2015/05/20 挑戦者たち

株式会社ティクリエ 代表 仲道 敏夫 氏

昨夏、ガレットを500円で楽しめる店をオープン。これまでも牡蠣やシャルキュトリーなどこだわりを持つ2業態5店舗を運営してきた。「あくまで人ありきの店舗展開」とする仲道氏の想いとビジョンに迫った。

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おいしい料理を気軽に食べてもらいたい。想いを共有する人たちと店舗展開を進める

昨夏、本格ガレットを500円で楽しめる「ヴァンテオ ガレットスタンド」を東京・恵比寿に開店し、話題となった株式会社ティクリエ。これまでも牡蠣やシャルキュトリー、パテやおつまみガレットなど、こだわりを持つ2業態5店舗を順調に運営してきた。「拡大路線ではなく、あくまで人ありきの店舗展開」をポリシーとする代表取締役・仲道敏夫氏の想いとビジョンに迫った。

――最初に、飲食業界に入ったきっかけについて教えてください。

小さい頃から釣りが好きで、釣った魚を自己流でさばき、調理をしていました。中学生のときにはすでに友達に「フレンチの料理人になる」と言っていましたね。その後、大学に入って東京・目白の「ビストロのみの市」でアルバイトを始めたのですが、そこのオーナーがフレンチの老舗「シェ・イノ」のシェフと親しかったことがきっかけで、約2年間、「シェ・イノ」でフランス料理を学ぶ機会を得ました。これが本格的に飲食業界へ入るきっかけです。

大学を卒業すると、赤坂にある「ビストロボンファム」に入社。約1年半修行した後、表参道のレストラン「アン・カフェ」で勤めました。

――独立までの経緯と、1号店でビストロを出店した理由は?

「アン・カフェ」を経て、学生時代にアルバイトをしていた「ビストロのみの市」に戻って働きました。ここでは調理からマネジメントまでほぼすべてを任され、のちに自分の店を出すための基盤を作れたと思っています。4年ほど経った頃、独立を考えましたが、目白の店の近くに出店するのは失礼だと思いつつ、僕に付いてくれているお客様にも来てほしいと思い、同じ山手線沿線の渋谷に決めました。でも、「どこの馬の骨ともわからない」と思われていたのか、なかなか不動産屋や物件のオーナーから相手にしてもらえなかった。結果、渋谷駅から少し離れた宇田川町で、ビルのオーナーが快く貸してくれた物件でスタートしました。

当時はまだ、カジュアルな雰囲気を出したいフレンチレストランが、「ビストロ」を名乗ることが多かった時代。そこで、2人で楽しんでも1万円を切るぐらいの価格設定にして、とにかく「気軽に楽しめるビストロ」というコンセプトで、2005年に「ビストロ・ヴァンテオ」をオープンしました。

1975年、静岡生まれ。高校時代にフレンチの料理人になることを決意し、大学では「将来、役に立つかも」とフランス語を専攻。有名フレンチレストランなどで腕を磨いた後、2005年に「ビストロ・ヴァンテオ」をオープン。以来、都内に着実に店舗を増やしている。

――その後の店舗展開のなかで、重視してきたポイントは何ですか?

1号店をオープンしてから4年後の2009年、ずっと一緒に頑張ってくれていたシェフに「自分の店を持たせたい」と、中目黒に「2ヴァンテオ」を出店しました。2店目以降の展開で決めていたことは、「売りをしっかり作る」こと。「2ヴァンテオ」の売りは新鮮な牡蠣で、店に入るとショーケースに数種類の牡蠣が並び、「まず、これを食べてください!」という明確なメッセージを打ち出しました。

そして、3店舗目は2011年、新橋に出店。私自身、それまで新橋には縁がなかったのですが、あるとき、お客様に連れていってもらい、「本当にこんなにサラリーマンがいるんだ!」と衝撃を受けたのです。また、飲食店の数は多いけれど、当時は手頃な価格で楽しめるバル業態があまりありませんでした。そこで、シャルキュトリー(肉を使った惣菜)とワインの店「3ヴァンテオ」をオープン。コンセプトは「フレンチのバル」で、売りのメニューはパテやシャルキュトリーです。この店は雑誌などでも取り上げられ、新橋というエリアの注目度の高さと、可能性を感じました。そのため、4店舗目も同じく新橋に「4ヴァンテオ」をオープン。「おつまみガレットとシードル」を店の売りにしました。以前から興味はあったものの、価格が高いイメージを持っていたガレットを、すべてワンコイン(500円)で提供するということにチャレンジしました。最近では、スタッフから「ガレットにハマっている常連のおじさんがいる」などと話を聞くと、新橋に新たな食文化を持ち込めたのかなと、うれしくなりますね。

