2012/09/06 繁盛の法則

フレンチの技法を活かした華やかな自然食とは

玄米菜食、発酵食のたまな食堂に学ぶ‐東京・南青山にある「たまな食堂」は玄米菜食、発酵食をテーマとする自然食レストラン。ヨーロッパで修業した公文シェフが彩り鮮やかな味わいある料理を提供する。

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たまな食堂

居心地のいい45坪28席の店舗は女性を中心に多くの客でにぎわう

Key Point

  1. 彩り豊かな玄米菜食を提案
  2. ボリューム感で男性客の支持も獲得
  3. 隠れ家的な立地に心地よい空間を創出

東日本大震災後にコンセプトを見直し、生産者支援を兼ねて再スタート

東京・南青山の路地奥にある「たまな食堂」は、玄米菜食、発酵食をテーマとする自然食レストランである。自然食というと、ヘルシーではあっても、どことなく地味な料理という印象があるが、同店ではフランスやイタリアで修業した公文紀一(くもん きいち)シェフが料理を手がけ、彩りも豊かで、メリハリのある味わいの料理が提供されている。

経営元はクオリティライフ株式会社で、主に企業向けのセキュリティソフトなどを手がけるIT企業、クオリティ株式会社のグループ会社である。IT企業の50~60代の経営者や社員は、食生活が不規則になりがちで、健康面で不安を抱える人が少なくないという。1952年生まれの同社の浦 聖治(うら きよはる)社長もその1人だったが、一念発起して玄米菜食を実践したところ、余分な体重が落ち、体調も良くなった。その体験をもとに、「ITだけではなく、食の分野でも世の中に貢献したい」と、クオリティライフを設立し、玄米菜食レストランの出店を発案した。あまりにも唐突な新規事業の提案だったが、社員の中でただ1人、料理が得意でマクロビオティックに挑戦した経験もある加藤典子氏に白羽の矢が立ち、ディレクターとして事業展開を任されることになった。外部から料理長や料理教室の講師を招き、2010年12月、料理教室を付帯するナチュラル・フード・スタジオ内の玄米菜食カフェとしてスタートした。

浦社長が「ここに出店する」と見つけてきた現物件は、青山通りから路地を入り、さらに横道に入った突き当たりという、知らない人はまず入ってこない場所にある。ビルの1階、45坪の規模で、ナチュラルな雰囲気の店舗を得意とするデザイナーに設計を依頼し、天井が高く、明るく心地よい空間を創り出した。

オープン当初は難しい立地の影響もあり、認知されるまでに時間がかかっていたところに、2011年3月の東日本大震災が起こった。震災をきっかけに、日本の伝統文化である発酵食を見直し、国内の農家の支援を店舗運営の目的に加えることにして、コンセプト全体を見直してリニューアルを図った。店名も「大地から賜った野菜」の意から「たまな食堂」とし、2011年4月に再スタートを切った。口コミやWebプロモーションの効果により、数カ月のうちにテレビや雑誌などに次々と取り上げられ、その追い風を受けて客数が増えていった。

看板商品の玄米ごはんは、田んぼに雑食性のアイガモを放って雑草や害虫を食べさせるアイガモ農法や、光合成を行う単細胞生物のラン藻(シアノバクテリア)を土の中で繁殖させて肥沃な土壌にするピロール農法などで栽培された無農薬米を使用する。圧力鍋で玄米100%をふっくらと炊き上げ、好みでゴマ塩をかけながら食べてもらう。

魚介類はたまに使用するが、肉類など動物性の素材は基本的に使わない。有機野菜あるいは無農薬・減農薬栽培の野菜類を、塩麹、しょう油麹などの発酵調味料を駆使し、見た目も華やかで、ボリューム感のある料理に仕上げている。

夜のメニューの「森のやさいコース」4,500円の中から、前菜六点盛り、オードブルの稲荷茄子のステーキ、ぬか漬けタルタルソース、無農薬玄米ごはん、みそ汁、香の物

玄米菜食の質素なイメージを一新。見た目、味、量で男性客にも好評

ランチメニューは900~2,500円で、中でも「本日の一汁三菜」1,300円と、以前は土・日・祝日のみの提供だったが、今年7月から平日も提供するようになった「たまな定食」1,800円の人気が高い。ランチデザート500円をオーダーする客も多く、昼の客単価は2,000円になる。夜は、「木のやさいコース」3,500円、「森のやさいコース」4,500円がメインで、そのほか夜用の「たまな定食」2,500円、一部アラカルトを提供している。ドリンクはビオワインなどをそろえており、夜の客単価は5,000円。ボリューム感はあるが、野菜類ばかりなので全部食べても胃がもたれないのも特徴である。

「玄米菜食の質素なイメージを、フランス料理のような見た目の華やかさでいい意味で裏切り、量としても、美容や健康を気にする女性だけではなく、男性でも満足できるようにしていますので、最近は男性客も増えています」と加藤ディレクターは語る。同店が玄米菜食、発酵食を新鮮なイメージで打ち出し、注目度を高めている要因は、以下のようになるだろう。

1フレンチの技法を活かし、彩りも豊かで華やかな玄米菜食、発酵食を提案している。
2野菜を主体に、ボリュームがありながら、胃にもたれない料理で男性客にも支持されている。
3隠れ家的な立に、ナチュラルで心地よい空間を提供している。

また店内には、同店で使用している食品の販売コーナーを設け、料理教室や民間資格の「ナチュラルフードインストラクター養成講座」などを行う講習会スペースもあり、飲食部門と合わせ平均月商500万円を上げている。「今はランチとディナーだけなのですが、今後は朝食も出してみたいですね。また、玄米菜食の間口をさらに広げるために、より気軽に食べられる業態も出店できたらいいと思います」と、加藤ディレクターは次なるステップに向けアイデアを膨らませている。

住所
東京都港区南青山3-8-27
TEL
03-5775-3673
営業時間
11:30~15:30(L.O.14:30)、18:00~22:30(L.O.21:30)
定休日
無休