2011/07/26 Top Interview

株式会社APカンパニー 代表取締役 米山 久氏

生産・流通へと視野を広げ、飲食業の新しい価値を創出。2006年、宮崎県日南市に自社養鶏場を設立。契約農家との直取引を始め、地鶏の仕入れで「生産者直結モデル」を確立した株式会社APカンパニー。

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生産・流通へと視野を広げ、
飲食業の新しい価値を創出

2006年、宮崎県日南市に自社養鶏場を設立。契約農家との直取引を始め、地鶏の仕入れで「生産者直結モデル」を確立した株式会社APカンパニー。その斬新な事業展開は、「塚田農場」「日南市じとっこ組合」「わが家」などのブランドとして結実している。
今年7月には、「漁師直結型ルート」のほか、新たに自社漁船による定置網漁といった仕入れ方法も確立し、漁師直結型の鮮魚専門居酒屋という新機軸を打ち出した。生産・流通の現場にも新風を吹き込んでいる同社代表取締役の米山久氏に、飲食業の〝新しい価値〝について語っていただいた。
株式会社APカンパニー 代表取締役米山 久 氏Hisashi Yoneyama1970年生まれ。不動産業、販売代理店、海外挙式のプロデュース業などを経て、2001年APカンパニーを設立。ダーツバーを出店して飲食業に参入。2004年、みやざき地頭鶏専門居酒屋「わが家」を出店。2006年、宮崎県に農業法人を設立し、自社養鶏場と加工センターを立ち上げる。2008年度外食アワード受賞。2011年、自社で定置網漁を開始し、漁業でも第一次産業へ進出。

生産の川上にさかのぼり、
納得できるブランディングを実現

株式会社APカンパニーの大きな特徴は、仕入れの食材を業者まかせにせず、自ら生産現場までさかのぼり、納得できるブランディングが実現するまで、深く掘り下げて仕組みを構築するところにある。自社養鶏場の設立と、契約農家からの直買いで、高品質かつ低価格を実現した地鶏・みやざき地頭鶏(じとっこ)と、それをメインとした飲食店「塚田農場」「日南市じとっこ組合」「わが家」が、その最初のビジネスモデルだ。

「おいしくて、新鮮な地鶏をどうしたらお客様に安く提供できるかを考えた結果、見えてきたのは、生産(第一次産業)と流通(第二次産業)の課題でした。生産地には優れた食材があるのに、流通の段階で価格が上昇する。そのため、飲食店はお客様に高価格で提供することになってしまいます。また、安く買い取られがちな生産者の疲弊は激しく、廃業せざるを得ない農家もありました」と米山久氏は語る。

そこで、飲食店が生産者と直接結びつくことで、飲食店側は高品質な食材を市場より安く仕入れることができ、かつ生産者は以前よりも高価格で売ることができ、収入増につながる。軌道に乗れば参入する生産者も増え、加工場や処理センターなどが必要となる結果、雇用が生まれる。飲食業が生み出す「新しい価値」のひとつがここにある。

「これらの変化を目の当たりにして、従業員の目が輝き出しました。目の前のお客様に喜んでもらうことから発した〝飲食人〝としての誇りに、地域の活性化や日本の農業の未来を守るという充実感や使命感がついた。こうなると、飲食人は素晴らしい力を発揮する。これがAPカンパニーらしさです」。

仕入れにさらなる企業努力を
魚業態でも生産者直結モデル

「そもそも多くの飲食店は、仕入れに対する差別化の意識が薄いと思います。内装に凝り、メニュー開発に没頭し、接客のあり方を考えることに、飲食店はみな必死です。その努力は当然ですが、同様の熱意を仕入れにも向けるべきです。そうすれば、今までにない景色が見えてくるはずです」。

APカンパニーでは地鶏のほか、魚でも〝おいしい・新鮮・安い〝を実現する仕入れを追求。当初から築地直送の仕入れ、仲卸と提携しての仕入れなど、様々な選択肢を検証してきたが、完全に納得できるスタイルにはならなかったという。そこで乗り出したのが、漁師との直取引だ。宮崎県北の離島・島野浦の漁師と、獲れた魚を毎日すべて買い取る契約を結ぶ。その代わりに、午前2時の出漁と、時化などで出漁できない日以外は365日の操業を要請。また、同社が「極〆(きわみじめ)」と呼ぶ、船上で行なう神経抜きと血抜きの併用で、品質と保存状態をさらに高める工夫もしてもらう。こうして両者がタッグを組んだことで、宮崎県を今朝まで泳いでいた魚が、空輸でその日のうちに東京の店舗で提供できるという画期的な流通システムの構築に成功した。

