ディシャップは、単なる料理の渡し場ではない - 繁盛の黄金律 -

2018/07/27

神山 泉の繁盛の黄金律

Vol.83
今回の黄金律
ディシャップは、単なる料理の渡し場ではない

料理の均質さを守る場所、それがディシャップ

 レストラン経営において、キッチンに次いで大事な場所として、「ディシャップ(デシャップ)」があります。正確には「dish up」で、まさに調理が終わって盛り付けが完了した皿を取り上げて、お客のいるテーブルにまで運ぶ出発点になるところです。つまり、キッチンとフロアの接合点ですね。できあがった料理を、フロアの接客担当者に引き渡す場所です。

 「そんな場所のどこが大事なんだ」と、思われる方もいるでしょうが、大事なのです。料理には一品一品、スタンダード(あるべき姿)というものが決められています。そのスタンダードを確認する場所が、まさにディシャップなのです。ただの引き渡し場所ではありません。スタンダードからはずれた料理は、当然つくり直しです。ディシャップに置かれた料理は、キッチンに押し戻さねばなりません。そんな大それた真似は、昨日今日入ってきたパート・アルバイトにできるわけがありません。調理人にブン殴られますね。

 ディシャップ担当者は、スタンダードの確認者ですから、一品一品のスタンダードを熟知していなければなりません。それはもう、外食業の要になる業務ですから、店長か副店長クラスが担うべきものです。ところが今、ほとんどの飲食店では、このディシャップが機能していません。単なる料理の皿の渡し場になっています。キッチンから「早く持っていけ!」などと声がかかるのが、普通の光景です。そこではスタンダードの確認はなくスルーですから、料理にバラつきがあっても改善されることはありません。「外食業ってそんなものですよ」などと言わないでください。外食業の本質は製造業なのですから、つくられるものがバラついているというのは、製造業のコア(核)がぶっ壊れていることになります。どんなに料理のスタンダードの質が高くても、その均質性が欠けているのでは、店の評判が上がるわけがありません。

 ディシャップは工場でいえば、製品チェックの場所ですね。工場ならば不良品はハネるでしょう。それが機能しなければメーカー失格です。なぜ外食業ではそれをしないのですか。同じ製造業なのですから、しなくてはなりません。まずは、料理の渡し場という考えを捨てることです。そして、「突き返す」権限と権威を持っている人が、ディシャップ担当になることです。

 老舗の店主は、必ずこのディシャップ担当者になっています。カウンターサービスの店でも同じです。店主は、ポイントとなるところにデンと腰を下ろして、時には常連と話をしていながらも、キッチンの動きに目を光らせています。あるいは耳をそば立てています。そして、スタンダードからはずれる調理をしている者には(動きと、音でわかります)、調理を中止させて、ゼロからのつくり直しを命じています。あるいはできあがった後でも、つくり直しをさせています。この光景を見ても、ディシャップの重要性がわかります。

店長はフロアの状況とディシャップに、常に注意を払うこと

 料理の提供の仕方には2種類あります。ひとつは、できあがったものからテーブルに運ぶやり方。大方の店はこれですが、もうひとつ、「セイムテーブル・セイムタイム」という方法があります。「同時同卓」とも言いますが、ひとつの卓(テーブル)で注文された、内容が異なる複数の料理を同時に提供するやり方です。たいへんな技術と熟練がいるやり方ですが、高級フレンチなどは、これができないと「高級」の冠を剥奪されてしまいます。卓内で前菜の注文が異なり、メインもバラバラ、デザートも別々。それでも、それぞれの料理を同時に提供しなければならないのですから、有能なタイムキーパーが必要になります。このタイムキーパーの役割を果たすのもディシャップです。料理長がその役割を果たすこともありますが、その場合でもディシャップ担当は、お客の食事の進行具合を逐一報告しなければなりません。

 ディシャップとキッチンの緊密な連携がなければ、とても同時同卓などできるわけがありません。いちばんいけないのは、できあがった皿が長く置かれてしまう状態をつくることです。いちばん最後にできあがった料理は適温だったけれども、それ以外の皿はみんな冷めていたというのでは、同時同卓は意味をなしません。

 つまり、それぞれの料理の調理時間に合わせて調理のスタート時間を変えなければ、本物の同時同卓はできないことになります。これをコントロールするのも、ディシャップの役割です。気の遠くなるような話ですね。でもやらなければいけない店は、ちゃんとやっていますよ。できあがった料理を順繰りに出していく店でも、ディシャップの本来の機能を取り戻さなければいけません。老舗の店主の目と耳を持つ店にならなければいけません。

 お客様が料理を楽しむフロアと、その料理を運ぶ出発点となるディシャップ。この2つの連動が重要ポイントです。店長は、バッシングもテーブルセッティングも何でもやらなければなりませんが、目と耳は常にこの2つの関係性に向けられていなければなりません。店長のいる場所、そして目を光らせている場所が間違っている店が多すぎます。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
株式会社エフビー 代表取締役
神山 泉
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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