2016/08/26 繁盛の黄金律

客数減の時には、値上げも値下げもやってはいけない

客数減の時には、値上げも値下げもやってはいけない -最近は再びデフレ傾向にあります。チェーングループでも、ファストフード、ファミリーレストラン、居酒屋グループでも、低価格派が堅調です 

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Vol.60

客数減とは、店の人気が下落しているということ

最近は再びデフレ傾向にあります。チェーングループでも、ファストフード、ファミリーレストラン、居酒屋グループでも、低価格派が堅調です。この1年間で価格を引き上げてきたチェーンは、どこも客数減に苦しんでいます。あわてて価格引き下げに動いているチェーンも少なくありません。

大都市圏の個店でも、訪日外国人による“爆食い特需”が弱まり、強気の価格戦略が打ち出せなくなっています。値下げすべきか、それとも値上げをして利益確保を優先すべきか、思い悩んでいる経営者も多いことと思います。

結論を先に言いましょう。値上げも値下げも間違っています。

客数が減っているときに、メニュー価格をいじってはいけないのです。値下げをすれば、お客は戻ってくるのではないか、と考えがちですが、間違いです。落ち目=客数減のときの値下げは、店のブランドを傷つけるだけです。固定客は「ああ、そこまで追い詰められているのか」と思い、店に足を運ぶのをやめます。結局、客数減にさらに拍車がかかります。

とりわけ、看板商品の値下げは、今までの価格は間違っていました、と宣言しているわけですから、致命的なイメージダウンをもたらします。絶対やってはいけません。ただし、サイドメニューの値下げはアリです。例えば、ラーメン店で餃子を250円から200円に値下げする。これで餃子の注文数が増えれば、客単価は上がります。客単価が上がる値下げ、これはいいのです。

要は、客単価を下落させるようなダイレクトな値下げをやってはいけない、ということです。

主力商品の注文数が増えれば成功

それでは、値上げはどうでしょうか。客数が下がっているというのは、店の人気が下落していることですから、そこでの値上げは、人気の下落スピードをさらに速めてしまいます。しかし、結構この「最悪手」をやってしまう経営者が多いのです。客数は減っても、とりあえず利益を確保しよう、ということなのですね。人気下落の真っ只中で、値上げに踏み切ることがどれだけ危険なことか。考えてみればわかりそうなものなのに、ワラをもつかむ思いでやってしまいます。

ただし、こういう方法はあります。主力商品の価格ラインを上に引き上げる方法です。例えばラーメン店で、490円、590円、690円のラーメンメニューがあるとします。そのときに、490円を切り捨てて、590円、690円、790円にするのです。これも冒険といえば冒険ですが、ラーメン全体の注文数が減らないのであれば、この値上げは成功です。

しかし、490円のラーメンをそのまま590円にする、ということではありません。490円とは明らかに違いのわかる、より高品質でおいしいラーメンが、590円で提供されていなければなりません。490円のラーメンがなくなって失望するお客の数よりも、590円の新ラーメンに感動してくださるお客の数が上回らなければなりません。

つまり、店のブランド力が上がって、新規客が増えなければならないのです。イメージ刷新ということですね。また、セール商品として、ひとつ上の価格のメニューを導入することもアリです。その新メニューが価値アリと認められれば、ファンの数は増えます。でも、その商品が入ることによって、既存の主力メニューの注文数が減るのであれば、その新メニュー導入は失敗、ということです。

主力商品群の注文総数が増え、そして客単価が上がれば、値上げにせよ値下げにせよ、その価格政策は間違っていません。繰り返しますが、客数の減少は、店の人気が下落している、ということを意味します。お客が受け取る価値が下がっているということです。その価値をどう引き上げるのか、この1点に心血を注ぎ込まなければなりません。主力商品を磨き込み、サービスのレベルを上げ続け、クレンリネスをしっかりとして(店をピカピカに磨き上げ)、提供時間も可能な限り短くする。まずは基本に返ることです。どんなに適切な価格政策を打ち出しても、これらの基本中の基本を怠っては効果が表れません。

先述の基本が狂ってはいないか。その検討こそが、客数減を止めるための出発点であることを、肝に銘じておきましょう。客数は急落することがありますが、上昇させるのには時間がかかるのです。特効薬はありません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。