2015/12/22 特集

2016 “千客万来”になる! おさえておきたい外食トピックス

2016年は飲食業界にとってどんな年になるのか。「日本外食新聞」編集長の川端隆氏に2015年を振り返ってもらいつつ、飲食店が知っておきたい様々なテーマについて今後の展望をうかがった。

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訪日外国人数が過去最高を記録したほか、ちょい呑みブームが巻き起こった2015年。一方で、人材不足や食材高騰といった問題が多くの飲食店を悩ませた。そんな流れのなか、2016年は飲食業界にとって一体どんな年になるのか。今回は、外食業界に精通した「日本外食新聞」編集長の川端隆氏にインタビュー。2015年を振り返ってもらいつつ、新しい年が始まる今、飲食店が知っておきたい様々なテーマについて今後の展望をうかがった。

「日本外食新聞」編集長 川端 隆氏
外食産業に携わる人に有益な情報を発信する「日本外食新聞」の編集長を務める。全国各地の飲食店を取材し、飲食業界の最新動向や新店情報などに幅広く精通。株式会社外食産業新聞社代表取締役社長。「日本外食新聞」が「一般社団法人日本居酒屋協会」「居酒屋甲子園」「S1 サーバーグランプリ」などと共催する居酒屋の展示会「居酒屋Japan2016」が、年月日(水)、日(木)に東京・池袋で開催。
詳しくはhttp://izakaya-japan.com/ へ。
日本外食新聞発行/外食産業新聞社

食材の高騰が影響大。バル業態には変化の兆し

これからは真っ当な総合力で勝負するお店が台頭する流れ。生産者との結びつきも重要

――まず2015年の外食産業を振り返った印象からお願いします。

トピックとして大きかったのは、やはり食材価格の高騰ですね。これにより、業界全体が苦しい戦いを強いられた。この流れは確実に2016年も続くと思います。

いわゆるアベノミクス効果によって、日本経済は緩やかに回復してきました。特に大手製造業は円安政策のおかげで競争力も回復し、かなり恩恵をこうむっています。その一方で、輸入品を筆頭に物価が上昇しているのに、大企業を除いて賃金がそれに追い付いていない。いわば2015年は、多くの消費者の懐にはお金が行き渡っていないのに、仕入れ値だけがインフレ気味という状況だったと言えます。外食業はこの影響を強く受けてしまいました。

特に値上がりが顕著だったのが食肉です。デフレの代名詞だった牛丼でも、2015年には「すき家」が価格を見直して、大手3社による低価格競争が一段落しました。いまや「野家」が野菜オンリーの「ベジ丼」を投入したように、各社とも限られたコストでいかに新たな付加価値を打ち出せるか、試行錯誤を重ねています。

――デフレ脱却の中で、きちんと利益を出せる体質づくりが問われたと。

まさにそうです。アナリストたちに話を聞くと、2016年にはアメリカの金利が上がり、1ドル=140円まで円安が進むという予測もある。そして原料費はまだ高値が続くでしょう。とはいえ、この過渡期を乗り切らないと、日本経済は負のスパイラルを完全に抜け出せません。2017年4月には消費税が10%になる予定で、飲食店としては前回の増税時と同様の対応を迫られるでしょう。ただ、経済は上向き傾向にあるため物価だけでなく賃金も上がり、消費を拡大させるための政府による施策も実施される可能性があり、飲食業界にとって逆風だけではありません。

――そういう状況のなか、飲食店の業態で目立ったものはありましたか?

