2018/05/31 繁盛の黄金律

1つの赤字店が、どれほど恐ろしいか、肝に銘じておこう

1つの赤字店が、どれほど恐ろしいか、肝に銘じておこう -コツコツと店数を増やしている経営者の方も少なくないでしょう。今をときめく大チェーンも、1店ずつ出店していって、今日があるのです。

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Vol.81

1つの赤字店が、どれほど恐ろしいか、肝に銘じておこう

コツコツと店数を増やしている前向きな経営者の方も少なくないでしょう。今をときめく大チェーンも、初めはコツコツと1店ずつ出店していって、今日があるのです。この多店舗化でいちばんコワいのは、不採算店を持つことです。不採算店を1つ持つことがどれほど恐ろしいことか。未経験の経営者は十分に理解していません。

はっきり申し上げましょう。5店舗まで順調に店数を増やしてきたとします。その5店は、金額の差は多少あるものの、全部利益を出しているとします。順風満帆です。経営者は、自分の店のフォーマット力に自信を持ち始めます。これならば、100店舗とは言わないまでも、50店舗はいけるかもしれない。未来に一条の光が差し込んできました。そして6号店を出します。これが大失敗。日々これ赤字の連続です。しかし、これまでの5店舗は利益を出しているのだから、1店分くらいの赤字は吸収できるのではないのか、と安易に考えがちですが、とんでもない話です。

1つの赤字店を持ったことで、確実に他の5店舗分の利益が吹っ飛びます。そして不思議なことに、1つの赤字店が、既存の5店舗全体に影響を与え始めます。売上がジワリジワリと下がり始めるのです。そしてハッと気が付くと、6店舗中4店が赤字に転落、ということになっているのです。

1つの赤字店を生むことが、どれほど怖いことなのか。私はそれを訴えたいのですが、原因はただひとつ、自信過剰です。慢心です。オゴリです。それで自分が見えなくなってしまったのです。脇が甘くなってしまって、以前ならば「コレはやばいよな」というような立地(物件)に手を出したりしたのです。判断力が失われてしまったのです。問題は、赤字店を出してしまったときに、どう行動するか。ここです。この手の打ち方によって、息を吹き返すか、地獄に引きずり込まれるか、未来の道が分かれます。

あらかじめ撤退のガイドラインを定めておく

その前に、契約時の注意事項をひと言。ポイントは1点。それは「逃げやすくしておく」ことです。物件契約をするときは、どうしても手に入れたいという気持ちが強くなります。物件が金の卵に見えるのです。そのため、不利な条件をのんでしまいがちです。いちばんいけないのは、契約期間中の家賃の全額保証。例えば、5年契約をして、その5年間の家賃は撤退しようがしなかろうが、全額支払います、といった条件をのんでしまいがちですが、これは絶対やってはいけません。せいぜい撤退の翌月から3カ月分は支払います、くらいが、妥協の限界です。

また、店舗内装の原状回復義務をしばしば課せられますが、これも交渉のやり方次第で、厨房機器の撤去ぐらいで済まされることがあります。原状回復には、想像以上にお金がかかるものです。何はともあれ、撤退の条件というものを、あらかじめ自分のガイドラインとして持っておくことです。そして、どんなよさそうに見える物件であっても、己のガイドライン以上の条件には、手を出さないことです。潔く手を引くことです。

さて、撤退の方法ですが、大原則は1日でも早く撤退すること。このひと言に尽きます。グズグズと先延ばしにすることは、最悪手です。営業を続けていれば、だんだん客数が伸びて上向きになるのではないか、と経営者は考えがちですが、そんなことは100%ありません。立地のミスは、どんな経営努力をもってしても、あがなうことができません。

また、3年後に地下鉄が開通するので、近くに出入口ができるはず…そこまでがんばろうなどと思ったりしますが、これもダメです。未練以外の何ものでもありません。3年間赤字をタレ流して、生きていけると思いますか。その間に疲労困憊して、先述のように他の店もボロボロになってしまいます。

客観的に見れば、わかりそうなものですが、経営者本人はもうまともな判断ができなくなって、小さな可能性に身を託し、傷口をさらに広げ、それが会社全体の致命傷になってしまうのです。開店して1カ月も営業すれば、「これはダメだ」とすぐにわかります。1日も早く撤退することが最善策なのに、迅速な行動をとれる経営者は少ないのです。

先ほど、「未練」と言いましたが、様々な内容があります。

  • 物件取得にずいぶん苦労した。
  • (出店した)町に特別の思い入れがある。
  • 内装に大金をつぎ込んだ。
  • 料理長を引っ張ってくるのに、エネルギーを使った。
  • がんばっている従業員になかなか「閉店」と言いづらい。

こんなことが足かせになって、最悪の道をヒタ走ることになります。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。