2012/01/31 Top Interview

株式会社鳥貴族 代表取締役 大倉忠司氏

創業以来、「じゃんぼ焼鳥」と「全品280円均一」という思い切った業態を、ぶれることなく展開してきた株式会社鳥貴族。その存在と動向は居酒屋業界へ大きなインパクトを与え、店舗数も年々増加。

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「ベーシックな価値」を磨き、未知の領域へ邁進

創業以来、「じゃんぼ焼鳥」と「全品280円均一」という思い切った業態を、ぶれることなく展開してきた株式会社鳥貴族。その存在と動向は居酒屋業界へ大きなインパクトを与え、店舗数も年々増加。2011年は過去最多の出店となり、年末には260店舗を超えた。国内2000店舗を目標に掲げ、一層の磨き込みを図る代表取締役の大倉忠司氏に、その原点と、外食産業への想いをうかがった。
株式会社 鳥貴族 代表取締役大倉 忠司 氏Tadashi Ookura1960年大阪生まれ。1978年高校卒業後、飲食店経営を目指して調理師学校に入学。卒業後、ホテルのレストランに就職。3年間ウエイターを務める。1982年、焼鳥店に勤務し店舗拡大に尽力。1985年「鳥貴族」を創業し、国内2000店舗達成を目指す。

「商品力」「店舗力」を上げ景気に左右されない店を作る

長引く景気の停滞の中、「鳥貴族」はすこぶる元気だ。平日でもウエイティング必至の店舗が多く、出店数は年々増加の一途。2011年は月平均6店舗というペースで過去最高を記録し、年末には260店を超えた。この強さの秘密は、いったいどこにあるのだろうか。

「創業時から、景気に左右されない店を目指してきました。この26年間、バブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災など、集客の厳しい時期が何度もありましたが、弊社はそれほど落ち込むことはありませんでした。むしろ、そのたびに強さを発揮したと思います。一番の要因は、むやみに時流を追うのではなく、飲食店として最もベーシックな価値を磨き込んできたことにあると思っています」と、株式会社鳥貴族代表取締役の大倉忠司氏は語る。

「ベーシックな価値」とは、商品、価格など、店の構成要素全般にわたる。商品では、その時々のトレンド業態を追ったり、ほかの食材や調理法に手を伸ばしたりせず、一途に焼鳥を究めてきた。価格は店側の都合ではなく、居酒屋業態として「お客様が望む価格」を追求し、「全品280円均一」(創業時は250円)を守り続けてきた。

「流行を追えば、その時は上昇気流に乗れるかもしれませんが、早晩飽きられてしまいます。一方、価格を上げれば、それに比例して、内装や接客など料理以外の付加価値が必要になってきます。あくまで居酒屋として最もベーシックな価値を求め続けるべきだと考えたのです。そうすることによって、いつの時代にも必要とされる店、景気に左右されない業態になることができるのだと思います」。

鳥貴族のベーシックな価値の磨き込みは徹底している。鶏肉は100%国産を使用し、タレは自家製。各店舗での串打ちにもこだわった。「タレをメーカーに発注したり、串打ちをセントラルキッチンで行なったり、コスト削減のための効率化を検討したことはあります。しかし、どうしても納得いく味ができない。弊社のタレは鳥を丸々1羽使って作るのですが、メーカーに発注すればコストの都合上などから、鶏肉エキスなどを使用せざるを得ないでしょうし、串打ちにしても鶏肉は劣化が早く、鮮度維持のためには店舗での串打ちがベスト。ここは妥協できないところでした。また、単に低価格のものを売るとなると、スタッフのモチベーションにも影響します。自信を持って商品を磨き上げ、値段以上のバリューが詰まっていることで、商品や店に対して誇りを持ってもらえます。『店舗力』を考える上で、これは非常に大きい」。

