ドイツ発 新しいおいしさでブームのビーガン料理 後編

ドイツで広がるビーガニズムは一般の人々の間でも人気。後編では、ビーガン料理の魅力を追求し、様々な国のメニューをビーガン料理で提供する店と、おしゃれなビーガンレストランバーを紹介。

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Vol.66

ドイツで広がるビーガニズム(卵やバターなどを含むすべての動物性食品を食べない菜食主義)。一般の人々の間でもビーガン料理は人気となっており、前編では、ドイツ南部の都市、ミュンヘンにあるビーガンレストランを紹介した。ビーガン料理のおもしろさは、工夫次第でどんな料理でも植物性に変えられること。後編では、その魅力をさらに追求し、様々な国のメニューをビーガン料理で提供するフランクフルトのレストランと、ドイツでもっともビーガンレストランが多い首都ベルリンの、おしゃれなビーガンレストランバーを紹介する。

ビーガン料理の多様さを伝えるシェフとしてドイツで有名なビョルン・モシンスキー。ビーガン用のレシピ開発を手がけ、料理本も出版している
ビーガンレストランのドリンクメニューに必ずといってよいほど載っている「フリッツ・コーラ」。ハンブルグのブランドで、ビーガン用のコーラやレモネードを作っている
ドイツの家庭料理「フラムクーヘン」もビーガン料理に変身。ピザに似た生地の上には、大豆でできたベーコンがちりばめられている

多国籍メニューを“エシカル”なビーガン料理でアレンジ

ドイツ西部にあるフランクフルトで2013年7月にオープンした「ワンダーグッド」(Wondergood)のコンセプトは、"Ethical Well Food"(よいエシカルフード)。「エシカルフード」とは、生産者や自然環境において配慮がある安全な食を意味する。「ワンダーグッド」は、このコンセプトを念頭に国内の有機栽培農家と提携し、環境に配慮された野菜を仕入れる。「健康的な食生活に持続性を持たせることが大切です」とオーナーのアントン・ゴロシュチェキン氏は語る。

ロシア料理として知られている「ペルメーニ」をビーガン料理にアレンジ(10.9ユーロ=約1,530円)。もちもちしていて餃子に似ており、ひき肉の代わりにソイミンチを使う

ゴロシュチェキン氏は、ロシア出身だ。ロシアではビーガニズムは浸透していないが、興味深いことに「ワンダーグッド」のメニューにはオーナーの母国の味が含まれている。例えばロシアのゆで餃子「ペルメーニ」。本来、ペルメーニにはひき肉とタマネギを混ぜた具を入れるのが主流だが、同店では粒状のソイミンチ(大豆から作られたひき肉の代用品)とタマネギを合わせ、小麦粉・水・塩で作ったペルメーニの皮で包んでいる。味は肉を使ったものと比べてマイルドだが、タマネギの甘みがよい引き立て役になっている。ペルメーニの上にかかった豆乳ヨーグルトのソースが皮にしっとりなじみ、絶妙なハーモニーを奏でる。

そのほかのメニューも国際色豊かだ。例えば珍しいものとして、グルジア料理の「サツィヴィ」(蒸した鶏肉にハーブ入りのクルミのソースをかけた料理)が挙げられる。鶏肉の代わりにクルミのソースと合わせているのはナスやトマト。有機野菜ならではのおいしさがしっかり口に残る。ソースの上には、細かく刻んだ豆乳製フェタチーズをかけ、野菜をさらにおいしく味わえるようにしている。さらにその上には、ドイツ料理の飾りでよく使われるザクロがのる。こうして「ワンダーグッド」のサツィヴィは本物とはだいぶ異なるが、独自の味を作り上げている。

このように、ひと工夫加えた料理は、主にゴロシュチェキン氏のパートナー、オルガ・クヴシノーヴァ氏が調理スタッフとともに生み出す。クヴシノーヴァ氏を含め、従業員はほぼ全員がビーガンだ。ゴロシュチェキン氏は「彼女は才能があるシェフというだけでなく、アーティストでもありますね。いろいろなアイデアとファンタジーのあるメニューを考えてくれます」と、ほほ笑む。いつでも新しい発見があるようにと、メニューは3週間ごとに変更。フェイスブックで過去に提供したメニューのアンケートを行い、評価が高かったものは再度取り入れるなど、ユーザーのリクエストにも応えている。開店してまだ1年も経っていないが、健康的で珍しい食事を味わいたい人の間で人気の店として成長している。

ドイツでもあまり知られていないグルジア料理の「サツィヴィ」は、鶏肉の代わりに有機野菜を使ってヘルシーなメニューに(7.1ユーロ=約1,000円)。多国籍なメニューがビーガン料理で味わえるのが同店の売りだ
SHOP DATA
ワンダーグッド(Wondergood)
Preungesheimer Strasse 1 60389 Frankfurt am Main
http://www.wondergood.de/

