英国発 キッズフレンドリー店 最前線 前編

若い女性を取り込むことは、集客の重要な要素だが、イギリスでは、子ども連れの女性を狙う「キッズフレンドリー」な店が増えている。前編では、子育て世代の多いカンタベリーの店を紹介する。

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Vol.163

「若い女性を取り込むこと」は、国や地域を問わず飲食店にとって集客における大きなテーマの一つといえる。彼女たちが集まれば、同世代の男性も引き寄せられる。そして、トレンドに敏感な彼女たちに受け入れられて定着すれば、やがて保守的な上の世代も動くからだ。

そんななか、イギリスでは「子ども連れを取り込むこと」が重要なキーワードになっている。これまで、キッズメニューがある店といえば、ファストフード店やファミリーレストランなどで、メニューも限られていた。しかし、個店でもキッズメニューを用意し、かつアレルギーや健康にも配慮した“キッズフレンドリーなレストラン”が増えており、子ども連れの女性やファミリーを呼び込むことに成功しているのだ。

前編は、ロンドンから電車で1時間の場所にある子育て世代の多いカンタベリーから、キッズメニューを充実させたモダンカフェとイタリア料理店の取り組みを紹介する。

しぼりたての果汁を使ったイチゴシェイクとモッツァレラチーズを挟んだケサディーヤ、プロテイン入りパンケーキがセットになったキッズメニュー。おいしさはもちろん、栄養面のバランスも考慮されているのが人気の秘密
キッズメニューのピザやパスタを提供する時には、スタッフが目の前でチーズを削るサービスも。特別感を感じさせる演出に、子どもも大喜び
アレルギーを持つ子どもが増えていることや、食習慣の多様化に対応するため。グルテンフリーやビーガン向けのキッズメニューも。写真は、グルテンフリーのパンとパスタ

親も子どもも納得のおいしい&ヘルシーなキッズメニュー

2014年スペインのイビサ島に1号店をオープンし、現在、スペインとイギリスで5店舗を展開しているカフェ「ザ・スキニー・キッチン(The Skinny Kitchen)」。パンケーキやハンバーガー、パスタ、ピザなど様々なメニューをそろえ、ココナッツ、チアシード、アサイー、アマニ油といった栄養価が高い話題の食材を使っていることから、健康志向の女性に人気が高い。

高タンパク、低脂肪の栄養補助食品・プロテインは、「おいしくない」というイメージを持つ人も多いが、パンケーキの生地に入れて焼き上げ、ハチミツなどをかけることで子どもでも抵抗なく食べられる。中はフワフワ、外はカリカリの食感も人気

もともと、1号店のオープン時には、「キッズメニュー」は用意していなかった。しかし、オーナー夫妻のジョエル・ベルチェム氏とロイズ・レッケル氏は、自分たちが子どもと外食する際にファストフードなどしか選択肢がないことにかねてから不満を抱いていた。そこで、店のメニューの一部を子ども用の小さいサイズで提供することにした。さらにその後、子どもがよく注文するメニューを分析。人気メニューを集めて、ドリンク、メイン、デザートのコース仕立てにした「キッズメニュー」を提供するようになった。

ロンドンの南東部に位置する都市カンタベリーの旧市街地に、2016年6月オープンしたカンタベリー店でも、「キッズメニュー」(6.5ポンド=約990円)は大人気。ドリンクは、「リンゴジュース」「オレンジジュース」「バナナとイチゴのミルクシェイク」から選べる。その日の朝、地元の生産者から届けられたフルーツを、注文を受けてから絞って提供するため、鮮度のよい安全な食材を使用していることも売りとなっている。

メインの料理は、モッツァレラチーズをトルティーヤで巻きオーブンで焼いた「モッツァレラチーズのケサディーヤ」か「チキンのソテーとブロッコリー、マッシュポテト添え」から選べ、「ケサディーヤ」が人気。モッツァレラチーズの食感が子どもに好評で、ナイフやフォークを使わず手で食べられることもオーダー率が高い理由だ。

デザートは、放牧飼育された鶏の卵やバナナ、粉末プロテインなどで作る「プロテイン パンケーキ」。外はカリカリ、中はフワフワの食感が絶妙で、子どもがカットしやすいようにサイズを小さくしている。トッピングは「イチゴ、バナナ、ハチミツがけ」か「ワイルドストロベリーのコンポート、ハチミツがけ」から選べる。アレルギーを持つ子どもに配慮し、料理に使われているアレルギー物質を詳細に表示したシートを用意していることも、子ども連れの女性からの支持が高い要因になっている。

