Vol.173
昔ながらの屋台や、調理機器を備えたフードトラックなどが、屋外に複数集まって営業を行う「屋台村」。ここ数年、海外では毎週末に行われる大規模な屋台村が人気を呼んでいる。そのなかから、オーストラリアとタイの事例をピックアップ。
前編では、オーストラリア第3の都市・ブリスベンで、音楽のライブも楽しめる屋台村の人気の秘密に迫る。
コンテナ置き場を再開発して週末限定の屋台村に
オーストラリア・ブリスベンの中心部から東に8キロ。かつては倉庫と空き地しかなかった土地に週末限定の屋台村「イートストリートノースショア(Eat Street Northshore)」が誕生したのは、2013年11月のこと。
もともとは、ブリスベン市が所有する貨物コンテナの置き場だったこのエリアを、ノースショア・ストリートフード&アートマーケッツ株式会社が再開発。使用していないコンテナを飲食店のテナントとして活用し、音楽ライブを行うステージを新たに作って食とエンターテインメントの空間を生み出した。可動式の屋台やフードトラックではなく、常設のコンテナ型店舗が軒を連ねる新しいスタイルの“屋台村”だ。
同社の共同オーナーの一人、ジョン・ステイントン氏は、開業に向けて飲食店を約40店舗誘致し、ライブパフォーマンスができるステージも用意するなど、食事をしながら無料で音楽ライブが楽しめる空間を作り上げた。これが見事に当たり、オープン初日から大盛況。想像以上の人気を受けて、2017年4月には、そこから程近いブリスベン川沿いの大きな土地に移転。店舗数を約70(8割が飲食店、2割は雑貨店)にまで増やし、幅10メートルを超えるメインステージをはじめとする大小4カ所のステージ、約3,000名分の屋根つきテーブル席、1,200台分の駐車場を備えるまでになった。また、ファミリーが多い日曜日には子ども向けに滑り台などの遊具を設置し、幅広い層が楽しめる工夫も施している。
屋台村の入場料は、1人3ドル(=約246円)。営業は金~日曜日のみで、金・土曜日が16~22時、日曜日が12~20時。「平日は郊外まで足を運ぶ人は少ないため、あえて週末限定にしています」と、ステイントン氏は語る。もともとコンテナ置き場で土地代が安かったことも、週末限定営業で運営していける理由の一つといえそうだ。
移転してテナントの数は以前の1.5倍以上になったが、現在でも出店を希望する飲食店から毎日5件以上の申し込みが入るという。「オープン当初から営業する店のほとんどが出店を継続しているため、順番待ちの列は長くなるばかりです」と、ステイントン氏はあまりの反響にうれしい悲鳴を上げている。
客層は、金曜日が20~30代のカップルやグループ、土・日曜日はファミリーが中心。屋外にある施設だが、敷地の60%が屋根に覆われており、客席のほとんどが天候による影響を受けないこともポイント。オーストラリアは亜熱帯気候で年間を通して温暖なので、季節による客数の変動はほとんどない。毎週末に万単位の客が来場し、お祭りのような賑わいを見せている。
多様化する食の嗜好に合わせて、料理のジャンルも多彩に
現在、テナントに入っている飲食店の業態は、フランス料理や中華、和食など様々。どんな店をテナントに入れるか決める際に、ステイントン氏はオーストラリアの人々の食のニーズが多様化してきていることを考慮したという。「10年くらい前までオーストラリアの食は非常に保守的で、『毎晩ビーフステーキとポテトと温野菜でも平気』という人も少なくありませんでした。しかし、最近は様々な国からの移民が増え、各国の食文化や、その影響を受けた創作料理が登場し、選択肢が増え、ニーズも多様化しています」(ステイントン氏)。
例えば、エスニックフード店「ローグスパイス(Rogue Spice)」も、ニーズの多様化を象徴する人気店の一つ。名物の「ポークペリー」(15ドル=約1,230円)は、じっくり煮込んだ豚バラ肉にタマネギ、パクチー、唐辛子などのスライスをトッピングしてアジア風の味わいに仕上げたメニューだ。「豚バラ肉はフレンチの真空調理を用いて低温でじっくり12時間かけて火を入れ旨みを閉じ込めます。こうした様々なジャンルの調理法を取り入れることも、かつてのオーストラリアでは考えられないことでした」と、シェフのシャノン・オーイェ氏。
さらに、世界的なトレンドである「写真映えするメニュー」は、屋台村でも大人気。屋台村が開業した当時からの大人気店である、お好み焼専門店「コテツ(Kotetsu)」も、そうしたトレンドをしっかり捉えて人気を呼んでいる店だ。店長の野田有紗(ありさ)氏は、「豚肉などの具材を生地と混ぜる“日本の大阪スタイル”ではなく、写真を撮影したときにインパクトが出るように、具材を生地の上にトッピングする調理法に変更しました。また、チーズも生地に混ぜるのではなく上に乗せてバーナーで炙る演出が好評で、撮影する人が多いですね」と、狙いどおりの効果を語る。
もちろん、ステーキなどオーストラリアらしい肉料理を提供する店も安定した人気を誇っている。なじみの味から異国の味まで選択肢が数多くあることで、その日の気分に合わせてチョイスできることも屋台村が人気となっている理由の一つといえそうだ。
これらの店のほとんどは姉妹店などを持たない単独店舗だが、週末のみの営業にもかかわらず経営を継続するために必要な収益を十分に得ているとのこと。「実店舗を持つよりも家賃は安く、少人数で運営できるため、人件費も抑えられます。また、週末限定で音楽も楽しめることによって安定した集客力を誇っていることもメリット。屋台村での成功をステップに実店舗での出店を果たした人もいます」と、ステイントン氏は語る。
週末限定で音楽と食事を楽しめる屋台村。この人気が続けば、ブリスベン以外の都市にも波及して、似たような屋台村が登場するかもしれない。
221D Macarthur Avenue, Hamilton, Queensland
https://www.eatstreetmarkets.com/
取材・文/柳沢有紀夫(海外書き人クラブ) 撮影/TAiGA(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約82円
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