2017/08/30 繁盛の黄金律

高齢化社会が食市場を激変させる

高齢化社会が食市場を激変させる -日本人の人口が増えるのか減るのか、高齢化が進むのか、若齢化するのか。これはもうはっきりしています。人口は減ります。そして、高齢化は一気に進みます 

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Vol.72

オフィス街やその近隣の町は、客数がどんどん減っていく

未来予測は、そのほとんどがはずれますが、唯一はずれないのが人口予測です。人口動態といわれるものですね。日本人の人口が増えるのか減るのか、高齢化が進むのか、若齢化するのか。これはもうはっきりしています。人口は減ります。そして、高齢化は一気に進みます。もはや、予測というよりは、現在進行中の事実と言うべきでしょう。

日本の外食市場を拡大してきた最大の貢献者は、団塊の世代でした。正確には1947年(昭和22年)~49年(同24年)の3年間で生まれた日本人を指しますが、出生数は3年間で800万人を超えました。この巨大な人口の塊が、70歳代に突入しつつあります。あと5年もすれば、彼らは後期高齢者の領域に足を踏み入れることになります。

食の分野で考えると、胃袋が小さくなって、かつその数が少なくなるということです。内食も外食も市場としては、確実に縮小していきます。これはすでに始まっていることであり、そのスピードは加速の一途をたどっています。一言で言えば、日本は“老人大国”になっていく、ということですね。

老人大国の食がどういうことになるか。具体的に言いますと、

  1. 出不精になる。
  2. 家で料理をしなくなる。
  3. 1回の食事量が減る。
  4. アルコールの摂取量が減る。

の4点です。

私たちは、世の中が劇的に変わる、まさにそのとば口にいることを忘れてはなりません。立地の良し悪しが変わり、商売の中身が変わり、売れるものの形が変わっていきます。

まず記憶に留めておかなければならないことは、フロム・オフィス(from office)の市場は小さくなってき、逆にフロム・ホーム(from home)の市場は大きくなっていくという点です。仕事を終えて、同僚や学生時代の仲間と居酒屋で一杯やる、という外食市場は激減します。オフィス街やオフィスに隣接する立地は、これからさらに商売が難しくなっていく、ということです。この立地は、もともと土・日曜日が商売にならないところでした。しかも、平日のお客の争奪戦は、さらに厳しさを増していきます。

出不精で調理放棄した客層が利用できる商売を考える

逆に有望なのは、住宅地を後背に持つ郊外駅周辺です。フロム・ホームのお客を引き付けることができるからです。居酒屋チェーンの中でも、この立地を有望視して、店舗の移転や新規出店を進めているところもあります。

確かに、この立地に新たなニーズが生まれていますが、昔ながらの居酒屋が求められているわけではありません。夫婦が夕食のために来店して、軽くお酒を飲む、あるいは、息子・娘家族と一緒に来店する。いわゆる三世代ファミリーレストランとして利用するお客が増えます。そうなると、子どもにも対応できる食事中心の店に変わらなければならなくなります。アルコールの比率は格段に下がりますし、このグループは「財布はひとつ」であることも忘れてはなりません。

しかし、いちばんの変化は、出不精と調理放棄(食の外部化)です。自分では作らない、そして、外出は極力しない。こういう層が厚くなるのです。1日1回くらいは自宅近くのコンビニには行く。宅食・宅配の注文頻度が高まる。出費を極力抑える。こういった行動パターンを持った層を相手に、どういう外食が成立するか。そのことを、真剣に考えなければならない時代になったのです。

この市場の獲得にいちばん力を入れているのは、コンビニです。コンビニは、この客層に合わせて、宅食や宅配も始めました。散歩がてらに外出するシニア層を、実にうまくキャッチしています。外食はこのコンビニにどんどんお客を奪われています。しかし、その場で作って、その場で提供するという商品価値や心あたたまるサービスなどは、コンビニでは提供できません。

これからの外食として有望なのは、

  • 毎日使っても飽きない、リーズナブルで居心地のよい喫茶店。
  • 日常食のベーシックをしっかりおさえた定食屋。
  • イートインも可能な、質の高い惣菜店。
  • 三世代で使っても財布に大きな負担がかからない、リーズナブルで家庭的な居酒屋。
  • やはり三世代で使える、職人が握るグルメ回転寿司店。
  • デリバリーもしてくれる専門店(天ぷら、寿司、とんかつ店など)。

立地も価格も、以前とはすっかり変わってきていることをゆめゆめ忘れてはなりません。フロム・オフィスは、これからどんどん商売が難しい立地になっていきます。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。