2013/06/18 挑戦者たち

株式会社馬喰ろう 代表取締役社長 沢井 圭造氏

「我々は日本一の“馬肉バカ”集団。飲食店ではなく馬肉専門店だ」と言い切る沢井氏。馬肉専門店を都内に6店舗展開し、馬肉文化の普及・啓蒙にも取り組む。個性的な店作りや馬肉への想いについて伺った。

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食卓に馬肉料理がある日常を飲食業を通じて実現したい

「我々は日本一の“馬肉バカ”集団。飲食店ではなく、馬肉専門店だ」。株式会社馬喰ろう・代表取締役社長の沢井圭造氏は、そう言い切る。同社は現在、異なる特徴を持つ馬肉専門店を都内に6店舗展開し、普段の食事として楽しんでもらえる馬肉料理を提案している。協会設立にも尽力し、馬肉文化の普及・啓蒙にも取り組む沢井氏に、個性的な店作りや、馬肉への熱い想いについて伺った。

――そもそもなぜ、馬肉料理の専門店を出店しようと考えたのでしょうか。

高校卒業後、アメリカに留学していたのですが、留学中の1996年にO157による騒動があり、生食が敬遠され、馬刺しでの消費が大きかった馬肉業界も大きなダメージを受けました。当社の親会社で、馬肉専門の加工卸業を営む株式会社NTC・デリバも同様で、急遽帰国して社長である兄を手伝うことになったのです。当時は、都内全域の営業と配送を担当していましたが、販路拡大のために、全国への営業活動を始めました。

馬肉というと九州のイメージが強いかもしれませんが、実は信州や東北でも昔からよく食べられていた食材で、料理法も多彩です。

例えば、馬肉が入った山梨県富士吉田市の郷土料理「吉田のうどん」は、登山者が山に登る前に食べることが多いそうです。これは馬肉に、すぐにエネルギーになるグリコーゲンが牛肉や豚肉よりも多く含まれているため。東京でも吉原遊郭があった頃には、その周辺に多くの「桜なべ(馬肉のすき焼き)屋」があったと言われています。馬肉は精がつく食べ物として知られていて、“馬力”をつけるために来店する客で賑わったそうです。

馬肉は熊本や長野、福島などではスーパーでも売っている、とても身近な食材です。最初は販路拡大が目的でしたが、日本各地で昔から馬肉に関わってきた方々と、その土地での馬肉の歴史や食文化について話すうちに、馬肉のおいしさをもっと多くの人に知ってほしい、もっと気軽に食べてほしい、という思いが強くなっていきました。そして、精肉店や他の飲食店を通じて、馬肉を普及させるだけではなく、お客様に直接、馬肉料理を提供したいと考えるようになっていったのです。

――飲食業界は、ほぼ未経験だったそうですね。出店までの経緯をお聞かせください。

以前から、漠然とした飲食業への憧れはありましたが、具体的なプランはありませんでした。そんな折、2005年に株式会社スパイスワークスが、東京・水道橋に当時、まだ珍しかった馬肉専門店「仕事馬」を出店します。そこに馬肉を卸すことになり、社長の下遠野(亘)さんと知り合いました。私自身、ちょうど馬肉普及への想いが強くなっていた時期で、絶対に成功してほしいと、採算を度外視して協力しました。それがきっかけで、自分も馬肉料理を提供する店を出そうと決意。下遠野さんのバックアップもあって2007年、東京・神田に「がんばれニッポン馬肉道場 馬喰ろう」を出店しました。周囲の予想を裏切り、「仕事馬」が大繁盛したことも、決断を後押ししましたね。

しかし、社内の反対を押し切って「馬喰ろう」を出店したものの、最初の2カ月はお客様が少なく、大赤字でした。毎日のように店内のレイアウトを変えたり、ワンドリンク無料にしたり、考えられる限りの工夫をしました。売上が上がり始めたのは3カ月を過ぎる頃からで、リピーターのお客様も増え、半年後には週末は予約で埋まるようになりました。後日、常連の方に伺ったところ、「とにかく一生懸命な姿に、応援したくなった」と言っていただき、想いは通じるんだと実感しました。

1976年 千葉県松戸市生まれ/1994年 高校卒業後、米国に留学/1998年 米国から帰国。兄の経営する(株)NTC・デリバに営業職として就職し、全国各地を回る/2005年 馬肉専門店「仕事馬」の立ち上げに協力/2007年 1号店となる「馬喰ろう」を神田にオープン。以後、年1店舗のペースで展開/2010年 株式会社馬喰ろうを設立/2012年 社団法人日本馬肉協会を設立

――現在展開する店舗はすべて馬肉専門店ですが、それぞれメニュー構成が違いますね。

夢は、牛肉や豚肉と同じように馬肉を召し上がるお客様の姿が、関東でも当たり前の光景になることです。特別な日の高級料理や酒の肴としてだけではなく、普段の食材の一つとして馬肉を定着させたいと思っています。

また、当社は馬肉のパイオニアであり続けたいと考えています。そのためには、常に業態と看板料理を提案し続けていく必要があります。馬肉ならではの料理だけでなく、食べ慣れた料理を馬肉でアレンジしたメニューも開発しています。