子ども用メニューを用意するだけでは、従来のファストフード店と変わらない。「外食でも子どもに安心・安全な食材や健康的なメニューを食べさせたい」という母親たちのニーズに応えるメニューを用意することで、見事ファミリーの獲得に成功している。

ドリンクで人気が高いのは、「バナナとイチゴのミルクシェイク」。牛乳アレルギーの子どものために、アーモンドミルクを代用したものも用意
マネージャーのベン・タッポニエ氏。手に持っているアレルゲン表には、詳細なアレルギー情報が記載してあり、子ども連れの客に必ず見せている
ザ・スキニー・キッチン(The Skinny Kitchen)
7A St Peter's Street, Canterbury CT1 2AT
https://www.skinnykitchen.co/

選択肢の多い“選べる”キッズメニューが好評

手軽な値段で本格的なイタリア料理が楽しめると人気の「ジッジ(Zizzi)」は、イギリスとアイルランドに140店舗を展開するチェーン店。カンタベリー店は、イギリス・カンタベリーの、もっとも飲食店が集まるメインストリートに2000年オープンした。

前菜の「野菜スティックとガーリックブレッド」と「オリーブのオイル漬け」。前菜、メイン、デザートとコース仕立てで一品ずつ順番に運ばれてくる提供スタイルも、子どもが特別感を感じる要素だ

同店では、子ども向けメニューとして前菜、メイン、デザートをコースで提供する「バンビーニ メニュー」(6.75ポンド=約1,002円)を用意。家族全員が同じ料理を食べる家庭での食事と違い、「自分の好きなメニューを選べること」が外食のよさと考え、「選ぶ楽しさ」を子どもにも感じてもらいたいと、メニューの選択肢を多くしているのが特徴だ。

前菜は、「野菜スティックとガーリックブレッド」「野菜スティックとディップソース」「オリーブのオイル漬け」から1品選べる。ニンニクとバターの香りが食欲をそそる「ガーリックブレッド」と、ほのかな酸味とオイルのしっとり感が子供にも食べやすい「オリーブ」の人気が高い。

メインは、「ピザ」「パスタ」「チキンフィンガー」からチョイス。「ピザ」はマルゲリータがベースで、ハム、マッシュルーム、ローストパプリカなどを別添えで提供し、子どもが自分でトッピングして仕上げる。「パスタ」は、麺をショートパスタかスパゲティーから選び、ソースをペスト(バジルソース)、ポモドーロ(トマトソース)、チーズ、ボロネーゼからチョイスする。人気のソースは、ひき肉のほか、ニンジンやタマネギ、トマトなど野菜の甘みと酸味が絶妙に一体となったボロネーゼ。ピザやパスタをサーブするとき、スタッフがチーズを目の前で削るパフォーマンスも好評だ。

デザートは、イチゴとラズベリーをたっぷり盛った「フルーツ ポット」か、チョコレート、バニラ、レモン、ココナッツから2種類のフレーバーを選べる「アイスクリーム」。アイスクリームの上にサクサクのコーンを逆さに立てており、仕上げにトッピングする口に入れるとはじけるキャンディーのパチパチ感も特徴だ。また、ドリンクは、ホットココアに泡立てたミルクを加える「チョカチーノ」を提供。大人と同じコース仕立ての構成にすることで、子どもに「一人前として扱われる喜び」を感じてもらいたいという意図もあるという。

また、アレルギーを持つ子どもが増えていることから、グルテンフリーメニューも用意。選べる楽しさを感じてもらいながら、親が気になるアレルギーなどにも気を配り、ファミリーからの支持を集めている。

メインのパスタではボロネーゼソースが一番人気。全粒粉の麺を使っており、モチモチとした食感が特徴。グルテンフリーの麺に変えることも可能
デザートのアイスクリームと、食後のドリンク「チョカチーノ」。アイスクリームに立てるコーンは長さ約8cmほどの小型版。チョカチーノは、大人がコースの最後に飲むコーヒーを子ども向けの甘いドリンクに、と考案した
ジッジ(Zizzi)
53 St. Peters Street, Canterbury CT1 2BE
https://www.zizzi.co.uk/

取材・文/ボッティング大田朋子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1英ポンド=約148円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。