ビーガニズムをおしゃれに演出するベルリンのホットスポット

首都ベルリンには、ビーガン料理をスタイリッシュに表現しているレストランがある。コッペル広場にあることから「コップス」(Kopps)と名づけられた店は、ドイツ初のビーガン・カクテルバーとして有名。地元の人のほか、音楽・映画界のアーティストたちも来店し、2013年のベルリン映画祭のときにはハリウッド女優、アン・ハサウェイも訪れたほどだ。

爽やかなオレンジ色がきれいな「コップス」のオリジナルビーガンカクテル「コップセッション」(8ユーロ=約1,120円)。特に夏に注文が多い

カクテルをビーガン風に作るというのは、例えば「ホワイト・ルシアン」(ウォッカをベースにカルーア、生クリームを使ったカクテル)には、生クリームではなくソイホイップを使用する、といった具合である。また、「コップス」にはオリジナルカクテルもあり、その中でも「コップセッション」(Koppsession)が人気だ。ウォッカ、アプリコットのリキュール、クランベリージュース、ライムジュース、キンカン、ミント、砂糖で作るもので、特にアプリコットの味と香りが引き立つ。店内には酒を味わえるラウンジバーが設けられ、週末にはDJが音楽を流す。「内装はシックでも、ドレスコードはありません。学生も来れば、ビジネスミーティングでラウンジを利用する人もいます」とオーナーのイルハーミ・テルツィ氏は言う。

気になる料理はどんなものだろうか。「コップス」では昼はカジュアルな家庭料理、夜は地方の無添加食品をたくさん使った、創作コース料理が登場する。昼の代表メニューはドイツの名物「フラムクーヘン」(トマトソースではなく、チーズやサワークリームを用いたピザに似た料理。軽食やおつまみとして食べられる)だ。ドイツで、例えば「アルザス風フラムクーヘン」といえば、角切りベーコンとタマネギがのるが、同店では大豆でできた"ベーコン"を使用し、豆乳ヨーグルトをソースとして用いている。豆乳ヨーグルトはあまり癖がなく、通常のプレーンヨーグルトによく似ている。"大豆のベーコン"は肉より柔らかく、「味付けされた硬めの豆腐」と表現できるだろう。それでも「コップス」のアルザス風フラムクーヘンは通常のものと大差がなく、薄い生地がパリっとしており、クリームがとろりとしているうちに食べると絶品なのである。

昼のメニューが、家庭料理を植物性食品のみを使って“再現”されたものであるのに対し、夜の週替わりコース料理では、ビーガンならではの味わいを“創作”した料理が楽しめる。例えば、「野菜を麺として使ったパスタ」や「白いトマトスープ」といったものだ。「白いトマトスープ」は、塩、砂糖、タマネギ、バジルに漬けたトマトを裏ごしし、ブイヨンにして赤みのない透き通ったスープに仕上げ、そこに香辛料と少量のソイホイップを加えて、白みを与えている。それでもトマトの味はしっかり残っており、客は一口飲むとそのおいしさに驚くという。「お客様には想像を超える驚きを体験してもらいたいのです」とテルツィ氏はにこやかに話す。「コップス」は動物性のゼラチンなどを利用していないビーガンワインのメニューも豊富にそろえ、すてきなディナーが楽しめるレストランとして人気なのだ。

他国に比べると、もともとベジタリアンとビーガンが多いドイツでは、一般の人々の間にもそのよさが自然と伝わってきた。「ワンダーグッド」の店主、ゴロシュチェキン氏は言う。「例えば、夫婦やカップルの1人が肉好きで、1人が菜食主義だと共同生活は難しいですが、完全にビーガンとはいかなくても、相手の好みに合わせて野菜中心の食事に慣れてしまう人も多いですよ」。そんな流れもあり、ドイツでは完全ビーガンもしくは一部ビーガンメニューを取り入れるレストランが年々増えている。ビーガニズムをもとに、様々なコンセプトで店をつくっていくことは飲食業界にとって楽しい試みであり、客に新しい価値やスタイルを提供する。次はどんなビーガン料理を提供するレストランが登場するのだろうか。

赤タマネギが入った白いトマトスープ。「コップス」の夜のメニューでは、驚きのあるビーガン料理を提供する
飲食業界とクラブハウスで勤務していた経験を活かして、2011年末に同店を開いたイルハーミ・テルツィ氏
SHOP DATA
コップス(Kopps)
Linienstrasse 94 10115 Berlin
http://www.kopps-berlin.de

取材・文/町田文

※通貨レート 1ユーロ=約140.6円

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