2011/11/29 挑戦者たち

株式会社かばはうす 松田幸紀氏

山陰の食をもっと多くの人へ 地元への愛にもとづく店作り。「山陰をこよなく愛する店」というキャッチフレーズのもと、島根・鳥取エリアで居酒屋「炉端かば」を展開する株式会社かばはうす。境港から毎日直送される新鮮な魚介類と郷土料理を売りに、2006年には山陰から東京へ進出。

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山陰の食をもっと多くの人へ 地元への愛にもとづく店作り

「山陰をこよなく愛する店」というキャッチフレーズのもと、島根・鳥取エリアで居酒屋「炉端かば」を展開する株式会社かばはうす。境港から毎日直送される新鮮な魚介類と郷土料理を売りに、2006年には山陰から東京へ進出。着実にファンを広げている。地域の魅力をとことん引き出したからこその、普遍的な集客力。その根底にあるのは、代表取締役・松田幸紀氏の深い"山陰愛"だった。

松田 幸紀 氏「炉端かば安来駅前本店」にて

――山陰に7店舗、東京に7店舗を展開中ですね。飲食業界に入ろうと思ったきっかけは?

もともと祖父が和菓子屋を営んでいました。父の代からは洋菓子も作るようになっていて、自分もその店を継ぐものだと、子供の頃からごく自然に思っていたのです。それで高校卒業後はすぐ、京都にある調理学校の製菓衛生士科に進みました。卒業後はそのまま、老舗の洋菓子店に就職。修業は大変でしたが、小・中・高と野球一筋だったので体力には自信がありました。何よりお客様に喜んでもらえるのが嬉しかった。今振り返ると、すごくいい勉強をさせてもらったと思います。

ところが2年ほど働いて、そろそろ実家に戻ろうかと考えていた矢先に、事情があって家業を畳むことになったのです。自分にとっては誤算というか、人生設計がガラガラッと崩れてしまって。ちょっと茫然としていた時に、母が「じゃあ、私が経営している居酒屋を手伝ってみる?」と助け船を出してくれました。島根県の安来駅前にある小さな炉端焼き店で、名前は「かばちゃん」。それが1996年。とりあえずそのお店を手伝い始めたのが、この世界に入ったきっかけです。

ちなみに「かばちゃん」という店名はその頃、店の大将をしていた方のニックネーム。当社のイメージキャラクターになっているイラストも当時からありました。その大将は今では本職の電器屋さんに戻られていますが、愛着もあって「かば」とキャラクターはずっと使わせてもらっています。

――安来の小さな店から始め、やがて山陰全域に店舗が広がります。転機はいつ頃ですか?

皿洗いから始めてどうにか仕事を覚えた頃、お隣の米子市(鳥取県)に、もう1店舗出すことになりました。人口4万人の安来市で育った僕から見ると、15万人の米子というのは大都会です。プレッシャーもあったし、どうすればお客様に来ていただけるのか、仲間と寝ずに話し合いました。米子店を一緒に立ち上げた2人は、今、山陰エリアのトップとして全体を管轄してくれていますが、「炉端かば」のやり方の根っこは、この頃にほぼ固まった気がします。

まず大きかったのは、深夜3時まで営業したこと。最初はビルのオーナーさんの要望で始めたのですが、これが当たりました。当時、米子周辺には深夜営業の居酒屋がほとんどなかった。町の規模が小さいからこそ、年中無休でいつでも入れる店が求められていました。小さい町で、常連のお客様中心になるからこそ、逆に余裕を持ってお迎えすることが大切。だから当社の場合、それ以後、山陰に出した店は基本的に200~300席の大箱ばかりです。しかもカウンターから個室、座敷まで、あらゆるニーズに対応できる店作りをしています。この方針は今も変わりません。

もう一つは、新鮮な魚介類をメニューの主軸に据えたことですね。周りを調べてみると、近くに境港という漁港があるのに、当時、米子では魚料理を安く食べられるお店が意外に少なかった。それで、境港の業者さんを紹介してもらい、地元でとれる旬の食材を活用することにしました。この時期に培った仕入れ先との信頼関係は、後に東京進出をする際にも大きな力になってくれました。

――新宿に東京1号店を出したのが、2006年の5月。準備に2年近くかけたと伺いました。

山陰にはもう店を出す場所がなくなって、若いスタッフから「うちは都会に出て行かないんですか?」と聞かれ、「いや、東京を考えてるよ!」と勢いで言ったことが、東京進出のきっかけの一つです。ただ、2年の準備期間と言うと聞こえがいいですが、要はどこも物件を貸してくれなかった。月2回上京して、1日中いろんな街を見て回りましたが、あまりに断られ続けるので一度は止めようと考えました。でも同時に、1店舗でも出してお客様が入れば、ほかからも絶対オファーが来るはずだという自信もありました。だから、新宿店が決まった時は、すごく嬉しかったですね。

東京進出の際に、山陰の知名度がいかに低いか痛感したことで、地元への愛着も逆に高まりましたね。お客さんに真顔で、「ヤマカゲ料理って何ですか?」と尋ねられたこともありました。これじゃいけないぞ、故郷の良さ、食材のおいしさをもっとアピールしなければと思ったことも、モチベーションになりました。東京の店名にあえて、「山陰海鮮」と付けたのも、それが理由です。

その後、2008年1月には浜松町の汐留ビルディング内「ハマサイトグルメ」に東京3号店を出店。この店舗が軌道に乗ったことも、認知度を上げる意味で非常に大きかったですね。

――東京のお店では、山陰エリアとコンセプトを変えている部分もありますか?

