2021/07/20 特集

イチから始めるゴーストレストラン~飲食店のための導入ノウハウ~

近年、ゴーストレストランが急増中だ。コロナ禍によるデリバリーニーズの高まりを背景に、飲食企業以外からも参入が相次いでいる。そこで飲食店がチャレンジする際のポイントを紹介する。

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お話をうかがったのは・・・ 株式会社バーチャルレストラン 代表取締役 牧本 天増(てんぞう)氏
1997年、中国・北京生まれ。高校1年生の時に来日し、大学1年生の時に中国人留学生向けの進学塾やタピオカ店を立ち上げる。2020年には株式会社バーチャルレストランを設立し、他社と共同でデリバリー専門業態を28ブランド開発。都内7カ所にゴーストレストランの拠点を持ち、それぞれ約10ブランドのデリバリー業態を運営しつつ、全国300店舗以上の飲食店にFCでも展開している。
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ゴーストレストランとは?

実店舗を持たないデリバリー専門店。飲食店が取り組むケースも増加中!

 コロナ禍の影響によって、この1年で急激に増えている「ゴーストレストラン」。電話やインターネット、アプリなどから注文を受けるデリバリー専門の飲食店のことで、イートイン主体の実店舗が存在しないことから、“実体がない=ゴースト”が名前の由来。海外では「ダークストア」や「クラウドキッチン」と呼ばれることもある。ホールスタッフが不要な上に、キッチンスペースのみで運営でき、「路面」「空中階」といった出店場所による有利・不利もほとんどない。また、ファサードや内装にコストをかける必要がないこともあり、開業資金や家賃などの固定費や人件費を一般的な飲食店に比べて抑えることが可能。加えて、1つの店舗(拠点)で複数のブランドを運営できるのもメリットだ。

 「ゴーストレストランの増加は、近年のデリバリーニーズの高まりに起因しています。日本でもキャッシュレス化が徐々に進み、『Uber eats』などのデリバリーサービスが浸透したことで、以前より気軽に食事のデリバリーが使えるようになりました。そんな中でコロナ禍が発生したことで、その流れが一気に加速しました」と語るのは、株式会社バーチャルレストランの代表取締役社長・牧本天増氏。社名の「バーチャルレストラン」とは、イートインを主とする飲食店がサイドビジネスとして自店とは異なるブランドのデリバリー業態を出店するビジネスモデルのことで、“飲食店が手掛けるゴーストレストラン”といった位置付け。昨年6月に設立し、現在、バーチャルレストランのブランド28業態を直営・FC含めて300店舗展開している。牧本氏によれば、「自宅まで届けてくれる」という圧倒的な利便性と、メニュージャンルが増えたことによる“選ぶ楽しさ”が消費者を引き付け、デリバリー事業の隆盛につながっているという。

キャッシュレス化やデリバリーサービスの充実などもあり、ゴーストレストランが増加。多種多彩なジャンルの料理がデリバリーで楽しめるようになった。写真は、株式会社バーチャルレストランが運営する「サラダチキン研究所」

飲食店が参入するメリットは?

出店コストや時間がかからず、常連客へのアピールで相乗効果も

 では、飲食店がゴーストレストランを導入することにはどんなメリットがあるのだろうか。「飲食以外の企業がゴーストレストランを始める場合は、物件や人材など、準備すべきものがたくさんあります。しかし、飲食店であれば、すでにキッチン付きの店舗があり、食材の仕入れルート、料理人などはそろっているため、コストも時間もあまりかけずに出店が可能です」と牧本氏は語る。

 さらに、実店舗のファンや常連客に対してデリバリー専門の別業態を運営していることをアピールすれば、相乗的に利用を促せるのも強みだ。「ゴーストレストランという名前の印象から、『隠さなければいけない』『こっそりやったほうがいい』と考える経営者の方も少なくありません。『自店と異なるデリバリー業態を運営していることが実店舗のイメージを損なうかもしれない』といった考えで公にしないケースもありますが、私はむしろ相互でアピールをして、相乗的に集客や売上を伸ばす方がメリットは大きいと考えています」と牧本氏。その理由は、ゴーストレストランの多くが他社のデリバリーサービスを使って配達を外注するため、直接エンドユーザーとつながりにくく、どんな人が利用しているのか把握しづらという側面を持っているからだ。「飲食店であれば、実店舗に来店するお客様がデリバリーの顧客にもなりえるため、ターゲットとなる客層のニーズを店内営業を通して直接知ることもできます。情報収集や新規客獲得という意味でも、相互でのアピールは効果的です」と、牧本氏は語る。

