ラオス発 続々出店!日本食レストラン 後編

日本人にはなじみの薄い東南アジアのラオスで、日系のレストランなどの出店が相次いでいる。後編では、著しい経済発展によって生まれた富裕層をターゲットにした高級店を紹介する。

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Vol.152

日本人にはなじみの薄い東南アジアの国・ラオス。しかし、今、この地に日系のレストランや居酒屋などが続々と出店を果たしている。首都ビエンチャンの一人当たりのGDPがタイとほとんど変わらず、著しい経済発展に伴って「富裕層」が生まれていることも、その要因の一つ。街の中心部では高級外車が数多く走り、ショッピングセンターやコンドミニアムも次々と建設されている。

後編では、こういった富裕層へのアピールに成功した2店舗を紹介する。

ラオスの富裕層を狙った高級店。日本の料亭をイメージさせるコース料理が供される
熱帯モンスーン気候で四季のないラオスで、季節を感じさせる松茸などの食材を使った料理を提供し、“高級感”につなげている
焼肉のタレには、刻みニンニクと輪切りにした唐辛子をたっぷり入れるのがラオス人の好み

ラオスの政財界の中心地で繁盛する日本式焼肉店

首都ビエンチャンのシクホッタボン地区は、官庁や銀行などが集まるラオスの政治・経済の中心地。ここに2009年12月に店を開いたのが焼肉店「じゃぱん亭」だ。

「松阪牛」もメニューに並ぶ。価格は40万キープ(約5,400円)と、ほかの肉の約10倍だが、富裕層からのニーズは高い

「カルビ」1人前は4万1,000キープ(約560円)。オリジナルのタレのほかに、スパイシーな味わいが好きなラオス人のために、細かく刻んだニンニクと輪切りにした唐辛子も提供。これらを混ぜることで、肉の旨みにガツンと強烈なインパクトが加わる。

ラオス産の鶏肉を使った「焼鳥」(2本、2万5,000キープ=約340円)も人気商品の一つ。一般的なタレ(メニュー表では、海外で伝わりやすい「Teriyaki(=照り焼き)」で表記)のほか、ここでもピリ辛好きなラオス人の嗜好に合わせて明太子をトッピングしたものや、わさび醤油をタレにして焼いた商品も開発した。

ボリュームたっぷりの海鮮サラダ「シーフードフィーバー」(3万5,000キープ=約480円)も人気だ。レタスの上に、千切りにしたキャベツと紫キャベツ、ニンジンをのせ、さらにその上にマグロ、サーモン、しめサバにカニカマとワカメを並べた彩り鮮やかな一品。そしてこちらも酢をベースに、刻みニンニク、輪切りにした唐辛子を入れたスパイシーなタレをかける。日本人にとって刺身にスパイシーなタレは予想外だが、淡泊な野菜や魚介に意外とよく合う。

主な客層は富裕層で、夜になると店の前に高級車がずらりと並ぶ。1階70席のほか、2~3階に6部屋のVIPルームがあり、政財界の要人のミーティングにも頻繁に使われている。また、ラオスで初の無煙ロースターを導入したことで、スーツに臭いがつくのを嫌がるビジネスマンにも評判になった。夜の客単価は、20万キープ(約2,800円)。ラオスの一人当たりのGDPが2,353ドル(約25万9000円。2016年)と、日本の16分の1程度であることを考えると、かなりの高額といえる。

あまりの人気ぶりに、隣に新館をオープンさせる予定で、こちらには日本らしい座敷の個室も用意。和の空間で、日本好きのラオス人へさらなるアピールをしていく。

「シーフードサラダ」にも、ニンニクと唐辛子をたっぷりと入れたタレを合わせるのが、ラオスでは一般的。ラオスの人は辛い物が好きなため、刺身や寿司を食べるときもワサビを大量に使う
「焼鳥」は4種類(各2本、2万5,000キープ=約340円)。手前から「明太子&ゴマ」「わさび醤油&焼きネギ」「チーズ&刻み海苔」「照り焼き」
じゃぱん亭(Japan-tei)
Lak 2, Soupanouvong Road, Ban Khounta Thong, Sikhottabong, Vientiane
http://www.japantei.la/

