2018/03/30 繁盛の黄金律

さまざまなジャンルの「食べ放題」。その弱みは何か

さまざまな料理ジャンルの「食べ放題」がありますが、自店でやってみようと考える場合は、メリット・デメリットを考えなければなりません。客単価は取れるが、原価率は高い。これが食べ放題の特徴です。

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更新日:2022.10.28

Vol.79

目次
「食べ放題」は、調理がシンプルなものしかやってはいけない
結局、仕入れ力のある大手が勝者になる世界

「食べ放題」は、調理がシンプルなものしかやってはいけない

 焼肉、しゃぶしゃぶ、ピザ&パスタなどの業種を中心に、「食べ放題」が広がってかなりの年月が経ちますが、なかには中華や回転寿司のチェーンの一部でも、この「食べ放題」を導入しているところがあります。

 それらを見て「うちもひとつやってみようか」などと無謀なことを考えている経営者がいたとしたら、要注意です。“店格”はひとつもふたつも下がりますから、できれば手を染めないほうがいいでしょう。特に競合対策として始める、つまり近くの同業者が始めたから「うちもやる」というような真似は、死を招く危険性がありますから、絶対にやるべきではありません。「食べ放題」には、食べ放題のプロがいるのです。敵の手の内を知るためにも、「食べ放題」のメリットとデメリットを、しっかりと認識しておかなければなりません。

 まずメリットは、一定の客単価が取れることです。客単価というものは、メニューを活性化させ続けないと必ず下落していくものなのですが、「食べ放題」にはそれがありません。狙いどおりの客単価が取れるということが、どれだけありがたいことか、経営を安定させられるものか、外食の経営者ならば誰でも骨身に沁みているはずです。

 また、調理がシンプルになるというメリットもあります。というよりは、調理がシンプルになるような業種しか、「食べ放題」を導入してはいけないということですね。先の3つの業種、焼肉も、しゃぶしゃぶも、ピザ&パスタも、いずれも調理がシンプルです。焼肉としゃぶしゃぶはいずれも素材型で、カットした肉をお客の求めに応じてテーブルまで運べば、あとはお客が勝手にやってくれます。ピザ&パスタも、具材によって品目数はいくらでも増やせますが、調理そのものは非常に限定されます。手の込んだ調理を要する業種は、「食べ放題」には向きません。

 今、「テーブルに運べば」という言葉を使いましたが、「食べ放題」には2種類あって、料理をお客の注文に応じてそのつどテーブルに運ぶ、いわゆるテーブルオーダー式と、ブッフェテーブルにすべての料理や素材を置き、お客にそこまで取りに来てもらう方法があります。テーブルオーダー式も多いですが、すかいらーくグループのしゃぶしゃぶ食べ放題「しゃぶ葉」のように、肉はテーブルまで運びますが、そのほかの食材(野菜など肉以外の具材から、デザート、ドリンクまで)は、お客にブッフェテーブルまで取りに来てもらうやり方もあります。

結局、仕入れ力のある大手が勝者になる世界

 「食べ放題」の最大のデメリットは、原価率が高いということです。提供するメニューによっては、制限時間を設けなかったら、アッという間に原価率100%を超えてしまう可能性もあります。ピザ&パスタは“粉もの”ですから、いくら食べられても原価はタカが知れていますが、それでも具材の選択に失敗すると、これまたすぐ100%に近づいてしまいます。

 肉を主食材とする焼肉やしゃぶしゃぶで、なぜ「食べ放題」が成立するのかと言いますと、肉以外のものを積極的に食べてもらうことで、原価を降下させられるからです。普通の大人は500gの食材を胃袋に収めると満腹状態になります。ですから、原価の低い食材をできるだけ多く食べていただき、早めに500gラインに到達してもらうことです。ごはん、麺類、その他の一品ものを大量摂取してくれれば、肉類の量は当然低くなります。また、同じ肉類でも、原価の低い鶏肉を多く摂取してくれれば、原価の高い牛肉や豚肉の比率は下がります。

 つまり、食べ放題成功の勘所のひとつは、メニューの訴求に工夫を凝らし、全体的な原価率を引き下げられるかどうか、です。“散らし”の技術ですね。逆に言うと、“散らし”ができないような業種で「食べ放題」をやってはいけない、ということです。

 客単価は取れるが、原価率は高い。これが食べ放題の特徴ですが、いちばん大事なことは、人件費を下げられるということです。これができなければ、食べ放題をやる意味がありません。特にキッチンの人件費率が下がらないといけません。前述のように、調理にプロの技術を必要とするような、また、調理にやたら手間がかかるような業種は「食べ放題」に不向きということです。一定の売上規模がなければ人件費率は下げられませんので、小規模店の「食べ放題」というものは原則的にありえません。一般的に言って、最低規模でも床面積60坪は必要だと思います。

 調理領域が狭く、素材をドーンと売っていく外食を、物販型外食と呼びます。こういうビジネス領域は、仕入れ力のある大手外食業が力を発揮します。仕入れ力だけが優劣を決めると言っても、過言ではないでしょう。こういう世界で大手とまともに戦っても、なかなか勝てるものではありません。そうだとしたら、「食べ放題」のプロに絶対できないことは何か、弱みは何か、を探求して、そこを衝くビジネスを確立したほうがよほど勝ち目があります。少なくとも、高度で手の込んだ調理技術と、キメ細かいサービスを必要とする業種には手が出せません。

 「食べ放題」の話をしながら、食べ放題なんかに近づかないほうがいいよ、という話になってしまいました。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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