2018/10/04 繁盛の法則

牛肉一頭買いから生まれたお値打ちな「贅沢重」とは

「神楽坂 翔山亭 黒毛和牛贅沢重専門店」(東京・神楽坂) に学ぶ-牛の切り落とし肉を甘辛く煮たしぐれ煮とローストビーフをのせた丼ぶり「贅沢重」を提供。小規模店ながら、評判となっている。

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神楽坂 翔山亭 黒毛和牛贅沢重専門店

Key Point

  1. 高品質な牛肉の調達力を基盤に商品を開発
  2. 専門店としてオペレーションを簡略化
  3. 女性が気軽に立ち寄れる店づくりが奏功

黒毛和牛と和食の技法を融合させた焼肉業態から派生

一頭買いの黒毛和牛を使った高品質な焼肉と、和食を組み合わせた「神楽坂 翔山亭」は、牛肉の様々な部位を使ったメニューを開発し、専門店も運営している。その第一弾が、2015年9月に出店した「神楽坂 翔山亭 黒毛和牛贅沢重専門店 神楽坂本店」。10坪10席の小規模店ながら、平日で1日平均70人、土・日曜日には100人近くが訪れ、地元での評判を高めている。

東京・神楽坂を本拠とする焼肉店「翔山亭」は、現在、新宿区、千代田区に計5店舗ある。黒毛和牛のA4、A5ランクを主体に、雌牛のみを使用する焼肉と、季節の食材を活かした和の副菜を組み合わせて特徴を出している。落ち着いた和風の空間や接客にも気を配り、客単価は昼2500円、夜8500~9000円の高価格業態である。経営元の株式会社翔山亭は2008年創業で、2012年に現社長の金徳昌氏が経営を引き継いだ。金社長は、以前は株式会社トラジに14年間勤務し、後半の6年間は副社長を務めていた。「翔山亭」のコンセプトに魅力と可能性を見出した金社長は、代表就任後、さらなるブランドの強化とともに、着実な出店を重ねている。

一頭買いで仕入れる牛肉の中には、焼肉には適さない部位もあり、端材も出る。「翔山亭」ではそれらを含めた様々な部位を使って、コースで提供する一品やランチメニューを開発している。なかでも好評を得ているのが、牛の切り落とし肉を甘辛く煮たしぐれ煮。ご飯とよく合うことから、さらにローストビーフやサーロインなども加え、ごちそう感のある丼ぶりとして提供できないかという発想から生まれたのが「贅沢重」だ。この「贅沢重」の専門店を出店するに当たり、手ごろな価格で、終日気軽に来店でき、女性が1人でも利用しやすい、落ち着いた雰囲気の店を目指した。

「黒毛和牛贅沢重 松」(2,138円)。ご飯約200gの上に、ヒレ、サーロイン、しぐれ煮、ローストビーフをのせている。突き出しとして焼きしぐれ味噌、炙り握り1貫がつくほか、途中で味に変化をつける黄身ダレ、自家製漬け物2種がつく。最初はそのまま、次に黄身ダレを注ぎ、最後はお茶漬けに。うなぎのひつまぶしにヒントを得た3段階での食べ方を提案している

ひつまぶしをヒントに3段階の味わい方を提案

「贅沢重専門店神楽坂本店」は、小料理店のような外観で、オープンキッチンを囲む変形L字型のカウンターに10席を設けている。商品は「黒毛和牛贅沢重」に絞り、しぐれ煮とローストビーフをのせた「梅」(1080円、牛肉計120g)、「梅」にサーロインをプラスし、牛肉の炙り握り1貫の突き出しがつく「竹」(1598円、同150g)、「竹」にヒレを追加し、突き出しに焼きしぐれ味噌が加わる「松」(2138円、同180g)の3種をそろえている。さらに、シャトーブリアン(ヒレの中心部)をのせた「贅の極み重」(6480円)も数量限定で用意。この価格は、同社の食材調達力に加え、原価率40~42%をかけて実現しているものだ。同時に、単品の専門店とすることでオペレーションを簡略化。「贅沢重」のオーダー比率は、竹が4~5割、次いで松が約3割を占め、客単価は1500~1600円になる。

この「贅沢重」は、食べ方にも工夫がなされている。まずはそのまま食べ、次に別添えの黄味ダレを注ぐか、肉につけて食べる。最後に備え付けのお碗に移し、ワサビ、ゴマ、刻みノリ、ユズ皮などの薬味を加え、特製の和風だしを注いでお茶漬けにする。名古屋のうなぎの名物料理「ひつまぶし」をヒントに、ひとつの丼ぶりで多彩な楽しみ方ができるようにしているのも、特に女性にとって魅力となっている。この和風出汁は、カツオ節と昆布でとった出汁をベースに、牛骨、鶏ガラ、香味野菜を煮出したスープを加えたもので、滋味深い味わいがあると好評だ。

オープンに際し、2日間はどのメニューを食べても無料という大胆なキャンペーンを打ち出した。2日で約300人が来店するという大反響を得たが、いざ開店すると客足はピタリと止まってしまった。1日の客数が30人ほどという日が半年ほど続いたが、徐々にリピーターや、系列の焼肉店から紹介で来店する人が増え、1年後くらいに軌道に乗り始めた。現在は女性が7~8割を占め、その中の半分近くが1人客で、狙い通りの客層をつかんでいる。

同店が高品質の牛肉を活かした専門店として認知度を上げている要因は、以下のようになるだろう。

  1. 一頭買いによる高品質な牛肉調達力を基盤に商品を開発している。
  2. 単品の専門店としてオペレーションを簡略化している。
  3. 女性が気軽に立ち寄れる店づくりが功を奏している。

「贅沢重」に続き、同店から数軒先に「和牛贅沢ハンバーグ専門店」を2017年6月にオープン。「翔山亭」のランチで好評だったハンバーグの専門店で、徐々に客数を増やしている。

「今後も焼肉業態での一頭買いを主軸にしていきます。肉の使用量が増えれば、専門店も出店できるという仕組みです。素材はいいものですから、それを今までにないような、革新性のある商品としてどのようにお客様に提供できるか。贅沢重、ハンバーグ以外の商品もいろいろと考えています」と、総料理長の奈良原伸也氏は話す。

神楽坂 翔山亭 黒毛和牛贅沢重専門店
住所

東京都新宿区神楽坂3-1 桂ハイツ1F
TEL 03-6228-1829
営業時間
11:00~21:00(L.O. 20:30)
定休日
無休