2016/05/31 特集

あらためて知っておきたい! 飲食店ありがちNG事例

今夏はリオデジャネイロ・オリンピック・パラリンピックが開催。だが、「オリンピック」という言葉は、許可なく商用で利用できない。そのほか、飲食店でありがちだが、やってはいけないNG事例を確認しよう。

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今年はオリンピックイヤー。夏にはリオデジャネイロ・オリンピック・パラリンピックが開催。だが、「オリンピック」やその関連用語は、許可なく商用での利用を認められていない。ほかにも飲食店では、実は「自家製サングリア」が違法であったり、“NG事例”は少なくない。この機会に、ありがちだがやってはいけないNGの例を、あらためて確認しておこう。

株式会社船井総合研究所 フードビジネス支援部 部長 上席コンサルタント 二杉明宏 氏
外食企業、食品企業向けコンサルティング部門の責任者。自身もコンサルタントとして東奔西走し、焼肉業界、居酒屋業界を中心に、様々な業種の外食企業に対して業績向上のアドバイスを行っている。顧問先には多店舗展開などの目標設定をしている企業が多く、企業成長のエンジンとなる業態開発や、マーケティング施策を軸としたコンサルティングを得意とする。
http://funai-food-business.com/inshoku/

知らずに行っていることが法令・条例に抵触?

コンプライアンスを高めて、店のレベルアップを図ろう

飲食店が、来店客にアピールするために発信している言葉や表現、オリジナルなメニューやドリンクなどが、予想に反して何らかの法令や条例に抵触してしまう場合がある。

例えば、オリンピックやサッカーのW杯などで世間が盛り上がっているときは、飲食店も応援と販促を兼ねて「○○開催記念!特別割引」とか「△△選手応援フェア」などを企画しがちだ。イベント開催中は「◎◎戦、店内放映中!」といった表現もよく見かける。

だが、株式会社船井総合研究所の二杉明宏氏は、「オリンピックやW杯の大会名称などを、許可なく使用することは認められていません。ロゴやエンブレムも同様です」と語る。それらは、知的財産の一部として商標法などで保護されているからだ。「様々なシーンで話題になることが、そのイベントを盛り上げるとみなされる場合もあるので、本来は過失であるものが見逃されている場合も多いのが現状でしょう。しかし、『無断使用は不可』という原則を忘れてはいけません」(二杉氏)。

ほかにも、バル業態を中心に提供店が多い「自家製サングリア」は、酒税法に抵触する恐れがある。企業名やロゴを利用したアピールも、著作権の侵害となるケースがあり、また、提供料理の健康効果を強調しすぎると、薬事法や景品表示法などに触れるリスクが出てくる。さらに、「路上キャッチ(客引き)」は風営法違反のみならず、条例などで厳しく取り締まる自治体もある。

こうしたことは、日頃は見逃されても、ひとたび事故や事件などにつながれば、まず店が責任を問われることになる。店にとっては大きなイメージダウンになり、売上が激減して存続の危機に陥ることさえもあり得るのだ。

だからこそ、二杉氏は「飲食店として、コンプライアンス(法令遵守)に対する意識を高めることが大切」と力説する。「黙認されているから大丈夫とか、他店もやっているから、と安きに流れるのではなく、1つひとつの事案について、どういう法令や条例があり、どこに線引きがあるのかをしっかり勉強してほしい。そうしたことが、店のコンプライアンスに対する意識を高め、結果として、店舗力のアップ、企業価値の向上にもつながるのです」と二杉氏。この機会に、知っておくべきルールを数例紹介しよう。

今夏は特に注意したいNG事例&近年ありがちなNG事例

今夏はリオデジャネイロオリンピック開催! だけど「オリンピック」の名称は無断使用NG

オリンピック・パラリンピックの大会名称、関連用語、ロゴ、シンボルなどは、知的財産として、日本国内では商標法、不正競争防止法、著作権法などによって保護されている。したがって、これらを国際オリンピック委員会(IOC)などに無断で使うことは、公式にいっさい認められていない。

そのため、店内でオリンピックの映像を流したり、「店内放映中」といったポスター、チラシなどを張り出したり、配布したりすることはもちろん、「○○開催記念」「△△選手応援」などと銘打った料理の提供、割引セールなどは、たとえ純粋に国や選手を応援したいという動機からであっても、控えるべき表現であることに変わりはない。

二杉氏は、「オリンピックやW杯など大規模なイベントの開催には、スポンサーによる協賛金が不可欠。スポンサーは多額の協賛金と引き換えに、広告宣伝の権利を得ているので、協賛金を払っていない企業や団体の無断使用はスポンサーの権益を損なうことになります」と、無断使用がNGである根拠を説明する。

ただし、実際にはすべての飲食店を監視して注意することは不可能なため、見逃されているのが現状。「オリンピックのイメージを損なうものや、大規模に無断使用が横行するような事態が起これば、当然、監視は厳しくなるでしょう。影響力のある店ほど、賠償を含めた話になる可能性もあります」と二杉氏。いずれにしても、原則は「無断使用禁止」であることを肝に銘じたい。

バルブームで提供する店舗も増加。「自家製サングリア」が違法ってホント!?

