2015/02/27 繁盛の黄金律

食材、機器、技術の三拍子で看板商品をもっと強くする 前編

味は変えない。質を変える-主力商品の磨き込みの大事さを、この連載でも何度か指摘しましたが、「磨き込み」とは具体的に何をすることなのか。今回はこの点にフォーカスして述べてみたいと思います。

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Vol.42

味は変えない。質を変える

主力商品の磨き込みの大事さを、この連載でも何度か指摘しましたが、「磨き込み」とは具体的に何をすることなのか。今回はこの点にフォーカスして述べてみたいと思います。

「磨き込み」は、次のように大きく分解することができます。

  1. 食材の質を上げる。組み合わせを変える。
  2. 調理機器を変える。
  3. 調理技術を上げる。

この3つです。

絶えざる改変と前進が必要だ、ということです。人気の売れ筋商品がだんだん売れなくなっていくことがよくありますね。「同じ材料を使って、同じ料理法で作っているのに、なぜ?」と店主は考え込んでしまいますが、「それだから売れなくなるのです」と申し上げたい。一カ所に留まっていると、お客は必ず「まずくなった」と言います。進化、前進させているときだけ、「変わらなくていいね」と評価してくれます。そういうものなのです。

老舗の看板商品=ロングセラー商品は、実は絶えず商品設計を変えています。まず素材を進化させているのです。一カ所に留まっていては、お客から見棄てられてしまうことを、彼らは知り抜いています。つまり、「味は変えない。しかし、質は上げる」ことです。これを日々実践している店だけが、人気店・繁盛店の地位を保っていけるのです。

まず、食材については「よいものは少ない」が原則です。これは人生全般にも言えることですね。「よい者(人)も少ない」ですからね。よい食材を見つけるためには、現地に自らの足で出向くことも1つの選択肢です。生産地や漁港に行って、直接生産者や漁師と会って話し合わなければなりません。彼らは自分で作り、自分で獲った食材に強い自負心を持っています。それらの食材に敬意を払わない人には絶対によいものを渡しません。また、よい情報を提供しません。彼らとの間に太い人脈を持つことで、情報量は飛躍的に高まり、よい食材がまさに芋づる式に引き寄せられてきます。しかも安い価格で。店の中に留まっている限り、いい食材は手に入らず、商品価値の後退はまぬがれません。

バランスを調整しながら食材の高質化を進めていく

食材を新しく組み合わせることも大事です。1つの食材の質が上がると、全体のバランスが変わってしまい、味が全然別の物になってしまいます。看板商品の原則は「味は変えない」ですから、食材の組み立て直しが必要です。1つだけ突出してよい食材を使うと、バランスが崩れて「まずくなる」ことがしばしばあります。全部の食材をいっぺんに高質化することは難しいですから、1つの食材を変更するごとに、「味を変えない」ための微調整が必要になります。微調整をして味を調えながら、少しずつ食材の質を上げていきます。

これをやり続けている限り、「見棄てられる」ことはありません。常連のお客は同じ物を食べているつもりですが、まったく違った高質メニューを食べているのです。昔に出していたメニューを食べたら、きっと驚きます。「こんなまずいものを食べていたのか」と。そのときに、一カ所に留まっていることの怖さを認識することになるでしょう。

量(ポーション)の変更も常に頭に入れておかなければなりません。ポーションが時代に合わなくなる、ということがしばしばあります。高質化かつ少量化が時代の流れですから、趨勢(すうせい)としては「小型化」でしょう。しかし、量の多さが人気の秘密であることもままありますので、無分別な小型化は人気急落につながりかねません。また、ポーションが味を変えてしまうことも、忘れてはなりません。まったく同じ食材を使ったものでも、量によって全然違う商品になってしまうことはよく知られています。ポーションを変えることは、商品を変えることだ、ということを肝に銘じておいてください。

調理とは、温度と時間の組み合わせです。同じ厨房設備、同じ調理機器を使っているのであれば、温度も時間も変えてはいけませんが、業界では次々と新しいマシンが開発され、日進月歩です。新しい機器の導入によって「よりおいしく」「よりスピーディに」「より少人数」で、同質のものを作ることができるのであれば、その導入をためらってはいけません。

コンベクションオーブンなどはその典型例ですね。ホテルの宴会など、短時間で同時に、しかも大量に料理を提供しなければならない施設にとって、今はなくてはならないものになっています。電磁調理器も同様です。日本料理の炊き物には合わないという意見がまだ根強くありますが、厨房の大きな流れは電磁化です。最新マシンの導入には、細心の注意が必要ですが、「いける」となったら、積極的になるべきです。

導入の指標は、

  1. 変わらぬ味が再現できること。
  2. 味のバラつきをなくせること。
  3. コストダウンが図れること(特に人件費)。
  4. 他のメニュー調理に支障を与えないこと。

この4つです。

(後編へ続く)

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。