豪州発 朝食「ブレッキー」が進化 前編

オーストラリアではブレックファストを省略してブレッキーと呼ぶことが多い。ブレッキーはソーセージなどの盛り合わせのイメージが強かったが、最近おしゃれに進化。その盛況ぶりを紹介する。

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Vol.171

言葉を省略することが多いオーストラリア人。朝食を意味する「ブレックファースト」も、「ブレッキー(BreakyもしくはBrekkie)」と訳される。

一般的に、家庭での朝食は「トーストだけ」など、あっさり済ませる人が多いが、外食メニューで「ブレッキー」と聞いてオーストラリア人が想像するメニューは、「ソーセージ、ベーコン、目玉焼き、焼きトマト、ハッシュドポテト、トースト(もしくはバンズ)」をワンプレートに盛ったもの。そのボリュームから、「ビッグブレッキー」とも呼ばれ、主に休日のブランチとして親しまれてきた。

そんなブレッキーが、ここ数年、ヘルシー志向や料理のビジュアルにもこだわるニーズの高まりなどとともに、素材や調理法、盛り付けなどもおしゃれに変化を遂げ、ホワイトカラーや金銭的に余裕がある客層の獲得に成功している。前編では、これまでにない新しいスタイルのブレッキーを提供し、モーニングの時間帯に賑わうカフェを紹介する。

昔ながらの典型的な「ブレッキー」。ソーセージ、ベーコン、ハッシュドポテトなど、オーストラリア人にとってなじみのあるラインナップで、カフェでの一般的な単価は10~15ドル(=約820~1,230円)前後。定番の朝食として、現在も安定した人気を誇る
ここ数年で注目を集めるようになった新スタイルのブレッキー。ワンプレートを踏襲しながら、従来とは違う素材や調理法、ソースを用いているのが特徴で、見た目もフォトジェニック
これまで“バーベキュー料理の盛り合わせ”のようなイメージだったブレッキー。おしゃれなカフェで提供されるメニューが、オージーたちの概念を変えつつある

カフェの“稼ぎ時”を変えたおしゃれブレッキー

オーストラリアの東海岸に位置する100万都市・ブリスベンの中心部から、川をはさんで南側にあるサウスブリスベン地区。博物館や美術館、人工ビーチなどがある繁華街の一角に、カフェ「プールボーイ(Pourboy)」はある。オーナーのセバスチャン・バトラー=ホワイト氏が、市の中心部で同名のカフェをオープンしたのが2011年。着実にファンを増やすなかで、「マフィン程度の軽食ではなく、しっかりとした料理も提供し、食事も楽しめるカフェにしたい」と、2017年5月、広めのキッチンを確保できる現在の物件に移転した。

従来のブレッキーよりも見た目も鮮やかでおしゃれな盛り付けが印象的な「PBビッグブレックファスト」。パンではなくトルティーヤを使っているのは、ほかの素材をのせて食べるのに適しているから

オープン時から朝食のニーズを狙って営業は6時からスタート(土・日曜日は7時~)。モーニングの一番人気は、店名の略称を冠した「PBビッグブレックファスト」(22ドル=約1,804円)だ。外はカリカリ、中はジューシーに焼き上げたポルチーニ茸入りソーセージと半熟のポーチドエッグ。また、ベーコンや焼きトマト、薄切りトーストといった一般的なブレッキーで用いられる料理の代わりに、生ハム、プチトマト、トルティーヤを使用。さらに、ローストしたカボチャと赤パプリカに、ヤギの乳から作るシェーブルチーズを溶かしてオリーブオイルと混ぜたソースを添えている。昔ながらのブレッキーをベースに、食材などを変えて、ヘルシーに仕上げたことで、朝食としては高単価ながら女性を中心に高い人気を誇っている。

同じく人気が高いのが、「スローローストフィールドマッシュルーム」(18ドル=約1,476円)。直径およそ10センチのフィールドマッシュルーム(ハラタケ)とミニトマトを低温でじっくりロースト。そこにホウレンソウのソテーとポーチドエッグを加える。砕いたアーモンドとゴマ、羊のクリームチーズソースも添えてあり、まろやかさや香ばしさなど、味の変化を楽しむことができる。

また、「従来のブレッキーに使われる素材で、冬場の朝に体が温まる料理を提供したいと考案した」(ホワイト氏)のが、「ベイクドエッグス」(18ドル=約1,476円)。ココットの底にホウレンソウを敷き、卵、チョリソーのスライス、白インゲン豆、トマトソース、スプラウトを加えてオーブンで焼き上げたもので、バターをたっぷり使ったサワードウブレッドとギリシャ風ヨーグルトを添える。卵のトロトロと豆の歯ごたえ、スプラウトのシャキシャキ感をアツアツで楽しめると好評だ。