近年、ワインに果実を漬け込み、シロップなどを加えた「自家製サングリア」を提供する店が目立つ。しかし、これらは酒税法に抵触する場合があるので、注意が必要だ。

酒税法では、酒類と物品の混和は新たな酒類の製造に該当し、免許と納税が必要。だが、旅館や飲食店などは一定の要件を満たせば例外とされる。この例外の1つが「混和に使用できる酒類は、蒸留酒類であること。アルコール分が20度以上のもので、酒税が課税済のもの」。ワインは蒸留酒類ではなく醸造酒、しかも20度以上のワインはほぼ存在しない。つまり、例外にはあたらないのだ(詳細は下記国税庁ホームページ参照)。二杉氏は「自家製サングリアが広まった背景には、近年のバルブームがあります。ワインをより気軽に、飲みやすく提供する工夫の1つでしょう」と指摘する。では、ワインをより気軽に楽しんでもらう方法はないのだろうか。例えば、酒に混和することはNGだが、シロップならOK。シロップに果実を漬け込み、提供する直前にワインと合わせる方法もある。

ちなみにカクテルのように、消費する直前に酒類と物品を混和するのはOK。梅酒は20度以上の蒸留酒を使用すれば、前述の例外に当てはまるのでセーフだ(ただし、届け出が必要)。ややこしいが法令は法令なので、しっかり認識して提供しよう。

国税庁ホームページ/お酒についてのQ&A・自家醸造
https://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/qa/06/33.htm

知らず知らずのうちにNGになっていることも。企業ロゴを利用した販促に注意!

販促は大切だが、知らないうちに企業の著作権を侵害していることがある。特に最近は、SNSでの店の情報の発信・拡散時において、注意が必要だ。

例えば画像共有アプリが提供しているフレームのデザインと、その運営会社のロゴを流用してそっくりなフレームを手作りし、それを使って店の料理や店内風景を撮影・拡散することは、著作権の侵害にあたる。この場合は、商用目的で「そっくりフレーム」を作った時点でNGだ。「実際に著作権侵害を主張されるケースはまれだが、ルールの遵守は当然」と二杉氏。やり過ぎには注意が必要だ。

まだまだあるぞ! 日々やりがちなNG事例

自分の店の売りを店外でもアピールしたいけど…路上などでのキャッチ(客引き)は許される?

路上キャッチ(客引き)は、風適法(風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律)で、明確に禁止されている。さらに東京都のように迷惑防止条例によって、一層厳しく取り締まる自治体もある。重視したいのは、地域によって取り締まりの強弱はあるけれど、どこで行っても違法行為であることだ。ひとたび摘発されれば、営業停止や罰金など厳罰が下される。「そもそも、公道を許可なくビジネスに利用するのはNG。加えて、路上キャッチの先には、高額請求や脅迫・暴力行為など悪質な犯罪が待っている場合も否定できません」と二杉氏。飲食業界の品位を守るためにも、集客やアピールを路上キャッチに頼らないようにすることだ。

「効能」と「効果」表現に注意してアピール。健康に対する効能効果を強調するとNGの場合も!

健康志向を売りにした飲食店が増えるなか、メニュー名やキャッチコピーに健康効果をうたう例は珍しくない。しかし、あまりに健康増進の効果・効能を強調しすぎると、薬事法や景品表示法、食品衛生法などに抵触することがある。「例えば、『これを食べれば目がよくなる』は薬事法に触れる表現」と二杉氏。同様に、「血圧が下がる」「肌荒れが治る」「体脂肪が燃焼する」「気力が回復」など、具体的に健康増進の効果・効能を言い切るような表現は避けるべきだろう(「おすすめ」する表現もNG)。

消費者は、薬やサプリメントに期待する効果・効能を、飲食店の料理に求めているわけではないので、クレームにはなりにくいが、やはりやり過ぎは禁物。「1日分の野菜で作った◎◎」「コラーゲンたっぷりの○○を使用」など、事実を上手に伝える表現に習熟して、適切なアピールを心がけよう。

自分なりのオリジナルを加えて価値をアップ! 他店の料理をそのまま真似するのはNG!?

他店の料理や内装を、自店に取り入れることは、禁止行為ではない。むしろ「成功事例から学ぶことは、ビジネスの基本。先達の成果を取り入れ、分析し、自分のビジネスに活かすことは、堅実な経営手法の1つ」と二杉氏は語る。他店を視察して貪欲に学び、よいところを真似るのはビジネスの常套手段といってよいだろう。

だが、真似るだけで満足してしまうと、前進や発展は臨めない。先例を踏襲しつつも、自店らしい要素を付け加える努力が不可欠だ。特に料理は1つが流行すると、瞬く間に拡散するので、オリジナリティが高くないと埋没してしまうことにもなる。

ただし、店のロゴなどの模倣は不可。著作権に抵触することになる。

厨房への段ボール持ち込みを避けるなど身近なことから。これからの季節は衛生管理にも特に注意!

例えば、厨房に段ボールを持ち込んではいけないという法令や条例はない。だが、衛生管理の観点からは、避けるべき行為だ。そのほかにも、日常行為のなかに衛生上の問題点はないだろうか? 「衛生意識はできる限り高いレベルに保つことが店を守り、店の信用につながる」と二杉氏。事故につながらないよう高いレベルで点検してみよう。

営業時間通りに店が開いてない!? こんなお店は嫌われる!

営業時間になっても開いていない、看板のライトが点いていない、などという失敗はないだろうか? 「機会損失(客を失う)と信用失墜につながる」(二杉氏)ので、繰り返さない仕組みが大切だ。また、店員が携帯電話をいじっているとか、店員同士の私語・叱責なども客には不快なもの。客の目線に立った店づくりを心がけよう。