2017/04/28 繁盛の黄金律

儲かる店の根本にあるのは、「もっとおいしい料理を」という経営者の情熱

儲かる店の根本にあるのは、「もっとおいしい料理を」という経営者の情熱 -ひと言でいうと、「ピリッとしない店」。飲食店の多くは、そんな店ともいえます。経営者ひとりが怒鳴り続けています。

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Vol.68

従業員に愛されない店は、何をやってもうまくいかない

掃除は行き届いていない。従業員はヤル気もなく、タラタラと働いている。客席への目配りができていない。商品の提供は遅れがち。出てくるものは質のバラつきが多く、適温が保たれていない。ひと言でいうと、「ピリッとしない店」。飲食店の多くは、そんな店ともいえます。

経営者ひとりがカリカリしていて、「しゃんとせんかいっ!」と怒鳴り続けています。従業員は怒られたときだけ、一瞬ピリッと緊張が走りますが、すぐに元の「ダラけた」状態に戻ってしまいます。こんな現状を打破しようと、経営者はいろいろな手を打ちます。自店の理念を掲げたり、店舗巡回を強化してみたり、モニター制度を導入してみたり、と八方手を尽くすのですが、ほとんどの場合、あまりいい効果が上がりません。

なぜ実効が上がらないかというと、従業員がお店を愛していないからです。できればもう少しまともな店に移りたいと、いつも心の底で思っているからです。自分がやるべき仕事を「可もなく不可もなく」やり続けているだけなのです。これでは経営者が何を言っても、従業員の行動は変わりません。もちろん、お客様を満足させよう、少しでもおいしい料理を出そう、などという気持ちは沸き起こりません。

働く人の誇りを引き出せれば、いい方向へ向かう

こういう店になってしまった責任は、すべて経営者にあります。経営者は、自分はよりよい店にしたいと思って日々悪戦苦闘している、と思っているかもしれませんが、「よりよい店に」と考えるその中身が問題なのです。荒れた店や、レベルが低いままの店は、経営者が「もっと儲かる店にしたい」と思っているだけのケースが多く、経営者にとってはそれが「よりよい店」なのです。その中身を変えない限り、現在の状況から抜け出すことはできません。

では、その中身をどう変えればいいのか。言葉にすれば簡単なことです。「もっと料理をおいしくできないか」「もっと質の高い食材を使えないか」「もっと調理技術を上げられないか」。経営者がこのことを不断に考え始めれば、従業員の仕事に対する姿勢が自然に変わり始め、店のレベルは間違いなく上がっていきます。

結論を先に言いますと、従業員が自分の店の料理に誇りを持っているかどうかです。そして、その料理がさらに進化して、高質化しているかどうか。それを個々の従業員が確認できているかどうか。この流れさえ出てくれば、従業員の意欲は自然に高まって、サービスのレベルは上がって、店は活気づき、お客の満足度も自然に上がります。

おもしろいことに、そうなると清掃も行き届き始め、キッチンもフロアも、ピカピカになってきます。店への愛が生まれたということですね。自分たちが提供している料理に誇りを持てさえすれば、すべていい方向に向かっていくのです。逆に言えば、誇りを持てない料理を提供していたのでは、どんな手を打っても店はよい方向に向かわない、ということです。

すべては経営者の気持ち次第です。「もっと質の高い、おいしい料理を出せないものか」と、本気で思っているかどうか。そして実際に、その実現のために日々行動しているかどうか。この一点に尽きます。しかし実際には、「食材のレベルを落としてでも、少しでも利益を増やしたい」と考えている経営者がとても多いのです。これくらいならば、お客はわからないだろうと思っているかもしれませんが、必ず伝わります。そして、お客より前に、従業員は食材を変えたその瞬間に気付きます。

一方、もっとおいしい料理を出せないものか、と経営者が本気で考えていて、食材のレベルアップと調理技術の向上に取り組んでいれば、これも従業員はすぐに感知します。質が下がった食材は粗略に扱いますが、質が向上した食材は大切に扱い、調理にも手を抜きません。食材ロスも少なくなり、自然に調理のレベルも上がっていくものなのです。

利益を追うと、利益は逃げていきます。価値を追うと、利益が向こうからやってきます。ほんのちょっとしたきっかけで、店は好転を始めるものなのです。その基本は、うちの料理はうまいぞ、価値があるぞ、と従業員が誇りを持つことです。また、うちの経営者はとにかく料理の質を上げることに熱心な人だ、と尊敬の念を抱いてくれることです。

もっとおいしく、もっと価値あるものを、という経営者の情熱が、従業員の意識をガラリと変えます。そして気がつくと、お客の数が増え、しっかり儲かる店に変わっているのです。

従業員が友達や家族に自慢したくなる店を目指しましょう。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。