モーニングの客層は、平日は近くに住むビジネス層で、土・日曜日はファミリーが中心。ランチ、カフェ、ディナーを含めて、もっとも店が混むのはモーニングタイムで、店の前に行列ができることもあるというから驚きだ。ブレッキーのイメージを覆すおしゃれでヘルシーなメニューが、売上の軸となる重要なアイテムになっている。

野菜がメインのヘルシーな「スローローストフィールドマッシュルーム」。砕いたアーモンドと羊のクリームチーズソースもおしゃれに盛り付けている
オーブンで焼き上げる「ベイクドエッグス」は、冬季限定のブレッキーメニュー。来店客のニーズを意識しながら、季節ごとにメニューを入れ替えている
Pourboy
Shop 4, 271 Grey Street, South Brisbane, Queensland
https://www.pourboy.com.au/

住宅街のカフェでも新スタイルのブレッキーが人気

ブリスベンの中心部から南西へ約8キロ。閑静な住宅街・グレイスヴィル地区で人気を呼んでいるのが、2014年9月にオープンした「グッドネスグレシャスカフェ(Goodness Gracious Café)」。ここも、オープン当初からモーニング営業(6時~)を行っており、他店との差別化を狙って提供しているおしゃれなブレッキーが評判となっている店だ。

分厚い豚バラ肉の存在感が際立つ「グッドネスグレシャス」。食材の彩りも鮮やかで、どれも素材の旨みを活かした味付け

看板メニューは店の名を冠した「グッドネスグレシャス」(22ドル=約1,804円)。使用する食材は、豚肉、卵、トマト、ポテト、パンと、これまでのブレッキーと変わらないが、それぞれ調理法に工夫を凝らしている。

ソーセージの代わりに、豚バラ肉の煮込み。ベーコンではなく、パリパリに焼いた生ハム。焼きトマトの代わりに日干ししたトマト。目玉焼きでなくオムレツ。どれも従来のブレッキーメニューよりもひと手間かけたもので、素材の旨みを楽しめるラインナップだ。一方、ジャガイモは、素材の旨みをストレートに感じてもらうため、ハッシュドポテトより調理法がシンプルなベイクドポテトで提供している。これらの料理の中でも特に人気なのが、豚バラ肉の煮込み。脂が適度に落ち、仕上げに表面を焼いているため外はカリカリ、中はホロホロでクセになる味わい。使っている食材は昔ながらのブレッキーと変わらないため、幅広い層に受け入れられるメニューといえる。

この「グッドネスグレシャス」が、それぞれの素材を一つひとつ味わうのと対照的に、素材を混ぜて食べるのが「豆とブルスケッタ」(17ドル=約1,394円)。生ハムとフェタチーズ、甘めによく煮込んだヒヨコマメ、まろやかな半熟の目玉焼き、スプラウトが盛られた一皿。これらを混ぜて、ほのかな酸味が特徴のサワードウブレッドにのせて食べると、塩気や甘み、酸味、苦味のハーモニーが楽しめる。

また、「サーモン」(19ドル=約1,558円)はシンプルな味付けが特徴の人気メニュー。皮に塩をかけ、パリパリに焼き上げたサーモンの切り身、オリーブオイルでソテーしたアスパラガス、カシューナッツのロースト、ポーチドエッグがワンプレートに。テーブルに用意された岩塩をひと振りすると、素材の旨みがさらに際立つ。

モーニングの主な客層は、平日が近隣に住む女性グループ、土・日曜日はファミリー。男性が好むような豪快な肉料理だけではなく、ヘルシーで素材の旨みを楽しめる繊細な料理も提供することで、女性や子ども連れのニーズを獲得。朝から近隣住民の憩いの場となっている。

シンプルな素材を混ぜながら食べる「豆とブルスケッタ」。ヘルシー志向の女性などから支持を得ている
肉料理がメインになることが多いブレッキーのなかで異彩を放つ「サーモン」。アスパラガスの緑と、スライスしたトウガラシの赤が映える
Goodness Gracious Café
250 Oxley Road, Graceville, Queensland
http://www.goodnessgraciouscafe.com.au/

取材・文/柳沢有紀夫(海外書き人クラブ) 撮影/TAiGA(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約82円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。