサイズ。“少し豪華なカナッペ”といった感じで、酒のつまみにもぴったりで、さらに人気を集めそうだ
「スシブリトー」も「スシカップケーキ」も、タレやソース、マヨネーズであらかじめ味付けをして提供。「寿司は醤油をつけて食べるもの」という常識にとらわれず、現地の人の好みを追求

素材のハーモニーを楽しむ「スシブリトー」

世界的な企業の本社が集まり、日進月歩の発展を見せているシアトル。その中心部に位置し、近年、再開発が進んでいるパイオニアスクエア地区に2017年8月オープンしたのが、「スシブリトー」の専門店「アイ・ハート・スシ(I Heart Sushi)」だ。

一番人気の「アイ・ハート・ブリトー」。太巻きのように輪切りにせず、半分にカットしたものをブリトー同様に紙で包んで提供。生魚や生野菜を具材にしているのも特徴的

「スシブリトー」は、一般的なブリトーで使われるトルティーヤの代わりに、海苔と酢飯で具材を包んだもので、直径約6cm、長さ約20cmというボリュームも特徴。カリフォルニアロールなどとの違いは、魚介や野菜だけでなく肉や豆も具材としており、ソースも合わせて巻いている点だ。

バリエーションは、全部で8種類。いずれも8~10品もの具材を巻いてあり、食べ応えは十分だ。一番人気は「アイ・ハート・ブリトー」(12ドル=約1,320円)。キハダマグロの刺身、ワケギ、グリーンリーフ、キュウリ、アボカド、たくあん、ゴマ、フライドオニオン、ふりかけ、スパイシーソースを包んでいる。ピリリと刺激的なソースが、具材の味をうまくまとめており、辛い物好きのアメリカ人に好評だ。

2番目に人気が高いのは、「チーフ・シアトル・ブリトー」(12ドル=約1,320円)。地元産の天然サーモン、炒りココナッツ、青唐辛子、ワケギ、赤玉葱のピクルス、枝豆のスナック菓子などに甘みの強いソースを合わせる。新鮮なサーモンのしっとりとした口当たりと、枝豆スナックのサクサク感が見事に調和している。

「スシブリトーは、ひと口かじると、刺身や野菜など様々な具材が口の中で混ざり合うメニュー。それぞれの具材の味や食感の調和こそが人気の秘密です」と、オーナーのアンソニー・フレイジャー氏は強調する。日本人なら、フライドオニオンやスナック菓子を寿司と合わせようなどとは思わないだろうが、既存の概念にとらわれず、“味や食感のハーモニーを楽しみたい”というアメリカ人ならではのニーズを追求したことで、新しいスタイルが生まれたといえる。

主な客層は、ビジネス層と学生。作り置きはせず、注文を受けてから調理。具材を巻いて、ものの数分で完成する。片手に持ちながら手軽に食べられるため、ランチの時間があまり取れない人にもぴったりだ。また、1つ12ドル(約1,320円)以下という価格設定も、シアトルではフードコートやファストフードでのランチと同じくらい。この新しい巻き寿司が、アメリカ全土でブームを巻き起こすかもしれない。

サーモンと酢飯以外に、野菜や豆類も入る「チーフ・シアトル・ブリトー」。栄養バランスがいいことも人気の理由
オーナーのフレイジャー氏(右)と、シェフのタン氏(左)。香港の飲食店でもシェフを務めていたタン氏は、「シアトルの人はすぐ流行に飛びつかず、口コミサイトのレビューなどを吟味して店を選ぶので気が抜けません」と語る
I HEART SUSHI
111 Yesler Way, Pioneer Square,Seattle, WA 98104
https://www.iheartsushi.online/

カップケーキに形を変えた寿司が登場!

世界最大級のカジノの街として知られるラスベガス。その中心、巨大カジノホテルが建ち並ぶ大通りのちょうど真ん中に位置するリンクプロムナードは、人気の観光スポット。世界最大級の観覧車、飲食店、土産物店などが集まり、観光客で深夜まで賑わっている。ここに、2017年2月オープンしたのがスシブリトーの店「ジャブリトス(JABURRITOS)」の2号店だ(1号店はラスベガス南西部の住宅街に2016年4月オープン)。

スシカップケーキの「サーモン」。寿司に慣れた常連客が多い1号店では刺身用のサーモンを使うが、観光客が多い2号店では生臭さを感じにくいスモークサーモンを用いるなど、客層に合わせて食材も変えている

看板メニューは、2017年夏に登場した「スシカップケーキ」。ワンタンの皮を焼いて作ったカップの中に酢飯を入れ、そこに様々な食材を乗せてソースなどをかけたもの。直径5cmほどのカップケーキ風の寿司だ。

メニューは3種類。「サーモン」は、スモークサーモンとクリームチーズを乗せ、とびこを散らしてディルの葉で飾り付けた、濃厚な味わいが自慢の一品。「スパイシーツナ」は、チリソースとマヨネーズで和えたマグロにキュウリをのせ、辛めのマヨネーズソースと蒲焼きのタレをかけた甘辛な寿司だ。「スパイシーカニカマ」は、チリソースとマヨネーズで和えたカニカマに、ワカモレ(アボカドを使ったサルサ)とクリームチーズをのせ、アクセントに七味唐辛子をトッピング。クリーミーでピリ辛という絶妙のバランスが特徴的。これらを4個入りパック(「サーモン」「スパイシーカニカマ」が各1個、「スパイシーツナ」が2個)にして、12ドル(約1,320円)で販売している。

オーナーのケン・アオキ氏は、ラスベガスで「スシブリトー」ブームに火をつけた草分け的存在だが、さらに別の形の寿司を作ろうと考えた。小さくて手軽に食べることができるだけでなく、写真映えし、かつ和食に慣れていない人にもおいしそうに見えるメニュー。この条件を満たすべく試行錯誤した結果、「スシカップケーキ」が誕生した。

ラスベガスの真ん中という場所柄、客層はアメリカ国内はもちろん、世界中から訪れる観光客やビジネス層が中心。おやつ感覚で1パックを2、3人でシェアする人もいれば、日本酒ベースのサングリア「酒サングリア」(7ドル=約770円)のつまみにする人もいる。ブリトー風やカップケーキ風など多彩に形を変え、今までにない食材と組み合わせることで、寿司は新たなファンを生み出している。

「スパイシーカニカマ」は、アメリカでも人気のカニカマがベース。ワカモレにかつおの出汁を加えて柚子胡椒を利かせ、七味唐辛子を振るなど“和風テイスト”を大切にしている
両親が寿司店を営んでいたオーナーのケン・アオキ氏。「世界中から人が集まるラスベガスの目抜き通りにあるので、常に新規のお客様が来ます。そこで、いろいろなチャレンジができるのがおもしろい」と言う
ジャブリトス(JABURRITOS) Linq Promenade店
3535 S Las Vegas Boulevard, Las Vegas, NV 89109
http://jaburritos.com/

シアトル 取材・文/大井美紗子(海外書き人クラブ)
ラスベガス 取材・文/石川葉子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約110円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。