2016/10/28 繁盛の黄金律

利は元にあり。食材の産地に足を向けよう

利は元にあり。食材の産地に足を向けよう -利は元にあり。これは商売の鉄則です。外食業で言えば食材ですね。ところが、外食業の人たちはこの「元」、つまり産地に自ら向かうことをほとんどしません

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Vol.62

「良いものは少ない」ことを肝に銘ずべし

利は元にあり。これは商売の鉄則です。外食業で言えば、食材ですね。ところが、外食業の人たちはこの「元」、つまり産地に自ら向かうことを、ほとんどしません。特に、小規模店や個人店の店主は、食材探究をほとんどしません。大の苦手分野と言ってもよいでしょう。

極端な表現ですが、どんなにすぐれた調理技術、調理設備を持っていたとしても、“悪い食材”をいい料理にすることはできないのです。「ふざけたことを言うな。食材に関心を持たない経営者がいるか」と、お怒りになる人もいるでしょう。しかし、食材の産地まで場所を変えて定期的に訪ねている経営者が、いったい何人いるでしょうか。

自分の胸に聞いてみてください。この5年間に、産地(漁港を含む)に行ったことが何回あったか。ほとんどゼロのはずです。「仕入れは他人まかせかもしれないが、食材を見る目は確かだ。比較・吟味して、最良の食材を使っている」と豪語する経営者もいるでしょう。しかし、高額で仕入れているはずです。自分では安く買っているつもりでも、メーカーや問屋にしっかり利幅をとられているはずです。より良質のものを、もっと安く手に入れられるはずです。産地や漁港に出向けば多くの場合、現在の仕入れ値がべらぼうであることに気付きます。

まずは肝に銘ずることです。今、自分が使っている食材の多くは、安い粗悪品か、高い良質品のどちらかであることを(高い粗悪品をつかまされている人も多い)。情報は日々、様々なかたちで飛び交っていますが、誰にでも手に入る情報のほとんどは無価値です。なぜならば「良いものは少ない」からです。英語で言うと、Good ones are few. です。このonesは、「人」と訳すこともできますし、「モノ」と訳すこともできます。人でもモノでも、「良いものは少ない」のです。これが世の常識です。

そして、生産者(漁師を含む)は、わざわざ足を運んでくれた人だけに、そして足しげく通って来てくれる人だけに心を開き、「良いもの」を差し出すことが多いのです。この場合の「良いもの」は原材料そのものでもあり、情報でもあります。

メニューを削って、勝負食材を明確にする

ただし、買い叩きに来た人に対して、あるいは一時的に買いに来た人に対して、「良いもの」を差し出すことはないでしょう。当たり前の話ですね。農業でも漁業でも、食材の生産者たちは、自分が生みだしたものに強い誇りを持っています。その誇りを傷つけるような買い方に対して、反発を示すのは当然です。その誇りに対して、尊敬の念を持って向かわなければなりません。そして、その尊敬のベースには、これから長いお付き合いが始まるのだ、という覚悟がなければなりません。

そうしたお付き合いをしている人たちを何人持っていますか。ほとんどの経営者がゼロなのではないでしょうか。電話一本かければ、いつでも何でも持ってきてくれる今の状況は非常に便利です。しかし、現状で満足していては、これから食材の質が劇的に上がることはないでしょう。また、今よりも安く手に入れることも、できないでしょう。

とはいえ外食業は、使う食材が少量多品種になりがちなビジネスです。そのひとつひとつの産地を訪ねることは不可能です。ですから、まずやるべきことは、現在の食材数を減らすことができないかどうかを考えることです。たいていの店はメニュー数が多すぎます。放っておくと、メニューの数はどんどん増えていきます。その放置の結果が現在のメニューなのです。

大胆に、今の半分のメニューで営業できないものか、を考えてみてください。1日に2つでも3つでも売れていると、なかなかカットできないものですが、思い切ってカットに踏み切ってみてください。客数は減るどころか、増えますよ。なぜならば、食材の鮮度が上がり、オーダーが集中することで、調理・オペレーションのスキルも上がります。つまり、それだけで料理の質が高まるのです。

メニューを減らし、食材を絞っていくと、わが店の「勝負食材」がはっきりしてきます。そうすると、この食材をもっと安く、もっと良質に、という気持ちが生まれます。そうなってはじめて、産地や生産者のことが頭に浮かび、外に一歩踏み出そうという情熱が湧き起こってきます。そうなれば、しめたものです。関心が集中化するだけで、向こうから情報が飛び込んできます。行くべき場所、会うべき人が自然に絞られてくるのです。

日々の営業が忙しくて「そんな暇はない」と心の中でつぶやいている人は、日々の営業の中で次第次第に感度を摩耗させているのです。そして気が付くと、今よりもさらにメニューが増えています。

つまり、“専門店”でなければ食材の品質は上がらない、ということです。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。