Vol.58
カウンター商売のメリットをまず知っておこう
鉄板焼のブームがいよいよ本格化してきました。有名都市ホテル内の定番業態であり、どこも稼ぎ頭となっている部門です。それだけに力が入っています。そのダウンサイズ版、低価格版が今、町中の店として増えてきています。低価格版と言っても、客単価1万円は取れますから、魅力的な業態です。
女子が肉をモリモリ食べたりと、空前のステーキブームにあって、そのひとつの現象であるとも言えますが、この商売のメリットに着目しなければなりません。それは、以前にも書きましたが、カウンター商売の旨みであります。カウンター商売の最大の旨みは、調理する人とサービスする人が同じだ、というところにあります。
ラーメン、寿司、焼鳥、居酒屋、割烹、牛丼、そば・うどんなど、カウンターを使う飲食店の幅は広いですが、基本はつくる人がお客に提供しています。もちろん、カウンターの外(つまり客席側)にもサービス要員はいますが、つくる人と提供する人が同一人物であることが基本の形になっています。これにより、他の外食の形態に比べて、人件費率を低く抑えることができるのです。これが、カウンター商売の最大のメリットです。
さらに、回転率が上がります。店側の都合で客席回転率が上がるのは、カウンター商売だけです。牛丼店なんかは、ピーク時の滞席時間は5分なんてこともありますからね。「売れる時間にメチャクチャ売れる」ということでは、カウンター商売の右に出るものはありません。鉄板焼は5分というわけにはいきませんが、店の提供ペースに合わせて、お客の食事時間を決めることは可能です。
都市ホテル鉄板焼の業態的強みは何か
カウンターというと、「安い、早い」の商売が中心になりますが、鉄板焼は「高い」のです。つまり、高単価が取れるカウンター商売の代表選手、ということになります。寿司店(立ち食い寿司店は別)、割烹も、客単価を高く取れますが店側のペースを押し付けるわけにはいきません。結構長っ尻のお客も多く、回転で稼ぐというわけにはいきません。
鉄板焼のカウンター内のシェフには、技術が求められます。調理の技術はもちろんのこと、その技術を見せるエンターテインメント力も必要ですし、お客とのコミュニケーション能力も求められます。シェフであり、サーバーでもあるのですから、当然のことです。楽しませながら、狙い通りのペースで食事を進めてもらい、また酒もしっかり飲んでいただかなければなりません。やはり、そこは一流の都市ホテルには「一日の長」があって、それらの技術をしっかりと身に付けた調理人を育成しています。
ですから、町中で独立して成功している人は、ホテルでしっかり修業を積んだ人が多いですね。もっとも、ホテル時代と同じ値段でやっている人には、なかなかお客がつきません。同じ素材を使っても、値段を大幅に下げなければ通用しません。それから、成功している人は、いいソムリエをパートナーにしています。そして、5,000円から1万円の範囲内の価格で、店独自の考えを持った品揃えをして、お客のニーズに応えようとしています。ワインも、一流ホテルよりもかなり下の価格帯でラインアップしています。要するに、1万円ちょっとの客単価で、良質の牛肉とお値打ちワインを飲める店が、繁盛しているということです。
ホテルにあって町場の鉄板焼店にはないものは、何だと思いますか。それは、食後の歓談スペースです。ワインの残りと食後酒、それにデザートはこちらで…という特別な席です。実はあれは、大事な役割を果たしています。一種の強制移動なのですね。お客にとっては、おもてなしの一種になっていますが、ホテル側としては、鉄板の席から退出していただいて、あちらで「ごゆるりと」と命じているのです。これで鉄板のカウンター席は、新しいお客を迎え入れる準備ができます。実に巧妙なやり方ではありませんか。
しかし、町中店には、それだけのスペースがありません。そんなスペースがあったら、食事ができるテーブル席をつくるよ、ということでしょう。高単価商売のメリットは享受していますが、ここにもうひとつ「もう一回転」の発想を入れてもらいたいですね。スペースの問題があるにせよ。