日本の四季を感じさせるコースが富裕層を魅了

ビエンチャン市内でも屈指の高級住宅街、サパントアヌア地区に日本料理店「TOKYO R」がオープンしたのは2016年7月。和牛など日本から仕入れる高級食材や農薬を使わない野菜を用い、ラオスで好まれるピリ辛スパイシーな味付けではなく、素材のよさや特徴を活かすあっさりとした日本料理を提供し、富裕層を中心に支持されている。

人気のコース「おもてなし」の前菜として供される梅酒と各種前菜。赤、黄、橙、緑など彩りも鮮やか

同店の自慢は、40万キープ(約5,500円)とラオスでは高単価な「おもてなし」という名のコースだ。メニューは日本から直輸入する近江牛のステーキ(100グラム)を通年メインとして提供し、そのほかは月替わりで内容が変わる。

例えば、9月は食前酒に熟成梅酒を提供。先付けの「玉子焼き」に始まり、「トマトとアスパラの和風醤油手作りドレッシング和え」「地鶏煮の無農薬野菜巻き」など、細やかな技に“和”のこだわりを感じてほしいというオーナーの想いが伝わってくる逸品が並ぶ。椀は、日本産の昆布からとった出汁で作る「なすの煮びたし」。さらに、「サーモンとキャビアの刺身」「フランス産のフォアグラと大根の煮物」、抹茶塩で食す「エビとイカの天ぷら」と続く。

そして、和風しょうゆ手作りドレッシングをかけた「彩サラダ」の後、メインの近江牛ステーキを提供。和牛の格付けで最高の5級に認定されたもので、肉質は柔らかく脂に旨みを感じる。ソースは農薬を使わずに育てた玉ねぎを長時間煮込む焦がししょうゆソースだ。

そして、シメの釜めしにも、オーナーの飯田國大氏と夫人の知子氏が大切にしている“季節感”が表現されている。9月は、日本の秋を感じさせる松茸入りの釜めしを用意。ラオスの北部で雨季に入る直前に採れた貴重なもので、濃厚な香りが特長だ。

食後は自家製のデザートで、9月は「カスタードと苺のソースがかかったブランマンジェ」。 そしてラオス産の豆を使ったコーヒーが供される。

ランチで人気なのは、サーモン、鰻、マグロ、チキン照焼、イカのミニ丼5種類から2つを選び、そばとセットにした「東京どんぶり」(10万キープ=約1,360円~。丼ごとに価格は異なる)。時間のないランチタイムに、いろいろな物を手早く食べたいというビジネス層のニーズをくみ取って考案した。そばは、香りと喉ごしが絶妙な信州産を使用している。

主な客層であるラオスの富裕層にとって、日本への旅行は近年ブームでありステータスとなっている。日本で食べた本物の和食をまた味わいたいと、同店を訪れるケースが徐々に増えてきている。 ランチの客単価は平均15万キープ(約2,000円)、ディナーは平均35万キープ(約4,700円)と、現地ではかなり高額。それでも、同店がオープン1年で人気店へと上り詰めたことは、ラオスの富裕層にとって、“本物の和食”がそれだけの価値を持つ存在になっていることの証明といえそうだ。

ランチで人気のセット「東京どんぶり」。ミニ丼は2つ選ぶのが基本だが、5つすべてつけることも可能(18万キープ=約2,450円)。一番人気はサーモンのミニ丼
夫婦でメニューを考案しているオーナーの飯田夫妻。夫・國大氏の本業であるビジネスコンサルタントのコネクションを活かして、厳選した食材を日本から空輸している
トーキョーアール(Tokyo R)
2F unit 03, house No 064,Ban Saphanthong Nua, Vientiane
https://www.facebook.com/tokyoRlao/

取材・文/梅本昌男(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1キープ=約0.01361円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。