2013/01/08 挑戦者たち

有限会社いっとく 代表取締役 山根 浩揮氏

広島・尾道と福山で9店舗を展開するいっとくグループ。街全体の活性化にも積極的に取り組んでいる。2012年12月、「居酒屋甲子園」の4代目理事長にも就任した代表取締役の山根氏に話を伺った。

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また来たくなる店づくりで地方から日本を元気にしたい!

広島・尾道と福山で居酒屋やカフェなど、計9店舗を展開するいっとくグループ。飲食を通じて幸せを共有する“えーかお共有業”として、「人情味の絶えない店創りで日本をぶち元気にしよう!」を掲げ、街全体の活性化にも積極的に取り組んでいる。2012年12月、「居酒屋甲子園」の4代目理事長にも就任した有限会社いっとく代表取締役の山根浩揮氏に話を伺った。

――飲食業を始める前に、古着屋を経営していたということですが、経緯を教えてください。

まだ、地元の尾道にコンビニエンスストアもなかった時代に、父が持ち帰り専門の寿司店を10店舗ほど経営していました。私が中学2年生のときに父は他界しましたが、父の事業を継ぐように育てられてきたので、高校を卒業した後は調理学校に進学し、その後は当時、母が経営していた会社の和食店に就職しました。ところが、ちょうどその頃に大失恋をしてしまい、失意のあまり、会社を辞めてしまったのです。ただ、実家に住んでいるとはいえ、働かないわけにはいかないので、以前から興味のあった古着の販売を始めました。

当初は自宅の自室を使って売っていたのですが、出入りするお客様や商品の在庫が増えてきたので、1995年に「USED SHOP いっとく」という古着屋を、尾道の長江口にオープン。この店はその後、尾道駅の近くに移転したのですが、そこが2階建ての物件だったので、2階を古着屋にして、1階で飲食店を開きたいと考えました。最初に考えた業態はバーだったのですが、母親の強い勧めもあって、最終的に鉄板焼き業態に決めました。これが、現在の「遊食楽酒 いっとく」で、飲食業界に戻るきっかけにもなりました。

――1号店のオープンから3年で違うブランドを3店舗展開。どんな戦略だったのですか?

当時は、戦略的に店舗を出店していったというよりは、働いている社員やアルバイトスタッフの持っている力を活かしたいという思いの方が強かったですね。2号店の「満点酒家 あかぼし」は、隣町の福山にオープンしましたが、これは頼りにしていたアルバイトが引越しのために、「遊食楽酒いっとく」を辞めることになったのがきっかけです。このまま辞めさせるのは惜しいと思ったので、思い切ってそのスタッフの引越し先に新店舗をオープンすることに決めたのです。ちょうど、「遊食楽酒 いっとく」の経営が軌道に乗り始めていて、良い物件を借りることができました。

実は、3号店となる「やまねこカフェ」の出店も、似たようなことがきっかけでした。カフェで働きたいので辞めるという女性スタッフがいて、「だったら、カフェを作ろう」と考えたのです。その頃の尾道には、「喫茶店」はあっても「カフェ」という業態はなかったので、そのスタッフと一緒に東京に行き、カフェを何店舗も視察しました。そうして、その女性を店長にして、「満点酒家 あかぼし」と同じ2000年に、「やまねこカフェ」をオープンしました。

当然、この頃の出店に対しては周囲からも反対されました。今考えると、自分自身の経営の知識や経験が浅かったのですが、若気の至りというか、怖いもの知らずだったのでしょうね。

1974年 広島県尾道市生まれ/1993年 調理学校卒業後、母親の会社に就職/1994年 自宅の自室にて古着の販売を始める/1995年 古着店「USED SHOP いっとく」をオープン/1997年 飲食1号店となる「遊食楽酒 いっとく」をオープン/2001年  古着屋を閉店し、飲食業に専念/2002年 有限会社いっとくとして法人化/2012年 居酒屋甲子園4代目理事長に就任

――店をオープンした当初は、スタッフの育成に大変苦労されたそうですね。

振り返ってみると、「遊食楽酒 いっとく」を始めたばかりの頃は、いろいろなことがうまくいかなくて、いつもイライラしていた気がします。すべてを自分の思い通りに進めたいという気持ちが、強すぎたのだと思います。スタッフが長続きしない、ギスギスした職場でしたね。

現在は、“偉そうにしない大人”を目指して、スタッフに接するようにしています。当社では、アルバイトとは呼ばずに「パートナー」と呼んでいますが、彼らとは定期的に飲み会などを開いて、率直な意見交換を心がけています。

また、それぞれが役割を果たして成果を上げ、成長できる職場づくりをより具体的に実行するために、2012年からは「いっとく学習帳」という小冊子をスタッフ全員に配布しています。堅苦しくならないように工夫して、経営理念や営業目標などの浸透に努めています。