家賃コストがまるで違うので、どうしても席数は少なくなります。フロアも厨房も狭いので、必然的にオペレーションも変わってくる。ただし、メニューの価格や客単価なども含めて、それ以外は特に考え方は変えてはいません。

主力の魚介類は、すべて境港から空輸しています。東京から見ると遠い印象があるかもしれませんが、境港は米子空港からすぐ近くなので、とれたての食材を毎朝7時とか9時の便に乗せられるのです。山陰沖の泥エビ、安来産のどじょうなど珍しい魚種も多いし、送料込みの値段でも築地に比べてかなり安い。例えば季節によって入らない魚があったり、台風が続くと東京で魚介が切れてしまうなど、当然リスクはあります。でも、だからといって境港以外から調達する考えはありません。やはり山陰産にこだわりたい。そういう時は、「すみません、うちは山陰専門なので」とご説明し、それ以外の料理で頑張るしかないと考えています。

個人的には料理だけでなく、各店で働いている山陰出身のスタッフにも注目していただけると嬉しいですね。みんな素朴な田舎の子ですけど、地元の言葉だったり、親密さをそのまま持ち込んで接客サービスしていますので。そうやって1人でも多くの方が山陰に興味を抱くきっかけを作りたいし、同時に、山陰のお店で働く若い子たちも東京で経験を積めるような、そんな好循環も生み出していきたいと考えています。

――今後の出店戦略、またその先に描いている夢についてお聞かせください。

これまでもそうでしたが、無理に店舗数を増やそうとは考えていません。山陰は自分たちの城なのでしっかり堅守しつつ、東京では出店のオファーがあって、条件が合ったところのみ検討していく予定です。それでも11月の笹塚店をはじめ、現状すでに5店舗ほど決定しています。

夢はやはり、地元の特産品を広く知ってもらうことですね。山陰の人は、あまりPRが上手くなく、そもそもエリアが東西に長いからか、同じ地域でも、ある町のおいしいものを別の町の人は知らなかったりする。だから東京に対してはもちろん、地域の内側でももっと故郷のよさを共有していきたい。そして、山陰以外にもそういう地元発信型の店を増やしていきたいですね。全国にご当地版「炉端かば」を広げていくのが、最終的な僕の夢。今、その準備を少しずつ進めているところです。

炉端かば 安来駅前本店(島根・安来)http://r.gnavi.co.jp/y039002/安来駅に隣接。デザート・サラダのバイキングが付くランチも好評で、近隣住民や車移動のサラリーマンなど、幅広い層で昼夜問わず賑わう繁盛店
山陰海鮮 個室 居酒屋 炉端かば 新宿西口本店(東京・新宿)http://r.gnavi.co.jp/a807405/東京1号店が現在の場所に2009年に移転し、1棟ビルに。1階はカウンターとテーブル席、2階はテーブルに焼き台が設置されたフロア。3階はシックな造りと色調のソファ席。4階は宴会用掘りごたつのフロアと、様々なニーズに対応可能。堺港から毎日空輸される新鮮な魚介をはじめ、山陰の魅力満載の人気店。
炉端かば 東京浜松町店(東京・浜松町)http://r.gnavi.co.jp/a807403/汐留ビルディング内の「ハマサイトグルメ」にある東京3号店。店内のイメージは漁港の食堂。料理9品に2時間の飲み放題が付いて3,500円のコースをはじめ、リーズナブルな価格で山陰の名物料理が食べられる。最大40名まで収容可能な座敷席のほか、カウンターでは、目の前の魚を選んで調理してくれるのも好評。

Profile

まつだ こうき

1974年

鳥取県米子市生まれ

1993年

高校卒業後、京都の調理学校に進学。その後、京都の老舗洋菓子就職。2年間、ケーキ職人になるために修業をする

1996年

母が経営する居酒屋「かばちゃん」に入店

1999年

米子に「炉端かば」をオープン

2004年

株式会社かばはうすを設立

2006年

新宿に「山陰海鮮 炉端かば」を出店。東京進出を果たす

Company Data

会 社 名

株式会社かばはうす

所 在 地

島根県安来市安来町2093-4

店 舗 名

「炉端かば 安来駅前本店」「炉端かば 米子店」「炉端かば 松江店」「炉端かば 米子空港ターミナル店」「山陰海鮮 個室 居酒屋 炉端かば 新宿西口本店」「山陰海鮮 炉端かば 品川店」「山陰海鮮 炉端かば 池袋店」「焼肉かば」「おばちゃまキッチン」「華はうす」「和カフェ茶々」ほか

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