2011/09/27 挑戦者たち

株式会社 ワールド・ワン 河野圭一氏

「生産者とお客様を繋ぐ」使命感が支える多店舗経営。2002年2月、神戸・三宮に当時としては珍しい沖縄ダイニングをオープンさせた株式会社 ワールド・ワン代表取締役の河野圭一氏。現在に到るまで、その数実に11店舗。

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「生産者とお客様を繋ぐ」使命感が支える多店舗経営

2002年2月、神戸・三宮に当時としては珍しい沖縄ダイニングをオープンさせた株式会社 ワールド・ワン代表取締役の河野圭一氏。現在に到るまで、その数実に11店舗。その考えの根底には、挫折を経たからこそ得ることのできた哲学があった。生産地と密接な連携を図り、理想を追い求める河野氏に、飲食店が果たすべき役割とは何かを聞いた。

河野 圭一 氏「沖縄料理とあぐー豚しゃぶしゃぶ食べ放題卑弥呼」にて

――まずは、飲食に携わることになった経緯を教えて下さい。

10年前に一号店「金魚 本店」をオープンするまでの道は、決して平坦ではなかったですね。高校を出て最初に就いたのは自動車の整備工の仕事でした。そこでの仕事は1年と続かなかったのですが、その後始めたカラオケバーでのアルバイトは、負けず嫌いな自分の性格と合っていたのか、店を任されるようになり、5店舗、6店舗とお店を拡大できました。それから資金を貯め、24歳の頃には創作料理を提供するダイニングバーを始めたのですが、そのとき成功と失敗、大きな挫折を味わうことになったのです。

店をオープンした当時は創作料理ブームの最中。確かな経営知識もなく始めたにも関わらず、予約なしでは入れないほどの人気店になったので、これこそ自分の天職だと思うようになりました。ですがそれからわずか半年後、潮が引くように客足が途絶えていきました。何とか挽回しなければと試行錯誤を繰り返しても、やることなすことすべて裏目に出てしまう。そのうち資金も底をつき、どうやって家賃や従業員の給料を払おうかという現実的な問題に直面してしまいました。そうなると、お客様を喜ばせるためのサービスなんて考えられなくなってしまうんですね。結局お店を閉め、そこから友人の勧めでプロレスラーとしての道へ進むんです。

――それからまた、沖縄料理店を始めることになったのには、何かきっかけがあったのですか。

プロレスの世界で過ごした5年間は、巡業で全国を回る日々でした。各地に滞在し、土地それぞれに異なる多様な食文化に触れるうちに、郷土料理が持つ素晴らしさを伝えたいという想いが高まっていきました。なかでも、自分自身が大好きだった沖縄料理を提供するお店を開きたいと思うようになったのです。

今でこそ沖縄料理は珍しいものではありませんが、10年前はまだ、いわゆる沖縄ブームが来る前のこと。沖縄料理を出すお店も、三宮にはほとんどありませんでした。沖縄料理といえば、ゴーヤチャンプルーや沖縄そばくらいしか知られていなかったし、しかもあまりいいイメージを持たれていなかったように記憶しています。というのも、とにかくお店で出される料理の値段が高かった。当時の沖縄には県外に食材などを出荷する仕組みがまだなかったので、仕入れのための手段は、市場の人たちと交渉するような個別配送がメインでした。しかしそれでは流通コストがかさみ、商品単価も上げざるを得ない状況だったのです。お店を展開していくうえで考えたのは、流通の組み立ての必要性でした。食材を仕入れて流通事業を担う関連会社も起ち上げ、生産地からお客様のもとに届けるまでを直接結ぶ仕組みを作り上げました。

「金魚 本店」をオープンしてからも、生産者とより密接な関係を築くことを続けてきました。商品開発にも取り組み、地元沖縄の生産者の方々とともに、現在、「琉球島和牛」というブランド牛を育てています。

――流通の確立だけでなく、食材の開発にも関わるようになったのはなぜでしょうか。

戦略というよりも、自分自身の価値観に寄るところが大きいですね。提供する料理の食材を追究していくことが、お客様の満足に繋がると考えたのです。また、生産地を訪れる度に感じていた、生産現場を取り巻く状況に対する疑問もありました。

沖縄を舞台にしたドラマや、世間の健康志向が高まった影響で沖縄ブームが起こったのは、一号店のオープンから数カ月後のことでした。沖縄料理が大流行し、東京都内でも沖縄料理店は倍以上に増えたと聞いています。しかし、現地産の食材の供給量には限界があるので、提供価格が暴騰するのは当然のこと。ただ、ブームがひと段落すると、一度は高騰した価格も暴落していきました。農地や設備を拡大し、生産体制を整えていた現地の農家や加工業者の多くは倒産に追い込まれ、結果、生産者も減少するという過酷な現実が待っていたのです。

