2017/09/29 繁盛の黄金律

しっかり儲けるキッチンづくりを目指そう(前編)

全経費の70%がキッチンで使われている -飲食店の心臓部はどこでしょうか。もちろん、キッチンですね。外食業は、製造業と販売業とサービス業がミックスした、複雑きわまりないビジネスです

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Vol.72

全経費の70%がキッチンで使われている

飲食店の心臓部はどこでしょうか。もちろん、キッチンですね。外食業は、製造業と販売業とサービス業がミックスした、複雑きわまりないビジネスですが、その製造部門を担当しているのがキッチンです。このキッチンの“性能”によって、お店の人気が決定づけられます。売れるか売れないか、儲かるのか儲からないのか、これもキッチンの性能で決まります。

一方、キッチンは、コストを一番必要とする部門でもあります。お店を稼動させるための必要経費は、原材料費、人件費、水道光熱費、家賃などがありますが、これらの全経費の実に約70%は、キッチンで使われるものです。キッチンの良し悪し、出来不出来が、お店の運命を決めてしまう、と言っても過言ではありません。その割に経営者たちは、自店のキッチンに無関心の人が多いですね。「なんとかまわっているのだから、大丈夫なんだろう」と思っている人が多いのです。

生産性のよいキッチンとは、

  1. 省スペースで
  2. 少人数で
  3. 多くの料理を
  4. 品質のバラつきなく
  5. クイックに提供できる

という5項目に尽きます。

しかし、もっとも大事なことは「料理人が負荷なく、快適に働ける」ことです。よほど整備が行き届いたキッチンでも、労働環境は決してよくないものです。高熱かつ換気の悪い場所で、長時間にわたり立ち作業をしなければならないのですから、料理人の肉体的負担といったら、半端なものではありません。やがて疲労が蓄積し、ミスを犯しがちになり、気持ちがササくれ立って、仲間同士の衝突が起こるようになります。一度にいくつもの作業をこなさなければならないのですが、繁忙時には仕事の優先順位がわからなくなって、混乱します。

経営者は第一に、より快適に働けるキッチンづくりを目指さなければなりません。

不必要なメニュー、やってはいけない仕込みが浮かび上がってくる

いちばんいいのは、繁忙時に経営者自らがキッチンで働いてみることです。「こんなところで働かせていたのか」と、驚くこともあるでしょうが、見えていなかったキッチンの欠点がはっきりしてきます。

まず、キッチン設備について。グリル、焼き場、揚げ場、冷蔵庫やディッシュウォッシャーなどの置き方に、決定的な問題があることに気が付きます。調理の流れと合っておらず、調理に無駄な動きを強いたり、料理人同士の動線のクロスがやたら多かったりで、効率性を妨げていることを発見します。また、開店当初から今日まで、メニューの中身がすっかり変わってしまって、不必要な厨房機器がキッチンのド真ん中にデンと置かれていたり、逆に絶対必要なものがなかったり、ということもわかってきます。さらには、もっとコンパクトで効率が上がる機器があるのに、それを使わないことで、生産性を著しく落としていることもあります。

自らが働くことで、早急に改善しなければならないことが、浮かび上がってくるのです。すぐに理想のキッチンに変えるということは、なかなか難しいでしょうから、改善の緊急性にしたがって優先順位をつけて、大問題から着手していくことです。

ハードの改善ばかりではありません。現行のメニューリストそのものも、変更しなければなりません。先述のように、メニューは「お客様の要望に合わせて」どんどん改変されていきます。出さなくなったメニューもあれば、新しく加えたメニューもあります。しかし、一般的にメニューは増加していくものです。

ハンバーグ専門店で出発した店が、スパゲティやピザ、フライドチキンを入れたりすることで、いつの間に「何屋か」わからなくなってしまう。これがよくあるケースです。そして、このメニュー拡大が、キッチンに過度の負荷を与えているのです。キッチン改造の前に、手を付けなければいけないことは、メニューの改造です。今一度、自分のお店は「何屋か」を明確にして、専門性を打ち出すことです。その専門性に合わせて、メニューを絞り込むことです。

まずは、「お客の要望に合わせて」メニュー拡大することを、止めましょう。過激な言い方になりますが、メニューについてはお客の要望には耳を傾けてはいけないのです。

自らキッチンに入って、もうひとつ気が付くことは、手順の悪さです。お店を効率的にまわすためには、プレパレーション(仕込み)が絶対必要です。しかし、それをいつやるか、が問題になります。営業開始前にやっておかなければならないことを営業中にやっていたり、逆に「それはやっちゃダメでしょ」というような仕込みが営業時間中に行われていたり、ということがわかってきます。

仕込みがしっかりできていれば、営業時の作業は驚くほど軽減されます。働く人の人数も減らすことができます。しかし、営業中にお客の注文を受けてからやらなければならない作業もあります。あらかじめやっておくと品質劣化を起こすような作業は、仕込み時間にはやってはいけないのです。

当然、メニューごとの出数予測が前提になければなりません。一品一品が今日、何時から何時にいくつ出るのか、その予測数を正確に把握できていなければ、仕込みは手をつけることができません。つまり、営業日ごとに、営業前と営業中の、作業のタイムスケジュールがあるべきなのです。それになのに、まったくスケジュールなしに、毎日毎日場当たり的な営業を行っていたことを、発見することになります(次回に続く)。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。