2017/10/10 特集

人手不足の処方箋 店とスタッフが輝く労働時間の削減

人手不足が続く飲食業界。そのしわ寄せが、長時間労働となっているケースは少なくない。現場スタッフが活き活きと働くためにも労働時間の見直しが必要なのでは。店の業績を落とさず、労働時間を削減するには?

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人手不足が続く飲食業界。そのしわ寄せが、長時間労働として現場にのしかかっているケースは少なくない。現場スタッフが活き活きと働くため、また人材を確保し、長く働いてもらうためにも、労働時間の見直しが必要なのではないだろうか。店の業績を落とさず、労働時間を削減するには?コンサルタントの二杉明宏氏に聞いた。

今回お話を聞いたのは・・・株式会社船井総合研究所 フードビジネス支援部 部長 上席コンサルタント 二杉明宏氏
飲食業界専門コンサルタント。株式会社船井総合研究所に入社以来、10以上の業種でコンサルティング活動に従事。特に、業態開発、新規出店、多店舗展開などのテーマでのコンサルティングに精通している。ローカルチェーンからナショナルチェーン、中国外食企業に至るまで、幅広いクライアントをサポートしている。

Introduction 労働時間削減と売上増は両立できる。企業イメージも上げ、選ばれる会社に

飲食業界でも始まった、労働時間削減の取り組み

労働力への依存度が高い「労働集約型産業」でありながら、慢性的な人手不足が課題となり、しばしば長時間労働の代名詞のように取り上げられる飲食業界。「週休2日なんて夢のまた夢」「サービス業なのだから、長時間労働は仕方がない」という認識は、いまだ多いのではないだろうか。

一方で、「飲食業界でも、週休2日や労働時間の削減に本気で取り組む企業が増えつつあります」と、二杉明宏氏。この背景には、2つの要因があるという。1つは企業イメージの問題。「長時間労働を放置すると“ブラック企業”として告発され、企業イメージを損なって致命的なダメージを受けるリスクがあるのです」。働く本人が悪意なくSNSなどで発信した勤務実態が、ブラック企業の実例として拡散する可能性もゼロではく、親や友人が“告発者”になることもあり得る。「企業コンプライアンス(法令遵守)の観点からも、長時間労働の是正は待ったなしの課題です」と二杉氏は強調する。

またもう1つは、人材確保のためだ。少子高齢化や景気好転を背景に、全産業で“人材争奪戦”が激化する昨今。飲食関連業界も例外ではなく、2017年8月度の有効求人倍率をみると、飲食物調理や接客・給仕の職業では、3~4件の求人募集に対して採用できるのが1人以下という、完全な売り手市場となっている。求職者側が労働条件を選べるなかで、より条件の良い会社へ流れているのが現状だ。長時間労働で現場が疲弊し、客からのクレームも絶えないような状態では、就職先として選ばれることは難しいだろう。そして人手を確保できなければ、店を維持することすら危ぶまれる。労働時間の削減は、今や業界の存続に関わる重要課題といっても過言ではない。

人手不足が深刻な地域ほど、先進事例が生まれる傾向

「実際、当社がサポートしているなかでも、人手不足が深刻な地域ほど、長時間労働の是正に前向きな経営者が多いです」と二杉氏。近年は、東京、愛知、大阪といった大都市圏のほか、北陸、中国など地方でも求人倍率が高まる傾向にあるが、こうしたエリアで、社員の労働時間を削減しながら、業績も伸ばしている例が生まれているという。

だが、多くの経営者は、長時間労働の問題を認識してはいても、「店の現状を考えると、労働時間を減らすなんてとても無理」と嘆く。なぜなら、一人ひとりの労働時間を削減しようとすると、余分な人員が必要になって人件費が上がり、利益率の低下が避けられないと考えるからだ。

これに対し、二杉氏は「“たとえコストが増えても、長時間労働を改善する”という意思決定が、まず重要」ときっぱり。この覚悟を持てるかどうかが、労働時間の削減と業績向上を成し遂げられるか否かの境目というのだ。2018年ごろには、18歳人口の減少期に突入すると言われる日本。本格的な人手不足は、今後数年で全国に波及するという。「労働時間を削減し、選ばれる会社にならなければ、業界に未来はありません。適正な労働時間の目安は、1カ月当たりの残業を40時間以内に抑えること。厳しくても、そこに向けた努力が不可欠」。次ページから、「人員を増やす」「スタッフ育成」「効率化」という3つの解決策を紹介する。

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