2017/04/20 繁盛の法則

上質な肉料理で魅了する住宅街の“食堂酒場”とは

大人向けの店を目指す「食堂酒場 グラシア」(東京・浅草橋) に学ぶ-銘柄豚のリブロースを独特のタレに絡めて焼く「四日市トンテキ」など肉料理が売りで、平日は2.5回転、週末は3回転する人気店だ。

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食堂酒場 グラシア

Key Point

  1. 「四日市トンテキ」などの肉料理に注力
  2. 固定費を抑え、お値打ち商品を提供
  3. 予約不可、2時間制などへの理解を得る

東日本大震災後に閑静な住宅街に出店

夕方以降は人通りが少なくなる小学校の隣という立地で、「食堂酒場グラシア」は“大人がゆっくり食を楽しめる店”として認知度を上げている。

「おいしい肉料理を1人でも食べに行けるような店をつくりたかったのです」と話すのは、マスターの匠豊(たくみゆたか)氏。経営母体は、2010年4月設立の株式会社ベリージーインターナショナルで、代表取締役の妻鳥博江(めんどりひろえ)氏はグラフィックデザイナーであり、同店のマダムでもある。両氏は従来の仕事もしつつ経験を活かし、厳選した食材を仕入れて、ソースやタレもすべて手作りする飲食店の出店を新規事業として企画した。その際、こだわって作るメニューをできるだけ手ごろな価格で提供したいと、あえて繁華街を避け、家賃負担の少ない立地・物件を探した。

オープンは2011年7月6日。店舗規模は7坪10席。以前は予約が取れないほど繁盛していたフランス料理店が移転した跡地であり、前年の2010年11月に同物件を取得していた。ところが、開業準備中に東日本大震災が発生。様子を見ながらオープンを遅らせたが、震災後の混乱と不利な立地とが相まって、開業直後は閑古鳥が鳴く状態に。それでも、商品力と落ち着いた空間、温かい接客から、徐々にリピーターが増えていった。わずか10席という客席を有効に使うため、今では来店客全員に2時間制を承諾してもらい、基本的に予約は受けていない。夕方16時からの営業で、今では平日は2.5回転、週末は3回転するまでになっている。

唯一受けている予約は、テーブル席を3人もしくは4人で利用し、1人5000円のおまかせ料理(飲み物別)をオーダーする場合のみである。1度利用したグループからの評価は非常に高く、すぐに次回の予約が入るほどだ。

ほとんどの来店客がオーダーする看板メニューの「四日市トンテキ」(1,280円)。三重・四日市発祥の料理で、豚肉を独特のタレに絡めながら、フライパンでていねいに焼き上げる。豚肉は千葉産の銘柄豚「林SPF」のリブロースを使用

タレを絡めながら焼く「四日市トンテキ」が看板

力を入れている肉料理の中でも、三重・四日市出身の匠氏が、肉質にもタレにもこだわって焼く「四日市トンテキ」(1280円)が看板メニュー。千葉産の銘柄豚「林SPF」のリブロースを、独特のタレに絡めながらフライパンで焼き上げる料理で、豚肉の柔らかさ、脂身の甘さ、甘辛のタレと、ほんのりと香るニンニクの風味があいまって、やみつきになるような味わいを持つ。

牛肉も、A5ランクの宮崎牛サーロインなどの部位を1頭分丸ごと仕入れており、「サーロインの網焼き 230g」(3480円)、「サーロインローストビーフ」(3980円)など、肉好きの来店客が驚くほど、お値打ち感の高いメニューを提供している。

肉以外の人気料理である「具だくさんのオムレツ」(1380円)は、フランス産の黒トリュフ、信州産のキノコ3種、無農薬栽培のホウレンソウを加え、群馬・赤城山麓の平飼い鶏の有精卵3個を使って焼いたものだ。さらに、締めの一品として提供しているラーメンも好評で、例えば「〆の天草大王&さつま地鶏の醤油ラーメン」(980円)など、スープに合わせて麺、味付けを変えて仕上げている。ほか、三重産の的矢ガキ、長野産の野菜や果物、とりわけ春の山菜、秋のマツタケなど、生産者との信頼関係があってこそ手に入れられる旬の食材を使い、その日のおすすめメニューとして登場させている。

徐々に客数が増えてくると、10席という店舗で気持ちよく食事を楽しんでもらうため、少しずつ来店客側にも協力を求めるようになった。突然の予約キャンセルや、飲食よりも長時間のおしゃべりのために来店するような人も多かったため、予約は原則的に廃し、2時間制を導入。泥酔者およびサンダル履きでの入店、着帽のままの食事は遠慮してもらい、高校生以上の利用に限ることにした。その結果、30代以上の大人が食事を目当てに来店し、居合わせた人同士で和やかな会話や情報交換なども交わされるようになっている。客単価5000円、フードとドリンクの売上比7対3という数字からも、同店が目指す方向と、来店客の利用動機とが合致してきていることがうかがえる。

同店が不利な立地を克服し、食をしっかりと楽しみたいという層を中心にリピーターを増やしている要因は、以下のようになるだろう。

  1. 看板商品の「四日市トンテキ」など、独自の肉料理で魅了している。
  2. 固定費の負担が少ない立地・物件で、お値打ち感の高い商品を提供している。
  3. 予約不可、2時間制など、利用方法を承諾してもらっている。

「この店がもっと自分たちの理想に近づいてくれば、将来的に移転も考えています。海が見えて新鮮な魚介類が獲れ、後背に山があるような街で、ランチも営業しますが夜は会員制とし、現在の『グラシア』をよく理解してくれているお客様に来ていただきたい。鉄板や炭火調理も可能な、カウンターのみ10席ほどの店にしたいですね。また、根強い人気のある四日市トンテキの専門店も展開してみたいです」と、両氏は将来のビジョンを描いている。

食堂酒場 グラシア
住所

東京都台東区浅草橋2-27-5
TEL 03-3865-8966
営業時間
16:00~23:00(22:00ラスト入店、L.O. 22:20)
定休日
月、第1・3火