こうした漁師直結型の仕入れに加え、この夏からは、宮崎県で自社漁船による定置網漁にも進出。今年7月には新基軸となる漁師直結型の鮮魚専門居酒屋「四十八漁場」がオープンする。

「ここまで来るのに4年かかりました。やっと当社らしい業態になったという手応えがあります。『四十八漁場』という命名は『2048年問題』を由来にしたもの。魚資源の乱獲をこのまま続けていくと、2048年には枯渇すると言われています。定置網漁は設置した網に入ってきた魚だけを獲るエコな漁法です。お客様においしい魚を食べてもらいながら、漁師の生活と限りある水産資源を持続可能なものにする。ここに事業としての深みがあると思うのです」。

第一次・第二次産業も含めた
97兆円の食品産業も視野に

米山氏の目線は、飲食店だけでは捌ききれない食材を、卸売販売する経路の拡大にも向いている。現在、島野浦島から東京に空輸された魚のうち、店舗で使用されない分は、東京都中央卸売市場築地市場や、スーパーなどに卸している。

「外食産業の市場規模は二十数兆円。少子化や若者のお酒離れも進んでいますから、今後、この市場が大きく膨らむことはないでしょう。その限られたパイを取り合っていても仕方がありません。一方、外食産業に食品製造業や食品流通業(食品卸売・食品小売)も含めた食品産業の市場は97兆円と言われています。当然、これを視野に入れるべきでしょう。第三次産業(サービス業)内部の景色ばかり見ていたら、今のAPカンパニーはありません。目先の利益や売上だけにとらわれるのではなく、その先にあるもの、誰もが見ていないところを見ることが大切です。わが社の企業風土としても、大事にしたいところですね」。

地域の埋もれた食材を開拓
〝飲食人〝としての感性を磨く

APカンパニーが力を入れるもうひとつの柱は、全国にある埋もれた食材を発掘し、ブランディングをして大量消費につなげ、地域活性化を図ること。2006年に立ち上げた宮崎県の自社養鶏場に続き、この夏にも、北海道新得町で「新しんとく得地鶏」の生産に参加し、それを売りとする新業態を立ち上げる。

「数ある出会いの中から、経営者としてどの食材にフォーカスし、誰と組むのか、見極めが大切です。流通の末端で命をかけて働く生産者に想いが届く事業でなければ意味がありません。同時に、お客様が何を求めているかに常に敏感であることが重要ですが、ニーズとのズレに気付いていないお店が多いと感じます。これからも様々な飲食店に客として繰り出し、飲食人としての感性を磨き続けること、これを怠らずに、進んでいきたいですね」。

今後は海外進出も射程に入れ、すでに視察を進めるなど、意気軒昂。生産・流通・サービス業、各分野でますます目が離せない存在だ。

Company History

2001年 7月

無国籍創作料理のダイニングとダーツバーをオープン(東京・八王子)

2001年 10月

有限会社APカンパニーを立ち上げ、代表取締役就任

2004年 8月

「わが家 八王子店」オープン

2006年 2月

宮崎県日南市にて「みやざき地頭鶏」の
自社養鶏場を開始

2006年 5月

株式会社APカンパニーに組織変更

2007年 8月

「塚田農場 八王子店」オープン

2009年 1月

みやざき地頭鶏の取り組みで
2008年度外食アワードを受賞

2010年 2月

鹿児島県錦江湾の漁師と契約。
漁師直結型の事業モデルを開始

2010年 6月

東京都中央卸売市場 大田市場の買参権を取得

2011年 7月

宮崎県延岡市須美江にて
自社漁船による定置網漁を開始北海道上川郡新得町にて「新得地鶏」の
自社養鶏場を開始「四十八漁場 五反田店」オープン2011年7月1日現在、
16業態93店舗を展開