費用と工期の圧縮が魅力。リスクがあることも念頭に
飲食店向けの賃貸物件で、近年、急速に増えているのが「居抜き物件」。「以前は、居抜き物件の流通はほとんどなく、形になってきたのはこの10年くらいです」と語るのは、株式会社テンポイノベーションの首藤雄大氏。「現在は、居抜き物件の認知が広がり、一般的な取引形態の1つになっています」と話す。
「居抜き物件」とは、内装や厨房・空調設備など、主に営業用設備の全部、または一部が残っている不動産物件のこと。本来、事業用の賃貸物件はスケルトン(備品・内装が何もない空間)の貸借が基本で、営業に必要な設費用と工期の圧縮が魅力リスクがあることも念頭に備はすべて借主の資産とされる。したがって、退去時はそれらすべてを撤去し、原状回復することが原則とされる。そのため、借主が「原状回復費用(撤去費用)を節約し、作り込んだ設備などの資産を含めて、次の借主に譲りたい」と考えるのは、自然な流れ。設備を新しい借主に譲渡することで、投資の一部を回収できることも、取り扱い件数が増えている理由の1つだ。
一方、新しい借主から見れば、一から店舗を作り込むよりも、開業時の初期投資を抑えられるのが魅力。「20坪の店舗の場合、スケルトンから店舗を作ると、一般的に1000万円前後かかりますが、居抜きなら費用をかなり抑えることができます。また、スケルトンでは、内装工事に1~2カ月かかりますが、居抜きなら工期を短縮でき、早期の開店が可能です」(首藤氏)。費用と時間の双方で、大きなメリットがあるといえるだろう。
しかし、デメリットもある。その1つが「店舗空間のレイアウトが、ある程度、決まっていること」と首藤氏。スケルトンから自由に作り上げる場合と比べると、内装デザインに制約があることは否めない。同時に、首藤氏は「内装や機器は中古であるため、リスクがあることを覚えておいてほしい」と指摘する。メンテナンスが必要になるケースもあり、その際には時間と費用がかかる可能性がある。前使用者がどんな使い方をしてきたかわからないため、見えない部分で予想以上に劣化していることもあるという。
もちろん、費用と時間をかければクリアできることも多い。だが、初期費用を抑えられるメリットが損なわれるようでは意味がない。メリットを活かせるよう、見極めが必要だ。
どんな店をやりたいかを明確にしてスペックを確認
さらに、首藤氏は「自分がどんな店、業態にしたいのかを明確にし、それが実現できるスペック(仕様)があるかどうかという視点が大切です」と強調する。例えば、立地と内装は気に入ったが、中国料理を作るにはガスの容量が足りないこともある。そもそも飲食店は、美容室などの他業種に比べ、ガス・電気・水道などのインフラはより大きな容量が必要。加えて、同じ飲食でも、カフェとレストランでは必要なインフラが違うので、やりたい店を明確にすることは、最重要事項の1つといえる。
また、「建築基準法や消防法などの法令も念頭に置くべき」と首藤氏。法令は現行法が適用されることが基本なので、前店がオープンしたときにクリアできていたことが、途中で法令が改定されたため、現在では許可が下りず、追加の工事や設備が求められることもある。例えば、2019年10月からすべての飲食店で消火器の設置が義務付けられるほか、30坪以上の物件で事業所から飲食店にする場合は、自治体へ用途変更の手続きが必要なことも。法令手続きにかかる費用と時間も見込んでおくことが大切だ。
では、次ページから具体的に居抜き物件のチェックポイントを見ていこう。