こうして培われてきた商品力と店舗力の強さは、東日本大震災後、最も顕著に表れた。スーパーやコンビニから食べ物がなくなった時、住宅地に近い鳥貴族には、食事利用のファミリーも多数訪れた。節電と自粛ムードで灯が消えたような繁華街でも、鳥貴族の店舗には客が溢れていた。「私は大阪と東京を頻繁に往復しているのですが、3~4月は、東京に近づくにつれて、景色が暗くなっていきました。でも、弊社の店は思いのほか明るく賑やか。うれしかったですね。食事利用の方もたくさん来てくれていて、私が目指した"日常利用の居酒屋"という鳥貴族の姿を理解していただけたと感じました」。

強い信念の根底にあったのは「流通革命」の居酒屋版

一貫した鳥貴族の歩みだが、時代や周囲からの誘惑がなかったわけではない。バブル時は、高級業態を作ればもっと楽に儲かるとか、内装をおしゃれにして客層を広げたらどうかとか、流行の業態も出店したらどうかとか……。しかし、大倉氏は一切手を出さなかった。その信念の根底にあったのは――。

「私が影響を受けたのは、ダイエー創業者の中内功氏が提唱した『商品価格の決定権をメーカーから、小売業や消費者サイドへ』という理念で、鳥貴族の価格設定の原点はこれです。原価率を計算して価格を積み上げるのではなく、お客様が食べたい価格、飲みたい価格に設定する。中内氏の『小売業の流通革命』を居酒屋業界でも起こしたいと考えていました。それを追求することがおもしろくて、鳥貴族以外の儲け方には関心が向かなかったのです」

あくまで消費者の視点で、店を作る。その最たる商品が鳥貴族のアイデンティティでもある「じゃんぼ焼鳥」だ。「若い頃、大きくてジューシーな焼鳥を食べて感動したことがあり、印象に強く残っていました。それをメニューに入れれば、きっと喜んでもらえると思ったのです。ところが創業当時、プロの料理人には『食べにくくてあかん』と言われてしまいました。でも私は、お客さんが驚く顔、喜ぶ顔が見たくて、メニューに入れました。他店との差別化の狙いもありましたが、なによりプロの感覚より素人の感動を優先したわけです。これこそが鳥貴族らしいところなのです。そもそも均一価格を導入したのも、行きつけのお店が230円均一の個店で、『この味で、この価格!』と感動したから。感動したことをやり、嫌なことはしない。昔も今も、特に難しいことはしていません」と、笑顔がこぼれた。

「2000店舗達成」の目標は、よりよい商品供給の手段

外食産業の地位向上と業界全体の底上げのため、ひいては店舗の第一線で働くスタッフの労働環境向上のため、若手経営者も数多く参加する勉強会にも定期的に参加し、お互いを刺激し合っている大倉氏。今後の目標は、国内2000店舗という壮大なものだ。しかし、単なる拡張戦略とは少し違う。「重要なことは、業態に合った価値をどう作っていくか。今の商品力ではまだ満足できていません。もっと魅力のあるメニューを開発し、より良い鳥貴族にするために、国内の鶏肉消費における弊社のシェアを拡大し、卸価格に影響を与えられるぐらいになりたいのです。同業他社がまねできないレベル、同じ土俵では戦えないところまで行きたい。そのために2000店舗規模にしたい。未知の領域ですが、実現への体制作りに取り組んでいます」と大倉氏。店舗数はあくまで手段。ベーシックな価値を磨き込むためと言い切るところに、鳥貴族の一貫した経営理念が息づいている。

Company History

1985年

「鳥貴族」第1号店を近鉄俊徳道駅前(大阪)にオープン

1986年

株式会社イターナルサービスを設立

1991年

FC1号店オープン(大阪・長瀬)

1998年

第10号店を出店

2000年

第20号店を出店

2002年

兵庫初進出となる阪神深江店を出店

2005年

東京初進出となる中野北口店を出店。
同年、第50号店を出店

2007年

京都、奈良に出店。第100号店出店

2009年

名古屋、千葉に出店。社名を「株式会社 イターナルサービス」から「株式会社 鳥貴族」に変更

2011年

200店舗達成、(1月)。12月上旬現在直営・FC合わせて261店舗を展開