離職率が低いとはいえない飲食業界ですが、お陰様で当社は社員に限らず、「パートナー」でも勤続10年以上が珍しくありません。

――今回、新たに「居酒屋甲子園」の4代目理事長に就任されましたね。

「居酒屋甲子園」には第1回から関わってきましたが、理事長としてはより熱く、より自由闊達な運営を目指して、3つの「かくしん」をテーマにしたいと考えています。自分たちの志である「核心」、新しいことにチャレンジする「革新」、それらを信じて突き進む「確信」の3つです。

また、新たに「居酒屋大サーカス(仮称)」という企画を始めようと考えています。これは、「居酒屋甲子園」に参加している全国47都道府県の居酒屋が、一団となってサーカスのように地方を巡回する飲食イベントです。その地域を代表する居酒屋が一同に集まることで、ひとつの"大横丁"が出来上がり、地域活性化にもつながるのではないかと思っています。これまでの「居酒屋甲子園」と「居酒屋大サーカス」、それぞれの相乗効果で、一層盛り上げていきたいですね。

これまでも「居酒屋甲子園」では西日本リーダーなどを務めてきましたが、理事長になると、メディアへの露出なども多くなります。この、“見られている”という緊張感はとても大切で、飲食店の接客サービスにも通じるものがあります。当社のすべての店舗にカウンター席があるのも、そのためです。常にお客様に見られているという緊張感が、成長につながります。今回拝命した理事長の職責を果たすことで、「居酒屋甲子園」だけでなく、自分自身も成長していきたいと思っています。

――故郷・尾道の「空き家再生プロジェクト」にも副代表として積極的に参加されていますね。

この考えは私の仕事観にも通じるのですが、これからの「地方」に必要なのは、“スクラップ・アンド・ビルド”ではなく、“リノベーション・アンド・コラボレーション”だと思います。尾道でのその取り組みの一つが、空き家の再生・再利用です。街が再生するためには、こういった活動を地道に続けていくことが大切ですが、店づくりにも、共通する点がたくさんあります。また来たいと思ってもらえる飲食店があることは、街を活性化させます。「居酒屋甲子園」に参加している店舗が、その地域の再生と活性化の拠点になっていってほしいと願っていますし、私自身、街の再生に貢献する温泉旅館を経営することが今後の夢です。

また、居酒屋には地方の食文化・味と食の安全を守っていくという役割もあると考えています。そのために当社は、6年前から米や野菜の栽培など、農業にも取り組んでいます。当面の目標は自社で消費する米の50%を自給することです。さらに、自社の食材を活用した高級業態の出店も計画しています。新しい業態の出店やサービスの提供は、スタッフのスキルアップにもつながり、会社全体の価値を高めることにもなります。

考えてみると、幼い頃に見ていた父の姿から「商売人」のあるべき姿を学んだのだと思います。「お客様を楽しませる」「スタッフを大切にする」「喜ばれて、喜ぶ」ことを忘れず、飲食店から地方を、日本全体を元気にしていきたいですね。

たまがんぞう(尾道市・土堂町)
http://r.gnavi.co.jp/y027005/
レンガ造りのレトロな外観で、店内からは尾道水道の渡し場を見ることができる。名物「尾道穴子のひつまぶし」など、地元の食材を活かした料理も人気
ベッチャーの胃ぶくろ(尾道市・十四日元町)
http://r.gnavi.co.jp/y027003/
店名は、尾道で200年以上の歴史をもつ厄払いの奇祭「ベッチャー祭り」にちなんでいる。名物の「穴子のしゃぶしゃぶコース」や、瀬戸内の旬の鮮魚など、尾道のうまいものをそろえた料理が好評。また、唎酒師(ききざけし)の資格を持つ店長がすすめる地酒や、シメにぴったりの尾道ラーメンも人気。
遊食楽酒 いっとく(尾道市・西土堂町)
http://r.gnavi.co.jp/5835450/
尾道駅北口から徒歩1分の立地にある、同社の1号店となる鉄板焼き居酒屋。ライブ感を楽しめるカウンター席、ゆっくりとくつろげるテーブル席と座敷がある。お好み焼きに似た定番の「とんぺい焼き」、モツ鍋などのほか、季節の魚介・野菜料理と全国各地の地酒が楽しめる。レトロな外観も印象的。

Company Data

会社名
有限会社いっとく

所在地
広島県尾道市土堂町1-11-16

Company History

1995年 いっとく設立
1997年 「遊食楽酒 いっとく」オープン
2000年 「満点酒家 あかぼし」オープン
     「やまねこカフェ」オープン
2002年 「鉄板居酒屋 ばくだん酒場」オープン
     有限会社いっとくに法人化
2003年 「あかぼしかくれ家」オープン
2005年 「ベッチャーの胃ぶくろ」オープン
2007年 「たまがんぞう」オープン
2009年 「百酒練磨 天下ばし」オープン
2010年 「おやつとやまねこ」オープン

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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