2015/03/27 繁盛の黄金律

食材、機器、技術の三拍子で看板商品をもっと強くする 後編

どんなに売れるメニューでも、最終的に店で調理する工程を残さなければならない-外食産業では調理の過程を店舗で行わないことがあります。この外部化をどこまでやるのかを考えなければなりません。

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Vol.43

どんなに売れるメニューでも、最終的に店で調理する工程を残さなければならない

「看板商品をもっと強くする」話の後編です。前回は、看板商品は放っておくと、どんどん人気が下がっていくという話をしました。それを防ぐには、看板商品の改善・進化を常に心がけておかなければなりません。

具体的に何をすればいいのか。それは、

  1. 食材
  2. キッチン機器・設備
  3. 調理技術

この3つの不断の改善・進化です。

今の外食産業では、調理のすべての過程を店舗で行わないケースが多々あります。店舗外で一次加工をしたり、食材の一部を外注品で代替したり、ということも珍しくありません。この調理の外部化をどこまで進めておくのか、という問題がまずあります。例えば、ハンバーグが看板商品であったとします。完全に成形までしたものを作っておいて、注文が入ったときに「焼くだけ」という方式ですと、いちばんスムーズに提供できます。看板商品ですからオーダー数は多くなるので、遅滞のない提供は絶対に必要ですが、「焼くだけ」をやり続けていると必ず看板商品ではなくなります。つまり、売れなくなっていきます。

看板商品であるための絶対条件は、店舗での最終調理の領域があることです。ハンバーグでいえば、肉をミンチして、他の食材と混ぜ合わせて、“あん”の状態にしておくまではやっておいてよいと思います。しかし、“あん”から一定のポーションを取り出し、手でたたいて成形する工程は「注文後」に残しておかなければなりません。店によっては焼きまで入れておいて、注文が入ったら電子レンジでチンして提供するという、とんでもない“看板商品”を持つ店もありますが、必ず売れなくなります。

どんなに売れても、いや、売れているからこそ、面倒くさい調理の最終工程を「注文後」に残しておかなければならないのです。キッチンが人手不足の店主は、絶えずそのことに注意を払っていなければなりません。キッチンのスタッフは、ともすれば簡便化、単純化に向かいがちです。調理工程の順番を変えてしまうことさえあります。結果、できあがった料理のクオリティに大きな違いが生まれます。これまで同じ工程で調理されているとばかり思っていたものが、とんでもなく変更されていて、まったく似て非なる看板商品が提供されているということが、しばしばあるのです。

調理工程に常に目を光らせること。そして、商品のスタンダード(あるべき形質)を明確にしておくこと。これが看板商品を守るための鉄則であります。

調理工程に常に目を光らせること。看板商品を守るための鉄則であります。

看板商品でもっとも大事なことは、「均質」であること

逆に言えば、味が変わらなければ(あるいはよくなるのであれば)、工程は単純化しても、簡略化しても、外部化しても構わないということです。それも、看板商品の改善・進化のワンステップであると考えるべきです。単純化・簡略化・外部化は、キッチンスタッフの負担軽減につながるばかりではありません。バラつきを小さくすることにも直結します。

看板商品の最大のクレームは、「いつもできが違う」です。バラつきこそ、看板商品の致命傷です。そのバラつきをおさえるためには、店舗での最終加工の領域を小さくすることです。つまり、小さくしながらも味を変えない(質を上げる)ためにはどうしたらよいか。そのことを、店主は常に考えておかなければなりません。私も、ずいぶん難しいことを言っています。注文を受けてから作る領域を狭めて、バラつきなくスムーズに提供する仕組みを持つべきである、と言っている一方で、最終加工こそが最終価値を生み出すもっとも重要なポイントだ、とも言っているのですから。

でも、誰もが認める看板商品というものは、この難関をクリアして生き延びたものばかりです。これによって、均質提供(いつも同じ中身、同じ状態で提供)が可能になるのです。こういう盤石なメニューを持っている一方で、外食産業は絶えず新しいものを提供し続けていかなければなりません。旬のメニュー、トレンドメニュー、実験メニューをいつも出し続けることによって、来店客を刺激し続けなければならない宿命を持っているのです。つまり、フェアメニューを打ち出し続けなければなりません。このメニュー開発にも担当者はエネルギーを注ぎ続ける必要があります。フェアでも、絶えざるヒットを打たなければならないのですから大変です。

しかし、フェアメニューで大事なことは、ホームランを打ってはいけないということです。ホームランとは、看板商品のオーダー数を減らすようなバカ売れメニューということです。フェアメニューがいくら売れても、看板商品はビクともしない、という形でなければなりません。また、フェアによる客数増は、通常の客数に加算されるようになっていなければならず、看板商品を食う状態になってはいけません。

フェアメニューにホームランが出てしまったときは、看板商品が弱い、ということの表れです。フェアメニューごときにお客を奪われる料理は、看板商品の資格がないということです。どこか弱点が残っている、ということに他なりません。それでもフェアメニューが売れて売れて…ということであれば、文字どおり「看板を替える」必要があります。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。