店作りでは、“老舗”を作ることも、目指していることの一つです。ヒットしたビジネス書「日本でいちばん大切にしたい会社」(あさ出版)のなかでも紹介された寒天メーカーの伊那食品工業株式会社は、毎年、少しずつですが着実に業績を上げています。この「年輪経営」を当社でも実現していきたいですね。そのほかにも、老舗に学ぶことは数多くあります。クレンリネスやサービスなど、当たり前のことが普通にできることはとても重要です。

最初の出店の2007年から、10年で10店舗の出店を掲げていますが、まずは、人材を育てることが第一。目標達成には、あと3年で4店舗を展開する必要がありますが、急いではいません。必要な人材がそろった時が、出店のタイミングだと考えています。幸いにして、現在は人材が育ってきており、今年は2店舗の出店を計画しています。

――日本一の“馬肉バカ”を唱えていますが、そこにはどんな想いがあるのでしょうか。

常日頃からスタッフには、「当社は飲食店ではなく、馬肉の専門店である」と言っています。単なる仕事としてではなく、自分自身が大好きな馬肉を多くの人に食べていただき、そのおいしさを伝えたい。社員もアルバイトも、全員がその想いを共有することができる。“馬肉バカ”にはそういう意味を込めています。

だからこそ、「馬ミーティング」と呼ぶ社内のメニュー開発会議でも、単に売れるメニューではなく、馬肉のおいしさを伝えられるメニューが生まれます。例えば「馬ヒレ肉の刺し身」は、薄切りにするよりも、ぶつ切りで厚めに切った方が、より馬肉の味と柔らかさを楽しんでいただけます。実際に、切り方を変えることで売上も伸びました。

店舗では1回の来店で、お客様に3回の驚きを与えることを心がけています。スタッフが、一つひとつの料理に秘められたストーリーや込められた想いを、お客様にしっかり届けることができるお店でありたいと考えています。

――昨年は、日本馬肉協会の設立にも奔走されました。今後の計画をお聞かせください。

馬肉を一過性のブームにはしたくないという想いから、下遠野さんたちとともに社団法人日本馬肉協会を設立しました。馬肉は鉄分が豊富で、「桜肉」と呼ばれるほど美しい色を持ちますが、その一方で変色が早いという特徴もあります。繊細な馬肉の取り扱い方や安全性の確保などを、協会を通じて普及していきたいと考えています。

事業の面では、最初の目標である10店舗を達成した後は、馬肉の加工品の小売店を展開していきたいと考えています。加工品の販売は、すでに試験的に始めていますが、十分な手応えを感じています。将来的には、飲食店を併設する昔ながらのスタイルの精肉店も実現したいですね。また、小売りではプライベートブランドの展開も視野に入れています。馬刺しには醤油が不可欠ですが、すでに店舗ではオリジナルの醤油を使用しています。

さらに、馬肉を介護食としても提案したいと思っています。ヘルシーで高たんぱくな馬肉は、高齢者にとっても理想的な食材。これからも、日常的に食べられる食材、健康的な食材として、馬肉文化を飲食業を通じて広く発信していきます。

『馬肉問屋 馬喰ろう』 新橋店(東京・新橋)
http://r.gnavi.co.jp/b814502/
昭和の酒場をイメージした店内で、看板メニューの馬しゃぶのほか、馬肉メンチやフライドポテトなど、お肉屋さんの惣菜も楽しめる繁盛店。
馬喰ろう 恵比寿(東京・恵比寿)
http://r.gnavi.co.jp/b814501/
コンセプトは、古民家で多彩な馬肉料理を楽しめる「普段使いの馬肉居酒屋」で、温かみのある雰囲気が、おもてなしの心を感じさせる。2階には最大20名で利用できる掘りごたつ席があり、貸切での利用にも対応可能。人気の「馬白子ぽん酢」など、馬肉専門店ならではの希少部位も提供している。
馬肉酒場 馬喰ろう 人形町(東京・日本橋)
http://r.gnavi.co.jp/b814505/
地下鉄人形町駅から徒歩1分に立地。江戸の郷土料理ともいうべき名物「桜なべ」のほか、霜降り肉を贅沢に使った「特選 桜ユッケ」、新鮮なおろしをたっぷり巻いた「豪快桜たたき」、「桜肉の唐揚げ」などが看板料理だ。歌舞伎の世界を髣髴とさせる店内で、舌と目で江戸情緒を楽しむことができる。

Company Data

会社名
株式会社馬喰ろう

所在地
東京都千代田区内神田3-4-8

Company History

2007年 「がんばれニッポン馬肉道場 馬喰ろう」、「馬喰ろう 恵比寿」オープン
2008年 「闇焼 馬喰ろう 神田ミートセンター店」オープン
2010年 「『馬肉問屋 馬喰ろう』 新橋店」オープン、株式会社馬喰ろうを設立
2011年 「馬肉専門ビストロ BAKUROU 御徒町店」オープン(業務委託)
2012年 「馬肉酒場 馬喰ろう 人形町」オープン2013年2店舗を新規出店予定

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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