2020/03/06 繁盛の法則

水、地粉、技術にこだわる手打ちうどん店とは

地粉(国産小麦粉)のみを使って手打ちするうどん店「駕籠休み」。連日ウエイティングの列ができるほど好評で、遠方から訪れる人も。新規客には丁寧に対応し、雨の日のサービスなども行い、再来店につなげている。

URLコピー

駕籠(かご)休み

Key Point

  1. 素材と技術により独自のうどんを創出
  2. 新規客への丁寧な接客で再来店を促進
  3. 新商品、限定商品でリピーターを魅了

5年間の試行錯誤により他店にはないうどんを開発

 地粉(国産小麦粉)のみを使って手打ちする風味豊かなうどんを目当てに、さいたま市大宮区の「駕籠休み」の店前には連日ウエイティングの列ができる。週末ともなると、関東近県のみならず、遠方から訪れるお客も少なくない。営業は10時からうどんが売り切れる14時過ぎくらいまでの5時間弱、店舗規模は20坪36席、客単価900円でありながら、平均月商500万円を上げている。

 オープンは2008年7月で、店主の井島秋三氏は5年間にわたる試行錯誤の末、独自のうどんを生み出した。1949年秋田出身の井島氏は、高校卒業後に上京。最初の仕事はうまくいかなかったが、24歳で始めた卵の自動車販売で商才を発揮し、その後、埼玉県さいたま市に小型スーパーを出店して3店舗まで増やし、約25年間経営していた。しかし、1990年代から進んだ大規模小売店出店の規制緩和により、近隣に大型スーパーが次々と進出してくると、深刻な影響を受けるようになった。「これからは仕入れて売る小売りの時代ではない」と危機感を覚えた井島氏は、「作って売る」業種への転換を真剣に考えるようになった。飲食業、麺類、うどんと候補を絞っていき、各地のうどんを食べ歩いた。しかし、井島氏自身にとってしっくりくるようなうどんに出合えず、また、ここに来なければ食べられないうどんでなくてはならないと、独学でうどん打ちを修得しようと決意。毎朝2時に起きてうどんを打ち、そのうどんを知人に食べてもらって感想を聞き、ありとあらゆる失敗を重ねた。5年経ってようやく「この味ならいけるのではないか」と手応えを感じるようになり、満を持してうどん店への転換に踏み切った。

 小麦粉は価格が高く、うどんを打つ際に切れやすいため、技術が必要な地粉をあえて選んでいる。北海道産・北海地粉、岩手産・南部地粉、群馬産・上州地粉、埼玉産・武蔵野地粉、長野産・信州地粉の、無漂白で安心安全な地粉5種を仕入れ、ブレンドはせずに、産地ごとに異なる味わいを活かしながら、2週間サイクルで打ち分けている。

定番の人気商品「肉汁うどん並盛」(880円)の熱盛と、野菜天ぷらの「春菊」(130円)。麺の量は、小盛(茹で上がりで250~300g)、並盛(400g)、大盛(600g)、特盛(800g)から選べ、つけうどんは冷盛り、熱盛りを選択できる。通常のうどんのほか、そば粉をブレンドした「スーパー寿寿(ジュジュ)麺」、中華麺風の「豪麺(ゴーメン)」などの変わり麺も提供。麺に合わせてつゆやスープも変える

商品力と再来店を促進する工夫でリピーターを増やす

 うどん作りに欠かせない水にも最大限にこだわっている。水道水に含まれる塩素などの化学物質を避けるため、月に4~5回、埼玉・寄居町まで「全国名水百選」に選ばれている山の水を汲みに行く。水汲みの日は営業を休み、汲んできた水は、以前スーパーを営業していた作業場にある専用冷蔵庫で保存する。その水をさらに調整し、製麺用、出汁用、茹で湯用に使い分ける、出汁用の水は、カツオ節や昆布の旨味を十分に引き出すよう調整。製麺用の水はミネラル分を除去して軟水に変えて使っており、まろやかでつるつる感のある、のど越しのいいうどんにしている。

 うどん打ちはほとんどが手作業で、井島氏が昼過ぎに店舗から作業場に移動し、翌日分の仕込みを開始する。小麦粉に食塩水を加えて混ぜる水回しだけは、ミキサーを使って10㎏単位で行い、それを3等分して足踏みし、丸めて寝かせておく。翌朝3時に店舗に運び、さらに足踏みし、伸して、切る。製麺工程は、井島氏が独自に考案した伸しの方法により、1玉わずか4分半で仕上げてしまう。「麺を疲れさせない」ことが最大のポイントで、これにより、生き生きしたうどんに仕上がる。

 「当店のこだわりは、水、粉、技術。この3つがそろえば、他店とは歴然と違ううどんができあがる。そうすることで、1回食べたお客様にまた来てもらえるのです」と井島氏は語る。同時に、リピートを促進する工夫も怠らない。スタッフがオーダーを取りながら新規客とわかると、伝票に印をつけ、それを見て井島氏自らがあいさつに行き、水や地粉へのこだわりを説明する。食べ終わった頃にまた感想を聞きに行き、次回の来店時に使える100円引き券を手渡す。同様に、雨の日に来店してくれたお客にも100円引き券を渡し、晴れの日と遜色のない集客につなげている。加えて、給料日前に当たる毎月20日過ぎに、「100円引き祭り」を実施。「ただ指をくわえていても繁盛店にはならない。あの手この手を考えないと」と井島氏。さらに、新商品、期間限定商品、食数限定のお値打ち商品などを次々と打ち出し、リピーターを飽きさせない努力も惜しまない。

 同店が個性的な手打ちうどん店として売上を伸ばし続けている要因は、以下のようになるだろう。

  1. 「水、粉、技術」にこだわり、独自のうどんを作り出している。
  2. 新規客への丁寧な接客で再来店につなげている。
  3. 期間限定、数量限定商品により、リピーターを引き付けている。

 「たらいに張った水と同じですよ。自分が儲けよう、儲けようとしたら、水は向こう側に行ってしまう。お客様に儲けて(得させて)、儲けてとサービスすれば、最終的に水は自分の方に戻ってくるのです」と井島氏は話す。たゆみない努力と創意工夫が同店を支えている。

駕籠休み
住所
埼玉県さいたま市大宮区吉敷町2-108-12
TEL 048-644-1586
営業時間
営業時間/10:00~15:00(うどん売切れまで)
定休日
不定休(月に4~5回、水を汲みに行く日は休業)