沖縄にはすでに石垣牛というブランド牛があって、県外への出荷も盛んでした。しかし、ブームの影響で需給と供給のバランスがおかしくなってしまったため、価格だけが高騰し、明らかに品質が落ちてしまった。ブランドの確立もままならないうちに展開してしまったため、粗悪な商品も出回るようになったのです。これではいけないと思っていたときに、沖縄の農業高校の人たちとの出会いがありました。そこで学ぶ学生や先生たちはブームに振り回された県内農業の将来を憂いていながらも、情熱を捨てずにいる。そこで、安定的に出荷できるだけの価値のある牛を育て、継続性のあるブランドを確立しようと、皆で一致団結して動き出しました。育成のノウハウは学校の先生が持っていました。肉牛そのものが持っている品質は決して悪くない。肉質をさらに改善し、しっかりしたブランド化を進めれば、生産者にとって明るい状況が創り出せるはずだと思ったのです。

僕たち飲食業に携わる人間は、生産者や流通・加工業者と三位一体となって、最終的な消費者であるお客様に向き合っていかなければならないと思っています。現地を訪れて想いを語り合うにつれ、賛同してくれる方も増えていきました。

――生産地との繋がりとともに、飲食店を展開するうえでの理念はどうお考えですか。

一時は諦めた飲食業に再び挑戦すると決めたとき、まずは不足していた知識を補うことから始めました。あらゆる飲食店関連の業界紙を、文字通り隅から隅まで読みましたね。そして、かつて経験した失敗を二度と繰り返さないためには、経営理念と使命感を持ってやらなければならないのだと覚悟を決めたのです。

プロレスラー時代の現場には、それぞれがそれぞれの役割を果たし、ひとつのイベントを成功させようという一体感がありました。飲食店も一緒で、例えば皿洗いには皿洗いが果たすべき使命があって、与えられた仕事によって優劣がつけられるものではないと思います。重要なのは、お客様に喜んでもらうという共通の目的に向かって、皆がひとつになって臨むこと。自分は何のためにその仕事をしているのかという使命感こそが、飲食店経営にとって一番大切な「根っこ」だと思います。そして確かなサービスを提供し、お客様に満足していただくためには、お客様と店との距離はできるだけ近くあるべきだと思っています。

――現在11店舗を三宮に構えています。今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか。

一号店オープンの際に決めたことのひとつが、生産者と密接な関係を築き、力を合わせるということでした。三宮の地に腰を据えていこうという想いは、そのときの想いと共通しているのかもしれませんね。生産者と直接やり取りをしてきたように、お客様と従業員とがお互いに顔の見える場所を作ることを意識しています。ですから、他の地域に進出することは考えていません。

もちろん、ひとつの地域で複数の店舗を経営することのメリットは他にもあります。例えば、仕入れた食材の加工から各店舗までの流通を、低コストで行なうことができるようになったのもそのひとつ。私達のサービス改善がお客様に還元できる環境である以上、この地にしっかり根を張ってやるべきことは、まだまだあると考えています。

沖縄料理とあぐー豚 しゃぶしゃぶ食べ放題 卑弥呼(神戸・三宮)http://r.gnavi.co.jp/k678702/幻の黒豚「あぐー豚」をメインとするヘルシーな料理は、女性の支持も高い。同じ沖縄料理店であっても店舗ごとに趣を変え、多様な展開を実現している
脂屋 肉八(神戸・三宮)http://r.gnavi.co.jp/k678709/開発から携わった沖縄産の黒毛和牛「琉球島和牛」をはじめ、肉を使った料理にこだわった居酒屋。料理の値段設定は98円からと低価格で満足できる店を目指し、特に若年の男性ビジネスマンをターゲットにした、明確な店舗設計がされている。2010年に開店した、同社のもっとも新しい店舗でもある。
炭旬鮮市場 からす(神戸・三宮)http://r.gnavi.co.jp/k678703/2003年に開店した同社の3号店は、150席の大規模店舗。魚市場から直送された魚介類をはじめとする新鮮な食材を、炭火焼きで味わえる。まるで温泉旅館を思わせる店内は、沖縄料理だけでなく全国各地の郷土料理のバリエーションの豊富さに感銘を受けたという河野氏の想いが伝わるような空間だ。

Profile

かわの けいいち

1971年

兵庫県生まれ
高校を卒業後、カラオケバーでのアルバイトを経験

1996年

株式会社 ワールド・ワンを設立
大阪・ミナミでダイニングバーを開店するも、閉店。その後5年間のプロレスラー生活を送る

2002年

1号店となる「金魚 本店」をオープン。その後、ほぼ1年に1軒のペースで新店舗を出店

Company Data

会 社 名

株式会社 ワールド・ワン

所 在 地

兵庫県神戸市中央区
中山手通2-3-18-202

店 舗 名

「modern食堂 金魚 本店」
「炭旬鮮市場 からす」
「沖縄市場食堂 琉金」
「郷土大衆居酒屋 金八」「脂屋 肉八」ほか

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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