Vol.61
30年以上「280円均一」をやり続ける「鳥貴族」から学ぶこと
今年の8月は、外食企業はどこも大変に厳しかったです。オリンピック、大雨、猛暑が原因です。
チェーングループを見ても、売上で去年の8月を上回ったのは、「サイゼリヤ」「ジョイフル」「すき家」「鳥貴族」「松屋」「やよい軒」だけです。このうち、やよい軒以外は、去年の8月も、一昨年の8月の売上を上回っています。いずれも低価格帯のチェーンです。商品がはっきりしていて、業態が明快です。そして、看板メニューのレベルアップ(磨き込み)を怠りません。
この中から、「鳥貴族」の強さに着目してみましょう。この10月で500店舗達成。1985年に大阪で1号店を出して、「鳥貴族」一本を貫き通してきました。ご存知のとおり、全品280円(税別)です。社内には、280円均一を守るプロジェクトチームが結成されていて、食材調達や配送から、店舗調理、オペレーション構築、店づくりまで、つまり飲食ビジネスの全領域にわたって、改善・改革が進められています。
しかし、品質を下げて価格を守るようなことは一切やりません。質を高め、価値を高め続けることが、このチームのミッションです。また、“国産国消”を旗印にしていて、現在達成率は98.2%。今期中に100%に到達します。当然原価アップの要因になりますが、安心、安全、質の向上を最優先させて前進するでしょう。均一価格は、いっとき居酒屋業態で広まりましたが、今はほとんどがそこから撤退しています。時代の流れで仕方なく始めたグループと、創業時から社是としてやり続けてきた「鳥貴族」との覚悟の違いですね。今やどこも「鳥貴族」についていけなくなっています。
「鳥貴族」で特に安く感じるのは、生ビールやハイボールをはじめとするアルコールメニューですね。280円で出すのはなかなか大変なことだと思いますが、やり抜きます。お客はアルコールの原価をよくわかっているのですから、より強く安さを実感します。お客が原価を知っているメニューや、どの店にもあるポピュラーなメニューは、安く。飲食商売の鉄則です。この鉄則を「鳥貴族」は知り抜いているのです。
安心、安全、飽きない味と低価格が、ファミリー来店の条件
もうひとつ。立地が変わると、求められる商品も変わる、という話をしましょう。また「鳥貴族」を例に挙げますが、実は客単価はわずかですが下がり続けているのです。安売りをして集客増を狙っている? まさかそんなバカなことはしません。理由は、出店する立地を変えてきているからです。基本立地は繁華街エリアですが、私鉄やJRの沿線駅前にも出し続けています。この沿線駅の店には、週末になるとファミリーが押し寄せます。
結論から先に言いますと、土・日曜日はアルコールも飲める焼鳥主軸のファミリーレストランとして機能しているのです。繁華街の店も、郊外駅前の店も、メニューは同じですが、「鳥貴族」はファミリー向けのフードメニューをたくさん持っています。当然、アルコールの売上比率は下がります。また、ファミリーの財布は1つですから、客単価は下がります。
かくして土・日曜日は、同じ「鳥貴族」でも繁華街の店と郊外駅前店では、まったく違う顔を見せることになります。ファミリーを包容できるほど、懐の深い店だ、ということですね。客単価下落の要因はここにあります。郊外駅前はこれからさらに有望な市場になっていきます。居酒屋グループでは、繁華街や盛り場でしのぎを削り合ってきましたが、いつの間にか市場が移動していたわけです。今、少子高齢化がものすごい勢いで進行していますが、これは今後、フロム・オフィス(職場から)、フロム・スクール(学校から)の来店客が減って、フロム・ホーム(家から)の来店客が増える、ということです。このお客を、郊外駅前の店が取っているのです。
この変化を敏感に感じている居酒屋グループでは、郊外駅前への出店を強化しています。しかし、ただ店を出せばいいというものではありませんよ。駅前立地は小商圏です。特定のお客に高頻度で来店してもらう“資格”を持っているか、次の3項目が勝敗を決めることになります。
- ファミリーのシビアな価格意識に耐えられるか。
- 高頻度の来店に耐えられる、飽きない味になっているか。安心・安全のメニューになっているか。
- アルコールの売上が下がっても、耐えられる経営体質になっているか。
これらをクリアできていないと、郊外駅前での商売は軌道に乗りません。