異なる価格帯の業態で、似た動きがあったように感じています。まず高価格帯では、接待ニーズやプチ富裕層向けのいわゆる高級店の勢いが、2015年の後半から戻ってきています。例えば11月にオープンした東京・銀座の「THE MIYACHI」は熟成神戸牛の鉄板焼専門店ですが、ディナーは2万円のコースがメイン。ただしこの価格で品が出てきて、以前なら4~5万円してもおかしくない内容です。このように単に豪華なだけではなく、高価格帯なりの値打ち感やリーズナブルさを追求した店が増えてきていますね。

一方で、似たようなことがもう少し低価格帯の業態でも見られました。例えば、ここ数年人気のバル業態。人気が出始めたころは“軽いツマミで気軽に飲める”というイメージばかりが先行し、はっきりした定義もないまま、「○○バル」という様々なかたちに派生していった感がありました。しかし、2015年後半から、バルのカジュアルさは残しつつ、料理に徹底してこだわる店が増えてきています。9月に東京・三軒茶屋にオープンした「ナチュールバル」がそうで、居抜き店舗で開店コストを下げつつ、生産地から仕入れる食材を使った料理やビオワインなどをリーズナブルに提供しています。

ほかにも、醤油などの調味料からドレッシング、豆腐などの食材まで手仕込みで行い、繁盛につなげている大衆居酒屋もあります。高級業態にせよ、大衆的な業態にせよ、差別化が重要になってきている印象ですね。

手軽なちょい呑みがブーム。仕込みや産地直送も武器

――食材高騰の流れのなかで、独自性を出すには、先ほど出た「手仕込み」は1つのキーワードかもしれませんね。

奇をてらった店づくりや、話題性の強いコンテンツなどは、どうしても飽きられてしまいます。2016年はむしろ、上っ面ではなく真っ当な総合力で勝負する店が台頭してくると思います。そのために生産者とより深く結びつき、ある種のメーカー機能を強めるのは有効でしょう。その成功例が東京・代々木上原の「WE ARE THE FARM」で、ここは数年がかりで千葉県佐倉市に農園を開き、農薬を使わずに育てた採れたての野菜のみを店で提供しています。ここまで極端ではなくても、生産者との関係性を捉え直し、より地に足の着いた地産地消や産直などを売りにする店が増えてくるはずです。その意味で2015年9月にスタートした「羽田市場」はきわめて象徴的でした。

――ベンチャー企業のCSN地方創生ネットワーク株式会社が仕かけた、漁師と首都圏飲食店を直結するオンラインマーケットですね。

はい。このシステムが革新的なのは羽田空港内の貨物地区に自社の鮮魚センターを持ち、各地の漁港から送られてきた朝獲れの鮮魚を、首都圏の飲食店へ直接届けられるようにしたこと。仲介業者をカットするためコストも下がり、しかも安定供給が可能になります。産直や地産地消で重要なのは、ビジネスとしての継続性です。これを欠くとメニューの商品力も上がらないし、何より生産者が潤いません。

――一方で、ファミレスや牛丼チェーンでの「ちょい呑み」人気もまだまだ続いています。

最近は「野家」も、「呑み」と銘打ったメニューを豊富に提供していますよね。お通し代も取られず、気軽に1杯飲めるというこのブームは、2016年も間違いなく続くはずです。言い換えれば大衆的な飲食店が勝負するには、リーズナブルな価格の中で真っ当な付加価値を見つける以外ない。それこそ形骸化しつつあるお通しにしても、今後はお客様に納得してもらえるものを出すか、説明できないならいっそ廃止するなど、飲食店としての本質に立ち返ることが求められているのだと思います。

PICK UP TOPIC ちょい呑み

様々な業態がニーズを獲得。安い価格のほか駅近も集客の要因か
少人数、低価格、短時間で酒を飲む「ちょい呑み」が人気に。ニーズを狙い、牛丼チェーンやファミリーレストランなども参入した。「日高屋」では、リーズナブルな価格設定でニーズを獲得し、集客に成功。同チェーンは駅前立地が多く、酒に合う手軽なおつまみメニューが多かったことも、ニーズを獲得した要因の1つといえそうだ。

日高屋では「おつまみ唐揚げ」(写真右/290円)など、「ちょい呑み」に合うメニューが豊富。埼玉・大宮駅東口には「日高屋」と立ち飲みの「焼鳥日高」が並び、集客に成功
日高屋 大宮すずらん通り店
さいたま市大宮区大門町-19
http://r.gnavi.co.jp/e995715/

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