 一方で、ゴーストレストランの導入に向いている店かどうかを判断するポイントもいくつかあるという。「1つは、デリバリーサービスを活用するという前提での話になりますが、“商品を取りに来た配達員さんに、どこで商品を渡すか”です。受け渡し場所が店内奥にある場合、配達員さんがイートインスペースに入ってくることになります。営業中に、大きなカバンを持ったラフな服装の人が頻繁に出入りすることになるため、特に高級店など空間や雰囲気を売りにしている店の場合は、お客様の満足度を下げる原因になりかねません。テイクアウト専用の窓口や店の裏口など、イートインスペースに立ち入らずに商品を渡せる構造になっている方がベターです」と語る。

 2つ目は、厨房の広さと設備。当然、広くて設備が充実している店の方が、業態やメニューの選択肢は増える。逆に設備が限られていると、例えば「フライヤーがないので揚げ物はできない」といった制約が生まれてしまう。

 3つ目は、デリバリーサービスの対象エリアであることだ。「サイドビジネスとしてデリバリーでしっかり収益を上げるためには、ニーズの高いエリアで行うべきで、ニーズの高いエリア=デリバリーサービスの対象エリアといえます。こういったサービスの手数料は決して安くはありませんが、多くの消費者がこれらのサービスのアプリを使って店を探すので、利用率や認知度を高めるためにも利用することをお勧めします」と牧本氏は語る。これに加えて、コロナ禍で生活様式が変わったこともあり、住宅地に近いエリアの方がゴーストレストランを含めたデリバリーに向いているという。

 とはいえ、「こういう店だから、絶対にゴーストレストランはできない」ということはない。「エリアの特徴や客層に合わせて、厨房機器など手持ちの武器でできる業態やメニューを選ぶことが重要です」と、牧本氏は語る。

どんな準備をすればいい?

周辺エリアと競合の分析を基に“勝てるメニュー”を見つけ出す!

 ゴーストレストランを始めるにあたって、どんな準備が必要なのだろうか。自社で業態開発するにしろ、FCのブランドを運営するにしろ、まず決めなければいけないのが、「どんなメニューを売るか」だ。ただ、競合の数や周辺エリアに住む(もしくは勤める)人の層などによって戦略は大きく変わる。まずは、「『Uber eats』などを検索して、周辺エリアでどんなデリバリー業態が多いのかをチェックするのが第一歩」と牧本氏は語る。「唐揚げ」「丼もの」「スイーツ」など、さまざまなジャンルがあるので、周辺にある店舗のジャンルを100店舗分くらい書き出し、競合の数から競争率の高くないメニューを分析するとよい。

 次に、ターゲットの見極めも重要なので、周辺にどんな人が住んでいるかを調べるのもポイント。自店を中心に半径2km圏内くらいについて、各自治体が公開しているデータなどを参考に細かく調べると見えてくるものがあると牧本氏は語る。「デリバリーを多く使う世代のコアゾーンは、20~49歳なので、この年代の人が多く住んでいるエリアであれば、ニーズは特に高いです。また、1人世帯の数もチェックポイント。1人暮らしの学生が多いエリアは、味が濃いものや丼ものの人気が高くなる傾向があります。逆に1人世帯数が少なく、ファミリーが多いと、子どもが好きなものやヘルシーなメニューへのニーズが高まります。そのほか、人口に対する飲食店の事業所数の割合も、競合店との競争率を図る指数になります」(牧本氏)。ただ、こうした情報を細かく正確に調べるのは簡単ではない。飲食店の場合、近隣に住んでいる人や勤め人などと店内営業で接する機会があるため、来店客との会話から情報収集を行えば、エリアの特徴が把握でき、メニューを決める参考にもなるだろう。

 合わせて、メニューを決めるときに重要なのが、調理時間だ。「デリバリーのユーザーは、①何を食べたいか、②配達時間は何分か、という順番で店を絞り込んでいく傾向が強いです。その際、注文から届くまで30分以上かかると選ばれる確率はかなり下がってしまうので、30分から配達時間を差し引いて、調理は10分以内に終わらせるのがベター」と牧本氏。株式会社バーチャルレストランで展開しているブランドでは、仕込みでほとんどの調理を行っておくことで、注文から5分以内に調理が完了するようにメニューを開発しているという。メニューを開発するうえで、いかに調理オペレーションを簡略化できるかは成功のカギといえる。

