2016/04/28 繁盛の黄金律

来店客の「期待客単価」を裏切るメニューを入れてはならない

「期待価格」を裏切らない。もしかしたら、外食業成功のためにいちばん大事なことかもしれません。例えば「あそこは、だいたい1人4千円前後かな」と、客が予想しています。これが期待価格です。

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Vol.56

まず店主が明確な想定客単価をもっていなければならない

お客の「期待価格」というものがあります。この期待価格を裏切らないこと。もしかしたら、これが外食業成功のためにいちばん大事なことかもしれません。

あるイタリア料理店があったとします。「あそこは、だいたい1人4,000円前後かな」と、お客が予想しています。これが期待価格です。それはある1人のお客の期待ではなくて、来店するお客の誰もが頭に描いているものです。

ところが、期待に反して、あるお客が1人8,000円支払ったとします。このお客は、いろいろな落胆(あるいは憤慨)を味わうことになります。「もう二度と来るものか」と、心に誓うでしょう。一方、店主は、こう言うでしょう。「何も私が押し付けたのではない。あの方(客)が勝手に高いものを注文したんだ」と。読者の中にも、「店主が正しい」と考えておられる方もいるでしょうが、これは店主が間違っているのです。なぜなら、お客にそういうオーダーをさせてしまうメニュー構成(と価格設定)がいけないのです。誰がメニューを作ったのですか。店主のあなたでしょう。

店主のあなたがやるべきことは、お客が好き勝手に自由に注文しても、だいたい標準客単価に収まるようにメニュー全体を構成することです。具体的に言えば、価格帯から突出する高単価メニューを置かないこと。ワインについても同じです。2,000円、3,000円台を中心価格帯とするならば、7,000円や8,000円、あるいはそれ以上の価格のワインを置かないこと。つまり、守備範囲を明確に設定しておくこと。これに尽きます。

繁盛店の共通点のひとつとして、時間帯別の客単価にバラつきがないことが挙げられます。それは、「4,000円で楽しんでいただくお店」というように、店主が想定客単価をしっかり持っているということですね。そして、その想定に基づいて、メニュー構成をしていくべきなのです。

客単価のバラつきの大きい店というのは、どういう使い方をしてよいのか、さっぱりわからない店です。店の「像」が明確でないのです。利用動機がはっきりしない店くらい、お客にとって使いづらい店はありません。

期待を裏切る時限爆弾を仕込んではいけない

悪い例を挙げましょう。プリフィックスの店がありますね。前菜、主菜、デザートを選ばせて、何をチョイスしても、例えば4,800円になるという、あれです。

なにもプリフィックスが全部悪いのではありません。そこに時限爆弾のように仕込まれている、オプションメニューが問題です。あと500円プラスすると、この前菜が頼めます。あと1,000円プラスすると、この主菜に変えられます。あれです。オプションが悪いと言っているのではありません。主菜でプラス500円、主菜でプラス1,000円ならば許容範囲ですが、中には前菜でプラス1,500円、主菜で2,000円などというオプションメニューがあったりします。

4,800円のプリフィックスの店が、オプションメニューを選んだばかりに、料理だけで7,000円を超えるたら、店のフォーマットが変わってしまいます。「何を考えているんだ」と、お客は怒りはじめます。客単価を少し上げたい、という店主の気持ちはわかりますが、それはあくまでも「少し」です。期待価格を大きく上回る高い金額を支払う羽目になるお客が出現する、その可能性が生まれてしまうメニューは、失敗作です。そもそも、その店主は商売の素人です。

もうひとつの例。例えば、8,000円でなかなかお値うちのコースを出す日本料理店。ところが、酒のメニューを見ると、目の玉が飛び出るような価格の日本酒がラインアップされていたりします。酒でしっかりお代をいただきましょう、という魂胆が見え見えです。いい気になって飲んでいたら、支払額が1人2万5,000円を超えてしまったりします。これも、お客の期待価格を大きく裏切った例ですが、酒の値付けでお客を失っている日本料理店は結構あります。

ワインでも日本酒でも、今のお客は原価をよく知っています。いくら料理で頑張っていても、この酒をこの価格で出すのかと、お客の不信感を噴出させることになります。私個人としても、ビールやワインや日本酒が抑制された価格で提供されている店に対しては、好感度が上がりますね。いっぺんに信頼感が高まります。

ちなみに、「値付け」を学ぶならば、一度サイゼリヤに行ってみてください。ご存知のように、超安のイタリアンファミリーレストランですが、主力商品の価格ラインに対して、サブ商品はどういう価格ラインにすべきなのか。価格帯とは何を意味するのか。そして、酒の値付けはどうあるべきか。サイゼリヤのメニューには、その原則が貫かれています。客単価1万円以上を取る高級店も、学ぶべきものはあります。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。