――その成功が昨年、恵比寿に出店した5店舗目につながるのですね。

ガレットを焼いている姿をお客様に見てもらいながら、テイクアウト販売もやってみたいという思いから、「ヴァンテオ ガレットスタンド」を出しました。恵比寿を選んだのは、すでにガレットを食べたことがあるような、感度の高い人が多くいる場所で、ガレット=高価と思っている人たちの予想を裏切り、「ワンコインで食べられる!」と打ち出せば、絶対に喜んでもらえると思ったから。この店のガレットは、厳選された信州産の玄そば粉を使っています。たまたまスタッフの親戚に長野県でそばをつくっている方がいて、実際に足を運んで仕入れルートを確立することができました。もう1つやりたかったのは、そばの実をそのまま取り寄せ、店内でそば粉を挽き、風味が損なわれないうちにガレットを焼いて提供すること。そのため、オーストリア製の粉挽き機を導入。多くの話題性を盛り込んだこの店は当初から注目を集めていて、好調です。

――今後、さらなる店舗展開は? また、人材育成の考え方は?

会社として、特に拡大路線を進むつもりはありません。2号店以降の店長は全員、私と一緒に1号店で仕事をしたことがあるスタッフたちで、これまでも彼らが「自分で店を経営したい」と考えるタイミングで新店を作っていったら、結果的に5店舗になっていたという感じ。今後も店を増やしたい思いはありますが、「きちんと作ったおいしい料理を気軽に食べてもらいたい」という想いが強く、それを本当に理解していない人間に店を任せるということは考えられない。あくまで、人ありきでの新規出店を考えています。

1号店は現在、セントラルキッチンとしての機能も持ち、パテなど作り込みができる料理を全店分ここで作り、夕方までに各店へ届けるシステムを構築しています。さらに、料理の一部は他社の店にも卸しています。そのため、一般的な飲食店より仕込みの量、仕事量が多く、若いスタッフの訓練の場としても最適です。短期間で実力がつくので、早めの独立にもつながります。もちろん、新規店舗展開や独立支援は積極的にサポートしていきます。スタッフに常々言っているのは、今、飲食店の多くは店側から発信して集客につなげているが、本来、店に足を運んでくれたお客様に、この店に来てよかったと思ってもらえるかが、もっとも重要だということ。思ったようにお客様が来てくれないことに悩むこともありますが、悩む時間があるなら、1組でも、来てくれたお客様に対して全力で接してほしいと伝えています。

素材、価格、スタイルが注目される「ヴァンテオ ガレットスタンド」。信州産のそば粉を使った多種のガレットが大人気だ

――会社としてのこれからの戦略は、どのように描いていますか?

おもしろさを感じているのは海外、特にアジアやニューヨークへの進出です。ガレットなど、当社のスタイルのまま行ければと思っていたのですが、海外に目を向けると、どうしても「日本」というイメージが必要になってくる。ですから、次の目標を達成するために、現在の自分たちが持っていない“和”というキーワードを取り入れた新しい店を作ろうと、社内で話し合っているところです。その取り入れ方を熟考したうえで、海外進出へ踏み出していきたいと考えています。

2ヴァンテオ(東京・中目黒)
http://r.gnavi.co.jp/a591501/
新鮮な牡蠣にこだわるイタリアンバル。牡蠣は多数の産地から取り寄せ、常に8~10種類をそろえている。1号店から届くフレンチメニューも人気。
4ヴァンテオ(東京・新橋)
http://r.gnavi.co.jp/a591503/
テーマは「フレンチを気軽に」で、ワンコインでおつまみとワインを楽しめるビストロ。素材にこだわったガレットやシードルのファンが多い。

Company Data

会社名
株式会社ティクリエ

所在地
東京都豊島区上池袋2-31-8

Company History

2005年 「ビストロ・ヴァンテオ」を渋谷にオープン
2009年 「2ヴァンテオ」を中目黒にオープン
2011年 「3ヴァンテオ」を新橋にオープン
2013年 「4ヴァンテオ」を新橋にオープン
2014年 「ヴァンテオ ガレットスタンド」を恵比寿にオープン。現在、2業態5店舗を展開

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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