 その他のテクニックとして、店内営業が忙しくなる時間帯にデリバリーの注文が殺到するのを防ぐため、カフェタイムにニーズが高まる軽食系のメニューをデリバリーの主力商品にすることで、アイドルタイムに多く注文が入るようにする方法もある。また、「普段仕入れているこだわりの食材や、料理人のアイデアを生かした独自のメニューで差別化することもポイント」と牧本氏は語る。

 ただ、いずれにしても気を付けなくてはいけないのは、店内営業とは異なり、“できたてでないとおいしくない”メニューは避けるべきだということ。利用客が食べるのは調理から20~30分後。時間が経つと伸びてしまう麺類など、商品価値が著しく下がってしまうメニューは相当な工夫が必要だろう。また、価格については、メニュージャンルを見極める方法と同様に、ターゲットとなる客層や競合を分析して決定したい。「周辺エリアの競合の価格帯をチェックし、その価格の-100円~+100円の範囲を目安に考えるとよいでしょう」と牧本氏は語る。

店内営業のピーク時にデリバリーの注文が殺到してしまうと、一気にオペレーションに負荷がかかる。アイドルタイムに注文されるような軽食系のメニューをデリバリーの主力にするのも飲食店が運営する上でのテクニックの一つ。写真は「Crazy Waffle」(株式会社バーチャルレストラン)

 そのほか、包材の選定も重要な要素。「崩れない」「漏れない」はもちろん、素材やパッケージのビジュアル、取り出しやすさもポイント。「せっかくメニューは作り込んであるのに、パッケージや盛り付けなどが雑で、“片手間感”が出てしまうと台無し。飲食店にとってはサイドビジネスのゴーストレストランでも、消費者からすると“デリバリー専門店から購入した”という期待値があります。盛り付けで手を抜いていたり、コストを優先するあまり包材が安っぽいと満足度が下がってしまい、2度と注文してくれない可能性もあります」と牧本氏は指摘する。

 加えて、法的なところで気を付けなくてはいけないのが、営業許可。アルコールなどを販売する場合は、店内営業とは別に販売許可を取らなくてはいけないものもあるため、必ずチェックしておきたい。これからの季節は、感染予防を含めた衛生管理を徹底し、食中毒などにも気を配るのはもちろん、自店が入っている保険の内容もチェックしてほしいと牧本氏は語る。「保険の内容によっては、店内営業で発生した食中毒などの事案は対象になっていても、屋号が異なる別ブランドのデリバリーは補償の対象にならないケースもあります。万が一に備えて保険の内容を見直しておいたほうがよいです」(牧本氏)。

FCブランド導入のメリットは?

業態変更しやすいゴーストレストランは、FC導入の方がメリットは多い

 前項で触れた準備は、自店で業態開発をする場合を想定したものだが、「全くノウハウがないのであれば、既存のFCブランドを導入する方がはるかに楽ですし、メリットも多い」と牧本氏。出店までのスピードもぐっと上がり、ノウハウや包材、盛り付けといった部分もマニュアルで確立されている。さらに、「FCの契約内容によりますが、ゴーストレストランのデリバリーメニューを自店の店内メニューに組み込むことができるケースもあります。テイクアウトでも販売できるメニューもありますので、さらなる売上アップにもつなげられるはず」(牧本氏)。

 もちろん、「人気のFCブランドであれば何でもいい」というわけではない。前述したように、エリアや客層の分析を行い、自店の厨房設備などを踏まえて導入するブランドを決めることが求められる。とはいえ、いくら分析しても成功するかどうかはやってみないとわからない。予想以上に売上が立つ場合もあれば、その逆も少なくない。ただ、ゴーストレストランの場合、実店舗に比べて業態変更のハードルが低いのも特徴。「しばらくやってみて、結果があまり思わしくなければ別の業態に切り替えるなど、トライ&エラーを繰り返すうちにニーズに合致したものが見つかるかもしれません」と牧本氏。FCを活用してノウハウを学びながら、自社でも独自のゴーストレストランの業態を開発するということも考えるとよいだろう。

運営しながら気を付けるべきことは?

ユーザーのレビューのチェックと、配達員との関係性が重要

 準備が整い、営業を開始した後は何に気を付ければいいのだろうか。「まずは、アプリ上のレビュー(評価コメント)をこまめにチェックすべき」と牧本氏。「『Uber eats』などを活用していると、お客様と直接接する機会がないため、問題点や改善点の洗い出しが難しいので、レビューは貴重な情報源になります。レビューを書いてくれた人にクーポンを付与するなど、特典を付けてレビューを促すのも一案でしょう」(牧本氏)。特に、クレームになりやすいのが、配達時に商品が崩れたり、こぼれたりしてしまっているケースだ。盛り付けが雑な場合も評価が下がる原因になりかねないので、包材や盛り付け方に問題がないか、レビューを参考にしつつ、ブラッシュアップしていくことが求められる。

 また、認知度アップのためにSNSも有効活用したい。特にInstagramとUber eatsは連携させて簡単に注文できるように設定できるので、訴求力が高いだけでなく、注文率アップも期待できる。複数ブランドを運営する場合も、必ずそれぞれのブランドごとにInstagramのアカウントを作って、こまめに情報発信することが認知拡大のポイントになるという。加えて、先述したとおり、飲食店はイートインの客にアピールできるというメリットがある。デリバリーだけでは顧客情報を入手しにくいが、デリバリー商品に自店のチラシなどを同梱して来店につなげたり、逆に来店客にゴーストレストランの存在をアピールしておくことで認知度を高め、利用率を高めることも可能だ。

 さらに、飲食店が見落としがちなポイントとして牧本氏が指摘するのが「配達員との関係」だ。「飲食店の方は、普段お客様を目の前にして営業をしているので、デリバリーにおいてもエンドユーザーの満足度には敏感です。ただ、デリバリー事業を成功させるために目を向けないければいけないのが配達員さんの存在。このビジネスモデルが成立しているのは彼らがいるから」と牧本氏は断言する。配達員を平気で待たせてしまったり、横柄な態度を取っていると関係性は当然悪くなる。「配達員さんに嫌われたら終わりだと思ったほうがいいです。そのエリアで配達員をやっている方はだいたい顔ぶれが一緒なので、その人に『この店のオーダーは受けたくない』と思われてしまったら、配達の遅延にもつながってしまいます。逆に良好な関係性が築ければ、何かあったときにわざわざ戻ってきて、『少しこぼれてしまったので新しいものに変えたほうがいいかもしれません』などと、商品の中身にまで気を遣ってくれるようになったりもします」と牧本氏は語る。

 道が悪い場合もある中、スピードや丁寧な配達が求められる配達員の仕事の大変さを理解し、寄りそうことが大切。それが回り回って顧客満足にもつながる。また、配達員との会話から「ユーザーはどんな人が多いか」「どういうメニューが多く注文されているか」など、周辺エリアについて有益な情報を得られることもあるため、配達員との関係性は成功の大きなカギを握っているといえる。

「デリバリーサービスの配達員との関係性」は、ゴーストレストランを運営する上で軽視できないポイント。「2週間くらい、実際に自分で配達員をやってみると、仕事内容が理解できたり、周辺エリアの情報を収集することもできます」(牧本氏)

 いずれにしても、飲食店が肝に銘じて置くべきことは、“ゴーストレストランは、店内営業とは全く異なるビジネスモデルである”ということ。牧本氏も、「店内営業と同じ感覚で安易に手を出しても成功しません」と釘を刺す。「ゴーストレストランは手軽に出店できるので、店内メニューを特にアレンジせず、そのままデリバリー専門店として販売しているケースも見受けられます。しかし、しっかりデリバリー用に開発された商品は、時間が経ってもおいしく食べられるようにさまざまな工夫がなされているもの。利用客にはそういった商品と比べられることになるので、安易な商品化はかえって店の評判を落とすことになりかねません」と指摘。「手軽に出店できる」というゴーストレストランのメリットをはき違えて、手を抜いて出店してしまうと、あっさりとメッキがはがされて競争に敗れてしまう。一方で、時代のニーズにも合っており、新たな売上を生み出す可能性も大きい。ゴーストレストランを手掛ける場合は、これまで上げたポイントを参考に、しっかりとした準備と効果的な運営を実現していただきたい。

>>INFORMATION
ぐるなびがゴーストキッチン(ゴーストレストラン)の実証実験をスタート

株式会社ぐるなびは、不動産事業者と連携し、テイクアウト・デリバリーなど飲食店の収益源の多角化支援を目的に、ゴーストキッチンの実証実験を2021年5月19日(水)より開始。提供メニューの選定や開発をはじめ、人材・食材・調理器具などの調達といった開店準備や運営実務まで、ゴーストキッチンを自社で運営。売上額や販売個数、経費などのデータを分析し、そこから得た知見をテイクアウトやデリバリーの導入を検討している飲食店へのコンサルティングに活用していきます。
▼プレスリリース
https://corporate.gnavi.co.jp/release/2021/20210519-019430.html